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捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる  作者: 茨木野


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124/134

124.

給油を終えたスモールキャンピーは、再びブロロロロッ! という力強いエンジン音を響かせ、薄暗い海のダンジョンをひた走っていた。


 周囲の石壁には青白い燐光を放つ苔がびっしりと生え、不気味な雰囲気を醸し出している。

 だが、今の私たちに緊張感は微塵もなかった。


 バフ飯(ただの塩茹でカニ)で限界突破したおじさん冒険者たちが、「御使さまの道を切り拓けぇ!」と暑苦しい雄叫びを上げながら、キャンピーの周囲をジョギング感覚で伴走しているからだ。

 相変わらず異様な光景だが、私は冷房の効いた快適な運転席でハンドルを握りながら、優雅にアクエリアスを飲んでいた。


 プチッ。


 不意に、タイヤの下から何かが潰れるような、ひどく間抜けな音が聞こえた。

 まるで、緩衝材のプチプチを一つだけ指で潰したような、あるいは道端に落ちていた乾いた小枝を踏み折ったような、ささやかな音だ。


「ん? なに、今のプチッて音」


 私が首を傾げてルームミラーを覗き込むと、車内スピーカーから例のウザい声が響き渡った。


『アハハッ! 今のはねぇ、超絶凶悪なダンジョントラップちゃんが作動した音だよぉ!』


「はぁ? トラップ?」


 私は驚いてブレーキを踏みそうになったが、キャンピーは全く動じることなくスムーズに直進し続けている。


『そうそう! 踏んだ瞬間に足元から毒の刃が無数に飛び出してきて、ついでに天井から強酸の雨が降ってくるっていう、致死率99パーセントの即死トラップ!』


「いやいやいや! そんなヤバい罠なら、発動した時点で大惨事になってるでしょ!」


 私は血相を変えてフロントガラス越しに周囲を確認した。

 だが、毒の刃も強酸の雨も降ってこない。

 ただ、キャンピーの通った後の石畳が、不自然に凹んで粉々になっているだけだ。


『それがねー、キャンピーちゃんが物理的に轢き殺したの! 罠を!』


「トラップを轢き殺すってどういうこと!?」


 私は激しく背中のけぞり、ダッシュボードに渾身のツッコミを入れた。

 魔物を物理で撥ね飛ばすならまだ百歩譲って理解できる。

 だが、魔法とギミックで構築された不可視の罠を「轢き殺す」とは、一体どういう物理法則が働いているのか。


『ギャハハ! マジウケるよねぇ! 実はね、キャンピーちゃんのその立派な極太タイヤには、なんとトラップ無効化効果がデフォで備わってるの!』


「まじか!」


 私は限界まで目を見開き、信じられない思いでハンドルを見つめた。

 罠を無効化するタイヤ。

 もはやそれは車の部品ではなく、神話級のアーティファクトだ。


「おおお! 見ろ、今の罠の残骸を! 恐ろしい魔力反応があったのに、鉄の馬車が通り過ぎただけで完全に浄化されてしまったぞ!」

「さすがは聖女様! すべての邪悪をその御足で打ち砕かれるとは!」


 窓の外では、伴走していた冒険者たちが、粉々になったトラップの跡地を見てさらに熱狂していた。

 「御足タイヤ」で打ち砕かれた罠も、まさか自分がこんな理不尽な方法で解除されるとは思っていなかっただろう。


「コクッ!」


 助手席に座るキャンピー(少女形態)が、ふんすっと胸を張り、ドヤ顔で力強く頷いている。

 完全にやってやりましたよという誇らしげな表情だ。

 頭のてっぺんにあるアホ毛まで、得意げにピコピコと動いている。


「もしかしてだけど」


 私は額に浮かんだ冷や汗を拭いながら、おそるおそる真理に尋ねた。


「キャンピーって、私がまだ知らないようなとんでもない機能、他にもめっちゃ付いてたりする?」


『ピンポーン! 大正解だよぉ!』


 真理のギャルボイスが、容赦なく私の心をえぐってくる。


『ていうか、スミコちゃんってば自分の固有スキルなのに、全然使いこなせてないじゃん! マジで宝の持ち腐れってヤツ? 超ウケるー!』


「ぐはぁっ!」


 図星を突かれた私は、目に見えない矢が胸にグサッと突き刺さるのを感じて、ガックリと項垂れた。

 そのままズルズルと運転席から滑り落ちそうになる。


 確かにその通りだ。

 私はこのキャンピングカーというスキルを、ただの快適な移動式テント程度にしか考えていなかった。


 だが、この白い相棒は、魔物を極太ビームで蒸発させ、ハザードランプで重傷者を全回復させ、さらにはタイヤで即死トラップまで粉砕してしまうのだ。

 もはやこれは、車という名の戦略兵器である。


「むぅ。トラップなど、食べられないではないですか」


 後部座席では、テンコがふさふさの尻尾をパタパタと振りながら、全く的外れな文句を垂れていた。

 罠が潰れた音に反応して、ついに新しい馳走か、と期待してしまったらしい。

 涎を拭いながら、恨めしそうに窓の外を睨みつけている。


「あんたは食うことしか頭にないの」


「当然です! 食欲こそが生命の源! スミコ、妾は罠より肉が食べたいのです!」


 ぷくっと頬を膨らませて抗議してくるテンコを無視して、私は深く、深いため息を吐いた。

 自分の相棒の底知れぬスペックに戦慄しつつも、私は再びアクセルをグッと踏み込む。


 もはやこの海のダンジョンで、キャンピーを止められる存在などいないのかもしれない。

 私とチートキャンピングカーの珍道中は、勘違いを加速させるおじさんたちを引き連れて、さらに奥深く、真理の待つ最下層へと爆走していくのだった。

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※4/23(木)


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