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異世界に必要なのは行政でした ~元・役場の離島移住促進担当、勇者も魔王も受け入れます。チートなし異世界内政/開拓スローライフ〜  作者: nanananaca


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2/15

【記録 No.002】フェルガ/紅竜族(申告:なし)

それから数日。

灯り島には、少しずつ日常ができ始めていた。


朝になると、ペルは森へ入り、木を選ぶ。


フェルガは子どもたちに仕事を教えながら、

保管庫の建設を進めていた。


リリアもまた、ときどき相談所へ顔を出すようになった。


「おはよう」

「おはようございます」


それだけ言って帰る日もあれば、


「海で変な魚を見つけた」


そんな他愛もない話だけをして帰る日もあった。


相談はしなくても、相談所の椅子に座り、お茶を飲みながら皆と話す時間が、いつの間にか日課になっていた。


拓海も、それを止めることはなかった。


行政リンクも、以前のように支援制度を勧めることはなく、静かに待機したままだった。


ある日、リリアが笑った。


「……なんか、相談所っぽくないね」


拓海は少し考えて答える。


「そうでしょうか」


「うん。役場ってもっと堅苦しいと思ってた」


フェルガも小さく笑った。


「私も最初は怒られる場所かと思っていた」


相談所に笑い声が広がる。

そんな日が、何日か続いた。





そして、ある朝。


相談所の扉が静かに──だが迷いなく開いた。

リリアが顔をのぞかせる。


いつものように「おはよう」と言うかと思ったが、そのまま拓海の前まで歩いて止まった。


拓海は顔を上げる。


「今日はどんなお話ですか?」


リリアは首を横に振り、少し息を吸ってから、真っ直ぐ拓海を見た。


「……住民登録、お願いしたくて」


行政リンクが淡く光る。


+

【住民登録】

登録候補

・リリア

・フェルガ

・フェルガの子ども ×2


<< 登録可能です >>

+


丸太を削っていたフェルガが手を止めた。


「……私はまだ役に立っていない」


拓海は静かに言った。


「住民登録は、労働者登録ではありません。ここで暮らす意思がある人を登録します」


フェルガは短く息を吐いた。


「……なら、私たちもそろそろ登録するか。子ども達も、ペルによく懐いているようだしな」


窓の外で子どもたちが枝を振り回していた。

ペルがちらりと見る。


リリアは少しだけ笑った。


「この前ね。“相談がなくても来てください”って言ったでしょ」


拓海は頷く。


「……あれ、ちょっと嬉しかった。だから、ちゃんと住んでみようかなって思った。相談所に来る理由も、作れたし」


拓海は画面に触れた。


+

【住民登録】

登録完了

灯り島住民:6名

居住条件を満たしました

地域段階:「集落」へ更新

+


行政リンクの光が少し強くなった。

誰も言わなかったが、空気が変わった。

島が一段階進んだのが分かった。


ペルは木片を抱えたまま、リリアを一度だけ見た。

フェルガは丸太を削り直した。





相談所の机を囲んで、6人が座った。

行政リンクは白紙のまま光っている。


リリアが言った。


「相談所って、入りづらいよね」


拓海は少し考える。


「そうでしょうか」


フェルガが笑った。


「お前は役所だからな」


空気が少し柔らかくなる。


リリアは続けた。


「もっとフラッと入れる方がいい」


行政リンクが勝手に光った。


+

【住民意見】

<< 記録しますか? >>

+


拓海は画面を見て、少しだけ眉を上げた。


「……勝手に記録するんですね」


笑いが起きる。


ペルが木片を撫でながら言った。


「……木」


リリアが笑う。


「木ばっかりじゃん」


ペルは少し考えて言う。


「切る。植える」


フェルガが笑った。


「竜も木が無いと巣が作れん」


子どもたちが真似して叫ぶ。


「きー!」


行政リンクが更新した。


+

【条例候補】

森林管理

<< 追加 >>

+


リリアが樹液の瓶を見て言う。


「空き家って、どうするの?」


フェルガが丸太を置く。


「壊れてる家は危ない。直すなら相談所だろう」


ペルが小さく言う。


「……ねるところ」


拓海は頷く。


「空き家は相談所で管理する必要がありますね」


行政リンクが光る。


+

【条例候補】

空き家管理

<< 追加 >>

+


子どもが窓の外を指さす。


「さかなー!」


リリアが笑う。


「漁場って誰が決めるの?」


フェルガは腕を組む。


「竜は深いところへ潜れる。人族は浅瀬だろう」


ペルが言う。


「……いっしょ?」


拓海は少し考える。


「共同利用の仕組みが必要かもしれません」


行政リンクが光る。


+

【条例候補】

漁場利用

<< 追加 >>

+


リリアが樹液の瓶を見て言う。


「樹液って……誰のもの?」


フェルガが言う。


「採った者のものだろう。竜の巣もそうだ」


ペルは瓶を見つめて言う。


「……あまい」


拓海は画面に触れる。


+

【条例候補】

資源の扱い

<< 追加 >>

+


子どもが船の破片を拾ってきた。


「これ、ひろった!」


リリアが言う。


「漂着物ってどうするの?」


フェルガが肩をすくめる。


「拾った者のものか、相談所か……」


ペルが言う。


「……ひろう?」


拓海は画面を見る。


+

【条例候補】

漂着物

<< 追加 >>

+


そして、リリアがふと口にした。


「じゃあさ……悪い人が流れ着いたら?」


空気が止まった。


フェルガが言う。


「追い返す」


リリアは首を傾げる。


「でも、フェルガの時みたいに事情があったら?」


ペルがぽつりと言った。


「……ごはん」


拓海は少し考えた。

行政リンクが静かに光る。


+

【条例候補】

漂着者対応

<< 保留 >>

+


拓海は画面を閉じた。


「今日は決めません。話し合うことが目的です」


リリアは少し驚いた顔をした。


「……そういう行政もあるんだ」


フェルガは丸太を置いた。


「灯り島らしくなってきたな」


ペルは木片を抱えたまま頷いた。


相談所の空気は、確かに変わっていた。





夕方。

海霧が浜を薄く覆っていた。


ペルが海を見ていた。


「……船」


拓海とリリア、フェルガ、子どもたちが外へ出る。

沖には、霧の向こうで帆が揺れていた。


朽ちかけた帆船だった。

帆は裂け、甲板に人影は見えない。

潮に流されるだけで、櫂を動かす者もいなかった。


翌朝。

船は浜へ静かに打ち上げられていた。


6人で近づく。

船体は古く、板は海水を吸って黒ずんでいる。

波が船底をゆっくり叩くたび、ぎしり、と乾いた音が返ってきた。


フェルガが船縁に手を掛ける。


「……空だな」


リリアが中を覗き込む。


「誰もいない……?」


ペルは船底の影をじっと見つめている。


「……しずか」


拓海は船体に触れた。

湿ってはいるが、崩れるほど傷んではいない。


その時だった。


リリアが船を見回しながら口を開く。


「ねえ、これも漂着物になるの?」


フェルガが船体を軽く叩く。


「船も船主がいなければ、そうなるだろうな」


ペルが小さく呟く。


「……ひろう?」


子どもたちも真似をする。


「ひろうー!」


思わず笑いがこぼれた。


その笑いを遮るように、船の奥から声がした。


「勝手に俺の船を拾うな」


全員の動きが止まる。


船倉の暗がりから、一人の男がゆっくり姿を現した。


潮焼けした外套。

海水で色褪せた服。

伸び放題の髪。


どこにでもいそうな、くたびれた船乗りに見えた。


男は甲板へ腰掛けるように立ち、苦笑する。


「まだ持ち主はいる」


リリアが息を呑む。

フェルガは一歩だけ前へ出た。


拓海は行政リンクを開く。

画面が小さく揺れた。


+

【漂着者】

照会中……

+


数秒後。

新たな表示が追加された。


+

【犯罪歴】

多数

+


フェルガの目が細くなる。


「……海賊か」


男は肩をすくめた。


「昔の話だ」


その瞬間。

行政リンクがもう一度更新された。


+

【受入判定】

判定不能

+


拓海が眉を寄せる。


「……判定不能?」


さらに画面が切り替わる。


+

【生命情報】

照会中……

+


表示が止まる。

画面が、小さくノイズを走らせた。


誰も動かなかった。


その静寂の中、不意にリリアが小さく息を呑む。


「……え?」


拓海が振り向く。

リリアは男ではなく、その向こうを見ていた。


男の肩越しに──

さっきまで隠れていたはずの船の手すりが、うっすらと見えている。


男の体越しに。


行政リンクが最後に一行だけ表示した。


+

【対象情報】

取得できません

+


波が、船底を静かに叩いた。

男は何も気付いていないように首を傾げる。


「……どうした?」


誰も答えられなかった。

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