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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
三章【王都編:悪魔の心】
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門番の休日

更新が遅れて申し訳ございません!年末年始で仕事が修羅場ってました。冬は事故が多くて大変です。皆様も気を付けて下さいね。

雲一つない晴天。


その中、一体の魔物が空を駆けていた。


「せんぱーい、俺達なんで行かなきゃならないんすか?門番ですしぃ、非番ですよ非番。市に行きましょうよ市に」

「馬鹿が、市民の安全を守る仕事には休みはねぇんだよ!」


空を駆ける魔物は牛ほどの大きさのある犬であった。明るい茶色の毛並みの巨大な犬は、長毛に垂れた耳を持つ、まるでゴールデンレトリバーのような見た目である。この犬は風犬と呼ばれる魔物で、犬から派生した魔物だ。人懐っこくて賢く、忠誠心が厚い性格から、冒険者や狩人が相棒として扱う事の多い魔物である。


その背に二人の男が乗っていた。


一人は風犬の手綱を握っている、四十代くらいの中年の男だ。着ている物は平均的な市民が着る服だが、中背ながらもはち切れんばかりの筋肉や、顔だけでなく耳や首などの至るところに刻まれた傷跡、厳つく凛々しい顔立ち等が、男が只者でないと語っていた。


「えぇー。そんな大袈裟な……。ただ、空に変な模様が浮かんだだけじゃないっすかぁー。たぶん、また学園の生徒のイタズラっすよぉ」


そんな中年の男に怒鳴られて口を尖らせるのは、まだ二十代になったばかりと思われる青年だった。


中年の男の後ろに座り、その腰に手を回して抱きついている青年は、ヘラヘラしていた。まず、表情がヘラヘラしている。服装もヘラヘラしている。長い茶髪も、髪型がヘラヘラしている。顔立ちもヘラヘラしているし、体つきはペラペラだ。


なんとなく、出会う全ての人間に「しっかりしろ」と言われてそうな頼りない青年だった。


「アホか、学園の馬鹿にあんな芸術的なもん作れる訳ないだろ。兵器関連で何かあったらどうすんだ」

「えー、でもぉ、折角の先輩との空中デートがぁ」

「ふざけんな馬鹿」


青年の頭に拳骨が落ちる。


中年の男の名誉の為に説明すると、彼等二人は別にデートをしている訳ではない。門番である彼等は、非番の日を利用して騎獣術の練習をしていたのだ。中年の男の騎獣術は、見た目通り一流である。後輩の青年が騎獣術がグダグダな為に、わざわざ休みを返上して特訓していたところ、先程、上空に現れた光の紋様を不審に思い、出所らしき中央広場に向かっているのだった。


殴られた頭を涙目で撫でる青年は、口を尖らせる。


「俺的には本気なんすけどー」

「分かった分かった。たく、十年前ならば大騒ぎだぞ。平和ボケには早すぎるだろ。もう良い、さっさと行くぞ」


青年の言葉に、呆れたように返した中年の男が、風犬の手綱を握り直した時。


うわぁぁぁぁ!


「ん?何の音だ?」

「あ、あれ!黒の旦那っすよ!」


いきなり響いた奇音に、首をかしげる中年の男。青年が指差す先には、ちょうど彼等が向かっていた方向から、黒翼を羽ばたかせながら向かって来る男が見えた。


「おっ、フォル坊!」


この世に、騎獣に乗らずに背中に翼のある人間はフォルテスしかいない。彼が此方に向かって来るのを見て、片手をあげて笑いかける中年の男。


「ようっ!久しぶりだ「兄さんの馬鹿っ!」は?」


バヒュンと風音を響かせながら、風犬の右横を通りすぎるフォルテス。一瞬だが、その浅黒い頬には涙が見えた?


「は?な?え?」

「ありゃあ?黒の旦那、泣いてませんでしたー?なんか、頬に赤い手形があったよーな?」


ヘラヘラと笑いながら手を顔の前にかざしながら、フォルテスが立ち去った方向を見つめる青年。自動車並みの速度で飛び去ったフォルテスの顔についた手形を、擦れ違った一瞬で見つけるとは大した視力である。


「な、泣いた?あの糞ガキのフォル坊が?」


既に大分離れた場所にいるフォルテスを見ながら、呆然としながら動けずにいる中年の男。幼い頃からフォルテスを知っている彼。フォルテスは、まだ小さな頃に、虐待に近い扱いや、実験の苦痛を受けても泣かずにいた男だ。彼が泣いたのは、兄と別れたらあの日だけ。


あれ以来、中年の男はフォルテスが泣いた姿を見たことはない。そんなフォルテスが、まるで小さな子供のようにみっともなく泣きわめいていた?


「あのー?先輩?何かまた来ましたよ?」


あまりの衝撃に呆然としていた中年の男の肩を、後ろから叩く青年。我に返った中年の男が振り返ると、そこには……。


「フォルテスー、待って下さいましぃぃぃ。叩いちゃって、ご免なさいでございますぅぅ!あれ?何処でございますか?何処行っちゃったのでございますか?フォルテスぅぅぅ?」


小さな少年を腹に抱き付かせた金髪の青年が、泣きながら飛んできた。背中から生やした白い翼を羽ばたかせ、不安定な様子で空を飛んでいた金髪の青年は、二人を見つけると、一時停止して彼等に近付いて来た。


「失礼致します。わたくしカリダ・アーエルと申す者でございます。実は人を探しておりまして、此方に年甲斐もなく泣きわめく黒い男性は来ませんでしたでございますか?」

「!!!!」


金髪の青年を見た中年の男は、まさに天地がひっくり返ったように驚愕し、思考を止めて硬直した。


「え?あ?あっちです」


涙を引っ込めて、微笑みながら右手を左胸に置いて一礼するカリダと名乗る男。その気品溢れる雰囲気と凄まじく美しい声に、言われるがままにフォルテスが立ち去った方向を指差す。


「あちらでございますか……ありがとうございます。それでは……」


再び一礼した金髪の青年は、青年が指差す方向に向かおうとしたが直ぐに戻ってきた。


「あの、もしや貴方様がたは軍のお方でございますか?」

「ああ、はい」


一応、軍属である中年の男の風犬の首には、軍属の証の首輪をはめている。それを見て彼等の素性を確認した金髪の青年は、パアッと表情を明るくして近付いてきた。


「申し訳ございませんが、この子を広場の林の中にいるフォルテス・パクスの部下の方々に送って頂きませんか?」

「不服ながら、よろしくお願い致します」

「あ、はい」

「それでは、失礼致しますでございます」


何故かフグのように膨れっ面である、蜻蛉の羽根が生えた少年を受け取った青年は、純白の翼を羽ばたかせながら立ち去る金髪の青年を呆けながら見おくるのだった。


「生きてた……?」


中年の男の呟きは誰の耳にも届かない。

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