125.
ブロロロロロロロッ!
ヘッドライトが暗闇を切り裂き、スモールキャンピーは冷たい石造りの通路を快調に飛ばしていく。
車内はエアコンが効いており、ダンジョン特有のジメジメとした湿気やカビ臭さを一切感じさせない快適空間だ。
窓の外では、塩茹でカニの強烈なバフ効果で超人化したおじさん冒険者たちが、相変わらず息一つ切らさずにピッタリと車に伴走していた。
「あのう、御使さま!」
並走している冒険者のリーダー格が、窓をコンコンと叩きながら声をかけてきた。
「ん? どうしたの?」
私がパワーウィンドウをウィーンと下げると、彼は少し不安そうな顔で車内を覗き込んでくる。
「ずいぶんと迷いなく突き進んでおられますが、本当にこの道で合っているのでしょうか?」
「ああ、道順なら心配いらないよ」
海のダンジョンは内部が複雑に入り組んだ迷宮で、彼らもそれで遭難してしまったらしい。
冒険者が不安になるのも無理はないが、私は余裕の笑みを浮かべてダッシュボードを指差した。
「ほら、うちには『カーナビ』があるから」
「かーなび……?」
冒険者が首を傾げながら、青白く発光するモニターを覗き込む。
カーナビの画面には、ダンジョンの地形が完全な3Dマップとして表示されていた。
私たちの現在地を示す車のアイコンから、次の階層へ続く階段までの最短ルートが、ご丁寧に赤い光のラインで示されているのだ。
『フフン! アタシがダンジョンの構造データをキャンピーちゃんに直接インストールしてあげてるからねぇ! このスーパーナビゲーションに死角はないよぉ!』
車内スピーカーから、真理のウザいドヤ顔ボイスが響き渡った。
「というわけで、絶対に迷わないから安心してついてきて」
私がそう告げると、冒険者は目を限界まで見開いた。
「おおお! その光る板が、ダンジョンの隠された道筋を指し示していると!? なんという神々しい魔導具!」
「さすがは聖女様の鉄馬車! 我らの守り神だぁぁぁ!」
冒険者たちが走りながらバンザイをし、歓喜の雄叫びを上げ始めた。
迷宮探索の最大の難関である「道迷い」を完全にスルーできるのだから、彼らが興奮するのも無理はない。
「コクッ!」
助手席に座るキャンピー(少女形態)が、ふんすっと胸を張ってドヤ顔を決めている。
相変わらず、褒められるとすぐに調子に乗る車だ。
キキィィィィッ!
それから数分も走らないうちに、キャンピーが軽いブレーキ音を立てて停止した。
「ほら、着いたよ」
私がフロントガラス越しに顎でしゃくると、そこには下へと続く巨大な石階段がポッカリと口を開けていた。
カーナビの案内通り、一切の迷いなく、あっという間に第一階層を突破してしまったのだ。
「す、すげえっ! 本当に階段を見つけてしまった!」
「普通なら何日もかけてマッピングする広さなのに、こんな一瞬で……!」
冒険者たちが階段を取り囲み、信じられないものを見るような目でキャンピーを拝み倒している。
「聖女様バンザーイ! 御使さまバンザーイ!」
むさ苦しいおじさんたちの熱烈なコールがダンジョンにこだまする。
私はハンドルに肘をつきながら、その光景をぼんやりと眺めていた。
ふと、私の脳裏にある疑問が浮かび上がってきた。
……あれ?
キャンピーは物理で魔物を轢き殺し、即死トラップをタイヤで粉砕し、ハザードランプで重傷者を回復させ、カーナビで迷宮の最短ルートを案内している。
さらに外では、バフで強化されたおじさんたちが喜んで前衛を務め、索敵から露払いまで完璧にこなしてくれている。
「スミコ! 早く次の階層に行くのです! 妾はもっと新しい馳走が食べたいのです!」
後部座席では、テンコがふさふさの尻尾をパタパタと振りながら、次のご飯の催促をしている。
ソーちゃんは私の膝の上で「むにゃむにゃ」と寝言を言いながら爆睡中だ。
全員がそれぞれの役割(?)を全うしている中、私は一体何をしているのだろう。
運転席に座っているだけで、ハンドル操作すらキャンピーの自動運転に任せっきりだ。
私がやったことといえば、さっきお湯を沸かしてカニを塩茹でにしたことくらいである。
……まじで、私いる?
私は自分の存在意義が急速にゲシュタルト崩壊を起こしていくのを感じた。
主人公なのに、戦闘も探索も回復も、すべて相棒のキャンピングカーと勝手についてきたおじさんたちで完結している。
私はただの添乗員、あるいは車内販売の売り子ではないのか。
「ぐはぁっ……!」
私は目に見えない巨大なハンマーで後頭部を殴られたような衝撃を受け、ガックリとハンドルに突っ伏した。
そのままズルズルと運転席の足元に崩れ落ち、膝を抱えて丸くなる。
「ど、どうしたのですかスミコ! 急に項垂れて! まさか空腹で倒れたのですか!?」
テンコが慌てて後部座席から身を乗り出してくるが、私は無言で首を横に振った。
追放された先でスローライフを送るはずが、なぜかチート車の専属コック兼お世話係に成り下がっている現実。
私は深い絶望と虚無感を抱えながら、暗い階段の底へと続くダンジョンの闇を、ただ虚ろな目で見つめ続けるのだった。
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