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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第四章 ~ランクS編~

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106 鍛錬メニュー

 既に宙図(ちゅうず)を始めたヴィオラを前に、俺は考え事をしていた。

 何故この人は杖を持っているのにスウィフトマジックを使わないのだろう? とか、夕飯は抜きだけど、明日は豪勢でいいよな? とか、司令官になったら何しよう? とか、そんな事を考えていた。

 王都守護魔法兵団団長のヴィオラ。そういえばこの人は二つ名はなかったな。二つ名はかなりの良称号になる。通称的な呼ばれ方ではあるが、これがあるとないでは戦闘に差が出てしまうだろう。

 ブレイザーなら銀獅子、ブルーツは銀狼、ベティーはこの二年の間で銀虎って呼ばれる程になり、リナなんて静かなる魔法士(サイレントウィッチ)だ。

 俺の称号の中には悠久の愚者なんて付いてるが、実際にそう呼ばれた事なんてほとんどない。からかってブルーツやポチが言ったりするくらいだ。

 あぁ、俺も二つ名欲しいな。

 そこら辺まで考えた頃、正面にいるヴィオラの激怒する様子が見えた。

 あれ? 何で怒ってるの? この人。


「っ……舐められたものね。腕なんて組んで、それで私に勝つ気?」


 怒って当然だった。

 いつの間にか俺は腕なんか組んだりしながら欠伸もしてた。いや、でちゃった。

 んー、だけどなぁ。

 この人凄く綺麗な魔法式から丁寧に魔法陣描くんだけど…………見事なまでの教科書魔法というような感じで、何をしようとしてるのかがすぐにわかっちゃうんだよなぁ。

 対モンスターであればこれも有効なんだろうけど、そこそこ魔法の研究をしている俺にとっては相手にならないレベルだ。

 この魔法式だってほら……具現式、移動式、発動式、そして俺への手加減なのか魔力軽減式まで組み込んでいる。

 後は属性さえわかってしまえば……簡単だ。見たところ、魔力を地から吸っていて少々複雑な公式となれば――


「デルタアース!」


 上級土魔法だという事がわかる。

 で、俺は魔力軽減をされている魔法だと知っているから。


「ほい、アースコントロール」


 下級土魔法を少しいじったこれで十分に対抗出来る。

 土壁に弾かれた上級魔法は霧散し、土へ還っていく。あぁ、今日俺もこうならなくてよかった。


「くっ、次は手加減無しよ! デルタアース!」


 スウィフトマジックでの上級魔法(デルタアース)。威力は未知数だけど、この速度と震える空気から――


「ほい、ロックジャベリン」


 中級のこれで対抗できる。

 地から上に向かって放たれた岩の槍がデルタアースを打ち砕く。

 ん? いやに簡単だったな? もしかして公式をいじったデルタアースじゃないのか?

 これだったらアースコントロールでもよかったかもしれない。

 しかしこれ以上やっても延々と魔法を繰り出されそうで、いつまでたってもお茶にありつけないぞ?


「まだ続けますか?」

「なっ!?」


 あ、いかんいかん。少し上からな発言だったかもしれん。

 相手を傷つけずかつ、俺の要望が通る感じでお願いしなくちゃいけないよな。

 なら……こうだろうか?


「いや、ほら。ガストンさんも待ってますし……」

「ガ、ガストンさんです……てっ?」


 あ、気を付けてたはずなのにこんな時に失敗!

 公の場では使い分けてたはずなのに……やっちまった。

 もう、これはどうしようもないぞ……!

 まったく、何で上の方にいる魔法士は皆あんなにヒステリックなんだ!?


「テンションアップ! スピードアップ!」

「ほいのほい、オールアップ」


 スウィフトマジックで二つの魔法、その間宙図(ちゅうず)を行い……これはパワーアップか。


「パワーア――――」

「ほい、パラサイトコントロール!」


 仕方ない。

 トゥース得意の手口だが、これで場を収めるしかない!


「なんですってっ!?」


 パラサイトコントロールは俺考案の魔法だし、知られていないのも無理はない。

 トゥースも知っていたみたいだが、俺の方が性能が良かったのはせめてもの救いか。

 パワーアップの魔法陣を自身の管理下におき、魔法陣の分解、そして中に込められた魔力の吸収。


「くっ……これでどうっ!」

「どうもこうも遅いですね」


 肉弾戦に移ったのか、駆け始めたヴィオラの後ろに回り込む。そして振り向いた勢いを利用して足払い。転ぶ寸前に頼りにした杖の支えを強引に奪う。

 スウィフトマジック可能数四のワイズマンロッドか。ヴィオラが転んだ隙にガストンに向かって杖を投げる。

 ガストンはそれを受け取りニヤリと笑った。

 預かっておいてくださいね。

 んー、大聖堂でポチが戦ったバルンもそうだけど、団長と言ってもこの程度なのか。

 ん? あ、やばい。大聖堂に魔術の仕掛けをしたまんまで戻って来てしまった。しかたない。あれを使うか。


「ほほい、地走魔走」

「な、何故(とど)めを刺さないの……? 今倒れた時十分にそれが出来たはずよ」

「個人的な都合です」

「……く、どこまでも馬鹿にするわねっ!」


 完全に肉弾戦に移行し、ヴィオラは冒険者ランクB程の戦士なら倒せるような体術で俺に挑んできた。

 途中隠しながら(見えてたけど)宙図(ちゅうず)していた魔法陣も、俺はパラサイトコントロールでいなしていった。

 お、そろそろ戻ってくるな。


「ど、どこを見ているっ!」

「ヴィオラさんの足下です。ほい! 十角結界!」

「…………っ!?」


 地走魔走が大地を通り大聖堂までいき、そしてそこで俺が昨日予防として放った十角結界の罠をここまで運んでくる。

 足下に展開された魔術陣が解放され、発光してヴィオラを捉え、そして捕えた。


「これは……ガストン様のっ!? いつの間にこんな複雑な魔術を……!」

「昨日ちょっと」

「ま、まさか……こうなる事を予測してっ」


 る訳ないよね。

 だけどここは格好をつけたいところだ。

 予防のために作ったものだし、嘘を言ってなければいいわけだ。


「もしもの時の備えですよ」


 相手もそりゃあびっくりだよな。どんな魔眼だって話だ。

 予知の魔眼なんて聖戦士の時代の話だぞ。確か勇者ジョルノがそれを使えたとか聞いた事がある。

 しばらくして、十角結界の魔術が消え、がくりと膝を突いたヴィオラは言った。


「……負けたわ。勝負にすらならなかったわね」

「でも、とても綺麗な式でしたよ。対人ではあまり効果を見込めませんが、モンスター相手であれば問題ないと思います」

「まるで私の発動する魔法が分かってたような口ぶりね」


 あ。


「…………完敗よ」


 ヴィオラは俺にそう言うと、右手を上げて声を張った。


「ロクス! 鍛錬内容を今一度煮詰めるわ! 今日から私も入ります!」

「はっ!」

「ガストン様! 後程報告に伺います!」

「わかった。小僧、茶だ」

「わかりました」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 フユの付き添いで俺たちはガストンの執務室へと案内された。

 こんな重要な場所に入れてくれていいのだろうか?

 ポチはガストンの了解を得ないまま近くの椅子に座り、「このテーブルの上には何もありません!」と叫び続けている。

 溜め息を吐くガストンは、机の引き出しの中から箱を取り出し、フユに手渡した。

 どうやらあれがガストン秘蔵の茶菓子らしいな。

 高級感漂う緑色の紙で包まれた箱だった。

 中からとても香ばしい匂いがして、ポチは尻尾から頭をぞくぞくとした感じで震わせた。


「東の国の煎餅という菓子だ。国交がないから手に入れるにも一苦労だが……美味い」

「匂いでわかりますよぉおお! フユさん早く! 早くしてください!」

「ふふ、わかりました」


 ポチが騒いでいる中、ガストンは頭を指差して何度か小さく叩いた。

 これは……念話連絡のサインか?


『どうしました?』

『小僧、お主何か隠していないか?』

『あー……えーっと、隠すというか今夜連絡するつもりだったんですよね。俺も昨日の晩知った事なので』

『というと?』

『国の上層部に悪魔がいるようです。ロイド、イシュタル、グレイ……全員かもしれませんし、一人かもしれません』

『何だと……? 聞かせろ』


 俺はそれからガストンに自分の知る情報を話した。

 今国がしている悪魔崇拝の事。その力を用いて悪魔は魔王を倒そうとしている事。人間は使い捨ての駒である事を。


『――――という訳です』

『ふん、胸糞悪い話だな』

『信じるんですか? 俺の話』

『思い当たる節がある。ここ数年、儂は戦魔帝に会えておらぬ。公に行われる式でのみ、それもやはり直接話すまでに至っていないのだ。それに儂も殺されかけたしな』

『ランクSのモンスター討伐の事ですよね? アイリーンさんから聞きました。黒のイシュタルの命令だとか?』

『うむ。ドッペルゲンガーが相手でな。苦労した』


 確か実体のないアストラル系のモンスターだ。

 戦う相手の姿形に似せ、その能力も模倣するとか。防御力も非常に高いため、複数人で戦わなければ勝てないと言われている。

 戦術を駆使して戦わないとダメだろうな。


『だから、夢で戦魔帝は傀儡王と呼ばれていました』

『……そうかもしれぬな』


 おや? 扉の外に誰か……この気配は、さっき戦ったヴィオラさんか。


『む? どうやらヴィオラが来たようだな』

『そうみたいですね』

「入れ」


 ガストンがヴィオラの入室を許可すると、ヴィオラは静かに扉を開けて入った。

 ガストンは座り、俺はその対面で立っていたが、ヴィオラの報告があると思い俺は脇へずれた。


「こちらが新しい鍛錬メニューとなります。目を通して――あっ」


 その紙を少し強引に貰ったガストンは、再び俺へと目を向けた。

 紙を俺の方へ向け、「見ろ」という無言の圧力が俺の足を進めさせた。

 何々? 魔法鍛錬は……まぁこんなもんだろう。

 筋力トレーニングが…………腕立て三千回とかふざけてるのか? これの五十倍はやったぞ?


『ふふふふ、五十倍か……』

『あ、まだ回線開きっぱなしだった! す、すみません!』


 強引に念話連絡の回線を切った俺は、冷や汗を感じながら隅へと下がった。


「ヴィオラ」

「はっ、何でしょう!」

「ここから……ここまで。……五十倍だ」

「………………………………………………………………………………は?」


 Oh。

因みに一日は86400秒です。


…………………………………………………………?

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