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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第四章 ~ランクS編~

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105 団長指導

 門を開くとそこは、大きな鍛錬場だった。
 そこではとてつもない大きな掛け声と気合いが、俺の胸を叩いて迎えた。

「おぉおおおおおおおっ!!」
「はぁああああああああっ!!」

 見えたのは魔法ではなく肉体を鍛錬している正兵士。

「アースランス!!」
「ファイアウォール!!」

 あえて相性の悪い魔法で受けの実践をする正兵士。

「ヘルニードル!!」
「イージスプロテクトッ!!」

 これ、防げなくちゃ一瞬で死んでしまうんじゃないか?
 だが、今のイージスプロテクトは凄いな。特級補助魔法の一つだ。
 勿論俺も使えるけど、こういった使い手が多数いるのが王都守護魔法兵団という訳か。
 その中で一つ、端の方で高出力の魔力を感じた。

「はぁああっ! ヴェストメント・サンダー!」
「ぐぁっ!?」

 ガストンが片眉を上げる。
 二年ぶり……か。元魔法大学学生自治会副会長……雷光ジャンヌ。
 正兵士を相手にちゃんと善戦出来てるみたいだな。
 艶のある見事な太腿はなりを潜め、兵団の制服をしっかり着ている。まぁそりゃそうか。
 魔力の質も向上していて、より濃密になっているし、しっかりと鍛錬をしていたという証拠だろうな。
 雷の鎧……か。出来ればあの公式を知りたいんだが、教えてくれないだろうなー。

「やめぇい!」

 後ろ手を組んでいた屈強な男兵士が一喝する。
 直後、鍛錬はピタリと止まり、迅速な動きによって整列した。
 人数は……この場にいるのは千人程か。正確な人数は把握していないが、確かこれの倍以上はいるって話だな。
 お、ジャンヌも俺の事に気付いたようだ。
 手とか振ったら怒られるだろうからやめとこうと思ってたら、もうポチが手を振ってた。いや、前脚か。

「どう思う?」

 ガストンから再び放たれた先程と同じ言葉。
 どうしてそんなに俺の意見を聞きたいのだろうか? まぁ考えてもわからないか。
 さて、この戦力。魔法士としてはかなりの戦力だ。だが、魔法士にしたって、相手があのランクSSモンスターとなると、素早い移動、そしてそれなりの筋力が必要だ。
 だからこそトゥースは俺にそれを仕込んだ。
 憎たらしいヤツだが、俺はトゥースに感謝している。これだけはな。
 そしてこの魔法士たちも、ある程度は鍛えている。
 だが、俺が鍛えた二年のある程度と、ジャンヌの二年のある程度は、おそらく途方もない差があるだろう。
 トゥースは言っていた。「筋肉は嘘を付かない」と。
 聞いた瞬間、あまりのシュールさに固まってしまったが、実際鍛えてみるとその効果は絶大で、魔法発動能力を後押しした。
 その魔法発動能力、幅の出来た動きを駆使して、俺とポチは一年前にランクSSモンスターであるカオスリザードを倒した。
 勝てたのは運も何割かあっただろう。
 この正兵士たちにそれが出来るかと言ったら。どう甘く見積もっても…………半壊はするだろう。
 だが、これをガストンに言っていいのだろうか?
 さっきは門だったから軽く言えたが、日々成長を努める者を前に言うとなると、非常に言いづらい。
 こういう時こそポチの役目なんだが、まだジャンヌに前脚を振ってるし、役に立たない。

「ただの魔法兵団だ。気を遣うでない、小僧」

 もしかして根に持ってます?
 だがよく気付いたな。アイリーンもそうだけど、よく心を読まれている気がする。

「半壊……はしますね。悪いと七割。そんなとこでしょうね」
「ランクSSのモンスターを倒すとなれば、魔法兵団は四分の一が壊滅。相手を出来たとしても四体……」
「そんな単純な計算でいいんですかねぇ」
「無論、それでは困る。知恵を貸せ、小僧」
「……………………へ?」
「何を驚いている。儂が困っていないとでも思ったのか?」

 何でも出来るスーパーお爺ちゃんだと思ってましたから。
 にしても、正兵士たちはずっと俺たちの前で待ってるんですが? きっと足が疲れてしまうぞ。
 うーん、でもガストンが頼ってくるのは珍しい。
 俺もこの人には世話になりっぱなしだし、出来る限り礼は尽くしたい。
 ここはやっぱり………………ダメ元であいつに頼るしかないかもしれないな。

「……紹介状を書きます」
「紹介状?」
「俺の知り合いなんですが……実力は聖戦士と並ぶと思います。ただ、物凄く性格が悪いので、必ず手を貸してくれるという訳ではありません」

 というか確率は本当に低い。

「世界が危うくてもか?」
「危うくてもです」
「………………………………………………………………そうか」
「だから、後はガストンさん次第です」

 ガストンの性格なら…………あるいは。

「小僧、お主はどうするのだ?」
「どういう訳か行かなくちゃいけない場所が出来まして……ははは」
「…………そうか」

 おや、少し表情が暗くなったような? どうしたんだろ?

「そ、それより、いつまでこうさせておくつもりなんですか? お茶飲むんじゃないんです?」
「茶は後だ」
「えー!? それは困りますよー!」

 ポチがその言葉を拾い、今日は絶望の日という表情になる。

「小娘、その代わり我慢出来たら儂の秘蔵の茶菓子をくれてやろう」
「余裕です!」

 今日は希望の日らしい。
 ガストンはいつの間にかポチの扱いが上手くなってるな。おや、さっきとは一転、なんだか楽しそうだな?
 ビリーに似て動物は好きなのかもな。使い魔は鼠だったし。

「それで、どうするんです?」
「ヴィオラがな、小僧の入団を認めたがらなくてな」
「………………お返事はしてなかったはずですが?」
「無論、小僧の意向もあるだろう。二年の時は小僧を変えた。だが、儂は諦めた訳ではない」

 少々語気が強くなったガストンにびっくり。
 正兵士は目を丸くし、フユは肩をビクつかせた。ポチなんか目を塞いでしまったぞ。
 確かに二年前であれば俺もここを志せたかもしれない。何よりガストンが誘ってくれた事が嬉しかった。
 だが、今は、ここに入るよりもやるべき事が多い。だから「あの誘いは魔法大学にいたからこそ」と割り切っていた。だけど……ガストンの考えはそうじゃなかった。
 時間がそこまである訳じゃない。ならここでそれを費やすべきじゃない。
 ここははっきりと断った方がいいだろうな。

「……ふ。とは言ったものの、小僧がここに収まる器でない事も知っておる」
「あ、え……え?」

 えっと、結局ガストンは何が言いたいんだ?

「そうヴィオラに話したのだ。すると何と言ったと思う?」
「さ、さぁ?」
「『それ程の戦力ならば、入れましょう』。そう言ったのだ」

 あれ、でもさっき――

「な、何で認めたがらなかった人が、急に認めてるんですかっ!」
「それは最初だけだ。小僧を司令官に据える。そう言ったら激昂したまでよ。ふん、準備が出来たようだな。力ずくで小僧を魔法兵団に入れようとしている女が、あそこで待っておるぞ」

 わぁ、本当だぁ。
 いやいやいやいや、今ガストンは何て言ったんだっ? 俺を司令官に? ガラじゃないという以前にそんな事は無理だ。
 出来る訳がない。だけどそれ程ガストンが評価をしていてくれたという事。これまた嬉しい一言だ。
 ヴィオラが正兵士の後ろから真っすぐに歩き、中央で止まる。
 俺はガストンに背中を強く押され、正兵士の隊列を割るように鍛錬場の中央へと足を運んでしまった。
「マスター、終われば茶菓子ですよ!」……これが俺の使い魔の応援。ったく、そうだな。茶は飲みたいな。
 嫌な予感は的中した。連日戦ってばっかだぞ、俺は。
 まぁ、正確にはほとんど戦ってなかったが、対人のまともな戦闘なんて……確かに久しぶりだな。

「ガストン様がな、お前を殺せるものなら殺していいと言ったわ」

 言うなよ。

「けど殺すつもりはないから安心なさい。生かしてここで飼い殺してやるわ」

 元野盗か何かですかヴィオラさん? 団長にしては口が悪いような?
 いや、国の正規軍だし、下の人間にぼろくそ言うのも仕事かもしれないしな。だから口が悪くなる…………のか?
 正兵士たちはいつの間にか鍛錬上の端に寄り、広い鍛錬場には俺とヴィオラだけになっていた。

「準備はいいかしら?」
「まだ――――」
「いくわよ」

 酷い。
 だが………………どうしよう。
 むー、どう見ても………………負けそうにないぞ?
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