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捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる  作者: 茨木野


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123/133

123.

 ズバァァァァンッ!


 凄まじい水しぶきと剣閃が、海のダンジョンの薄暗い通路を駆け抜けた。

 さっきまで私たちを青ざめさせていた二足歩行のサメ人間たちは、あっという間に全滅していた。


 ドサッ、ドサッと重たい音を立てて、魔物たちが冷たい石畳の上に崩れ落ちていく。

 血と潮の匂いが混じり合う中、屈強な冒険者のおじさんたちが、息を乱すことなく意気揚々と戻ってきた。


 その顔は異常なほどに紅潮し、信じられない力が湧き上がっていることに興奮を隠しきれない様子だった。


「やはり聖女様の『御使』さまの力! なんという奇跡だ!」

「ハァ?」


 私は思わず素っ頓狂な声を上げ、盛大にのけぞった。

 御使。

 どうやらそれは、さっき車内で塩茹でカニを作って振る舞った私のことを指しているらしい。


「いにしえの聖女ミカデス様の伝説にも残っているのです! 聖女の傍らには常に御使がおり、その者が作った料理を食べた者は、三日三晩戦い続ける底知れぬ力を得たと!」

「さすがは聖女様! そして御使さまもまた素晴らしい! 我らの守り神だ!」


 むさ苦しいおじさんたちが、目をキラキラと輝かせてキャンピーと私を交互に見上げている。

 そして、床に膝をつき、バンザイをしながら熱烈な祈りを捧げ始めた。


「プップー!」


 キャンピーは照れくさそうに短いクラクションを鳴らした。

 嬉しそうにフロントガラスのワイパーをパタパタと小刻みに動かしている。

 心なしか、真っ白な車体がピカピカと誇らしげに光っているように見えた。


 完全に勘違いが加速している。

 私が作ったのはただのお湯で茹でたカニだし、バフがかかったのもキャンピー(聖女扱い)の加護というより、謎の女神である真理の適当なダンジョン設定のせいだ。


 だが、いちいち訂正するのも面倒くさい。

 聖女だの御使だのと崇められるのは厄介だが、彼らがこうして勝手に前衛を務めて戦ってくれるなら好都合でもある。


 とりあえず、倒した魔物の素材はもったいないので回収しておくことにした。

 私はアイテムボックスを開き、床に転がるサメ人間のドロップ品を次々と吸い込んでいく。


 フカヒレや鋭い牙など、売ればそこそこの金になりそうな素材ばかりだ。

 生臭い匂いと、ザラザラとしたサメ肌の感触が手に残るが、背に腹は代えられない。

 家計の足しになると思えば、気味の悪い魔物の死骸も光り輝く宝の山に見えてくる。


 その間に、ガス欠になって完全に沈黙しているキャンピーへガソリンを補給する。

 私は虚空にKAmizonの画面を呼び出し、泣く泣く一番高いハイオクガソリンを注文した。


 ポチッとした瞬間、私の口座から無慈悲にポイントが引き落とされる。

 チャリン、という非情な電子音が脳内に響き渡り、私はあまりの出費の痛さに、ガックリと膝から崩れ落ちた。


 コポコポコポッ。


 空間から転がり出たガソリン携行缶のノズルを給油口に突っ込み、液体を注ぎ込んでいく。

 ツンとした特有の機械的な匂いが、辺りの磯の香りを上書きしていった。


 その間にも、薄暗い通路の奥から新たな魔物の群れが姿を現す。

 今度は巨大なウツボの化け物たちが、ヌメヌメと這いずりながら不気味な鳴き声を上げて迫ってきていた。


「おおっ! また敵が来たぞ!」

「俺たちに任せろ! 御使さまのバフ飯パワーを見せてやる!」


 冒険者たちが嬉々として武器を振り上げ、魔物の群れへと我先にと突撃していく。

 「ウォォォォッ! 御使さまのために!」という暑苦しい雄叫びが、広大なダンジョンに響き渡った。


 私は給油を続けながら、その様子をぼんやりと見守った。

 キャンピーのチャージが終わるまでは、彼らに任せておけばいい。


 自分が一切戦わなくて済むのだから、楽っちゃ楽だ。

 私はふぅと息を吐き、このドロップ品でいくら稼げるかを頭の中でニヤニヤと計算し始めた。


「むぅう」


 不意に、後部座席から不満げな唸り声が聞こえた。

 見ると、テンコがふさふさの尻尾をだらんと床に垂らし、ジト目で私を睨みつけている。


「どうしたの、テンコ」

「妾の出番が全くないのです! あのむさ苦しい連中ばかり目立って、妾の華麗な活躍が見せられないではありませんか!」


 テンコがぷくっと両頬を限界まで膨らませて抗議してくる。

 出番がないと、後で美味しいご飯を要求する正当な口実がなくなるから焦っているのだろう。

 ちゃっかり者の神獣め。


「まあ、いいよ。君は動かなくて」

「なぜですか! 妾が本気を出せば、あんなウツボの干物など一瞬でこんがり焼き払って」


 私は携行缶の最後の一滴を振り絞りながら、遠い目をして振り返った。


「動くと腹減って、また高い食費がかかるから」

「なんと身も蓋もない理由なのです!」


 テンコの悲痛な叫びが、海のダンジョンに空しく響き渡る。


 いくら神獣が強かろうと、燃費の悪さはキャンピーのハイオク以上だ。

 ただで働き、勝手に素材を量産してくれる冒険者のおじさんたちの方が、今の私にとってははるかにエコでありがたい存在だった。


 私にとって、魔物の大群よりも恐ろしいのは、毎月のエンゲル係数なのだから。


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※4/23(木)


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