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異世界に必要なのは行政でした ~元・役場の離島移住促進担当、勇者も魔王も受け入れます。チートなし異世界内政/開拓スローライフ〜  作者: nanananaca
第一章 灯り島行政相談所

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9/17

【記録 No.009】前例のない島

それから数日。

灯り島には、少しずつ日常ができ始めていた。


朝になると、ペルは森へ入り、木を選ぶ。


フェルガは子どもたちに仕事を教えながら、保管庫の建設を進めていた。


リリアもまた、ときどき相談所へ顔を出すようになった。


「おはよう」

「おはようございます」


それだけ言って帰る日もあれば、


「海で変な魚を見つけた」


そんな他愛もない話だけをして帰る日もあった。


相談はせずとも相談所の椅子に座り、お茶を飲みながら皆と話す時間が、いつの間にか日課になっていた。


拓海も、それを止めることはなかった。


行政リンクも、以前のように支援制度を勧めることはなく、静かに待機したままだった。


「……なんか、相談所っぽくないね」


ある日、リリアが笑う。


「そうでしょうか」


「うん。役場ってもっと堅苦しいと思ってた」


フェルガも小さく笑った。


「私も最初は怒られる場所かと思っていた」


相談所に笑い声が広がる。

そんな日が、何日か続いた。


そして、ある朝。


相談所の扉が静かに、

だが迷いなく開くとリリアが顔をのぞかせた。


いつものように「おはよう」と言うかと思ったが、そのまま拓海の前まで歩いて止まった。


拓海はリリアに気付き顔を上げる。


「今日はどんなお話ですか?」


リリアは首を横に振り、

少し息を吸ってから、真っ直ぐ拓海を見た。


「……住民登録、お願いしたくて」


行政リンクが淡く光る。


+

【住民登録】

登録候補

・リリア

・フェルガ

・フェルガの子ども ×2


<< 登録可能です >>

+


二人の会話を聞いていたフェルガは

丸太を削る手を止めた。


「……私はまだ役に立っていない」


拓海は静かに言った。


「住民登録は、労働者登録ではありません」

「ここで暮らす意思がある人を登録します」


フェルガは短く息を吐いた。


「……なら、私たちもそろそろ登録するか」

「子ども達も、ペルによく懐いているようだしな」


窓の外で子どもたちが枝を振り回していた。

ペルがちらりと見る。


リリアは少しだけ笑った。


「この前ね」

「"相談がなくても来てください"って言ったでしょ」


拓海は静かに頷いた。


「……あれ、ちょっと嬉しかった」

「だから、ちゃんと住んでみようかなって思った」

「相談所に来る理由も、作れたし」


拓海は画面に触れた。


+

【住民登録】

登録完了

灯り島住民:6名

居住条件を満たしました

地域段階:「集落」へ更新

+


行政リンクの光が少し強くなった。


誰も言わなかったが、空気が変わった。

島が一段階進んだのが分かった。


ペルは木片を抱えたまま、リリアを一度だけ見た。

フェルガは丸太を削り直した。





相談所の机を囲んで、6人が座った。

行政リンクは白紙のまま光っている。


リリアが言った。

「……前から思ってたんだけどさ、相談所って入りづらくない?」


拓海は少し考える。

「そうでしょうか」


フェルガが笑った。

「お前は役所だからな」


空気が少し柔らかくなる。


リリアは続けた。

「もっとフラッと入れる方がいいかも?」


行政リンクが勝手に光った。


+

【住民意見】

<< 記録しますか? >>

+


拓海は画面を見て、少しだけ眉を上げた。

「……勝手に記録するんですね」


笑いが起きると、

ペルが木片を撫でながら言った。

「……木」


リリアが笑う。

「ペルって、木ばっかりじゃん」


ペルは少し考えて言う。

「切る」

「植える」


フェルガが笑った。

「竜も木が無いと巣が作れん」


子どもたちが真似して叫ぶ。

「きー!」


行政リンクが更新した。


+

【条例候補】

森林管理

追加

+


リリアがふと思い出したように言う。

「空き家とかまだあるみたいだけど、どうするの?」


フェルガが丸太を置く。

「壊れたままの家なら危ない。直すなら相談所だろう」


ペルが小さく言う。

「……ねるところ」


拓海は頷く。

「空き家は相談所で管理する必要がありますね」


行政リンクが光る。


+

【条例候補】

空き家管理

<< 追加 >>

+


子どもが窓の外を指さす。

「さかなー!」


リリアが笑う。

「漁場って誰が決めるの?」


フェルガは腕を組む。

「竜は深いところへ潜れる。人族は浅瀬だろう」


ペルが言う。

「……いっしょ?」


拓海は少し考える。


お互いの生態を尊重し、衝突を防ぐためのルール。

それこそが行政の役目だ。


「共同利用の仕組みが必要かもしれませんね。お互いの領域を侵さないための境界線を引きましょう」


行政リンクが光る。


+

【条例候補】

漁場利用

<< 追加 >>

+


システムが拓海の思考を肯定するように、滑らかに文字を刻んでいく。


リリアが樹液の瓶を見て言う。

「樹液って……誰のもの?」


フェルガが言う。

「採った者のものだろう。竜の巣もそうだ」


ペルは瓶を見つめて言う。

「……あまい」


拓海は画面に触れる。


+

【条例候補】

資源の扱い

<< 追加 >>

+


子どもが船の破片を拾ってきた。

「これ、ひろった!」


リリアが言う。

「漂着物ってどうするの?」


フェルガが肩をすくめる。

「拾った者のものか、相談所か……」


ペルが言う。

「……ひろう?」


拓海は画面を見る。


+

【条例候補】

漂着物

<< 追加 >>

+


そして、リリアがふと口にした。

「じゃあさ、悪い人が流れ着いたら?」


空気が止まった。


フェルガが言う。

「追い返す」


リリアは首を傾げる。

「でも、フェルガの時みたいに事情があったら?」


ペルがぽつりと言った。

「……ごはん」


拓海は少し考えた。

行政リンクが静かに光る。


+

【条例候補】

漂着者対応

<< 保留 >>

+


拓海は画面を閉じた。

「今日は決めません。話し合うことが目的ですから」


リリアは少し驚いた顔をした。

「……そういう行政もあるんだ」


フェルガは丸太を置いた。

「灯り島らしくなってきたな」


ペルは木片を抱えたまま頷いた。

相談所の空気は、確かに変わっていた。





夕方。

海霧が浜を薄く覆っていた。


ペルが海を見ていた。


「……船」


拓海とリリア、フェルガ、子どもたちが外へ出る。

沖には、霧の向こうで帆が揺れていた。


朽ちかけた帆船だった。

帆は裂け、甲板に人影は見えない。


潮に流されるだけで、櫂を動かす者もいなかった。


翌朝。

船は浜へ静かに打ち上げられていた。


6人で近づく。

船体は古く、板は海水を吸って黒ずんでいる。


波が船底をゆっくり叩くたび、

ぎしり、と乾いた音が返ってきた。


フェルガが船縁に手を掛ける。


「……空だな」


リリアが中を覗き込む。


「誰もいない……?」


ペルは船底の影をじっと見つめている。


「……しずか」


拓海は船体に触れた。

湿ってはいるが、崩れるほど傷んではいない。


その時だった。


リリアが船を見回しながら口を開く。


「ねえ、これも漂着物になるの?」


フェルガが船体を軽く叩く。


「船も船主がいなければ、そうなるだろうな」


ペルが小さく呟く。


「……ひろう?」


子どもたちも真似をする。


「ひろうー!」


思わず笑いがこぼれた。

その笑いを遮るように、船の奥から声がした。


「勝手に俺の船を拾うな」


全員の動きが止まる。

船倉の暗がりから、一人の男がゆっくり姿を現した。


潮焼けした外套。

海水で色褪せた服。

伸び放題の髪。


どこにでもいそうな、

くたびれた船乗りに見えた。


男は甲板へ腰掛けるように立ち、苦笑する


「おいおい、ひでぇな。持ち主はここにいるぜ?」


リリアが息を呑む。

勇者時代の癖で、腰の剣に手を伸ばせるように一瞬で重心を下げた。


フェルガは子どもたちを庇うように、静かに一歩だけ前へ出た。その鋭い眼光が男を射抜く。


拓海は行政リンクを開く。

画面が激しく明滅し、小さく揺れた。


+

【漂着者】

照会中……

+


数秒後。

血のように赤い文字で、新たな表示が追加された。


+

【犯罪歴】

多数

+


フェルガの目が細くなる。


「……海賊か」


男は悪びれる様子もなく、ただ肩をすくめた。


「まぁ、昔の話だ」


その瞬間。

行政リンクがもう一度更新された。


+

【受入判定】

判定不能

+


拓海が眉を寄せる。


「……判定不能?」


さらに画面が切り替わる。


+

【生命情報】

照会中……

+


表示が止まる。

画面が、小さくノイズを走らせた。


その息が詰まるような静寂の中、不意にリリアが小さく息を呑む。


「……え?」


拓海が振り向く。

リリアは男の顔ではなく、その『身体』の向こうを見ていた。


男の肩越しに──

さっきまで隠れていたはずの船の手すりが、うっすらと見えている。


朝陽に透ける、頼りない影のように。

男の体越しに、向こうの景色が透けていた。


拓海が手元のバインダーに目を落とすと、

行政リンクが最後に、バグったようなノイズと共に一行だけを表示した。


+

【対象情報】

取得できません

※エラー:対象の生命反応を検知できません

+


波が、船底を静かに叩いた。


男は自分の異変にも、こちらが凍りついていることにも何も気付いていないように、不思議そうに首を傾げる。


「……どうした? まるで"幽霊"でも見ているみたいな顔してるぜ?」


目の前にいる男は、

本当に『生きている人間』なのか──。


拓海たちの沈黙に答える者は、

誰もいなかった。

今回もお読みいただきありがとうございました!


灯り島が「集落」へとレベルアップした直後、まさかのとんでもない漂着者が現れてしまいました……! 行政リンクの「生命反応なし」のエラー、そして透ける身体。この男の正体とは一体?


そして拓海は、この特殊すぎる漂着者に対して、どんな「行政手続き」を適用するのか……!? 「この先がめちゃくちゃ気になる!」「異世界行政スローライフ、応援したい!」と思ってくださったら、ぜひページ下部の【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

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