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聖女扱いされていますが、景観を守っているだけの紳士です 〜美しくないものを整えていたら、少しずつ世界がおかしくなりました〜  作者: 葱市場


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第5話 「働けと言われただけで世界に絶望した紳士」

 村外れの空き地。


 小競り合いの後。

 僕とサッシェ、そして知らない女性は、硬い地面に正座させられていた。


 地味に小石が脛に当たって痛い。

 でも、僕は不満なんて言わない。

 ……だって、目の前に般若ノルンが居るからね?

 ノルンの存在感は圧倒的で、僕たちは思わず身をすくめる。


「……それで、キミは何なのさ?」


 僕は、何故か巻き込まれている女性に、小声で問いかけた。

 彼女は少し戸惑いながらも、口を開いた。


「私はラティという。

 王国騎士団長の娘で、人族だ。」


「あぁ、あの頭が悪そうだった人ですか?」


 さりげにノルンが酷いこと言ってる。

 あ、ラティが悔しそうな顔してるね。

 きれいな年上女性の悔しそうな顔……うん、興味無いなぁ。


「ご主人様、話が進まないので黙って下さい。」


「えっ?

 僕何も話して……」


「お黙りください。」


「あ、はい。」


「では、続きをどうぞ」


「私はラティ、騎士団長の娘だ!

 ここに来たのは、父が失脚した原因を探りに来たからだ!

 ……まぁ、いまいち考えてもわからんから、なら本人に聞けば万事解決だと思った、以上!」


 彼女は、何故か最適解を見つけたとドヤる。

 その顔を見て、ノルンが優しい表情を浮かべてラティを見ながら呟く。


「……遺伝子が仕事をした結果、これが悲しき産物ですか」


「何かわからないが、私の存在に対する侮蔑を感じるぞ?」


 ノルンの言葉に熱り立つラティ、僕は2人の掛け合いを眺めながら思う。

 ……これがノルンとリタだったら、彫像くらい作るのになと。


「もういい!

 こうなったら偽物のせいじょ「紳士です」……え?」


「だから、僕は聖女じゃないよ?

 紳士だよ!」


 僕の言葉に混乱しているラティに、僕は親切心で口を開いた。


「僕は紳士。

 聖女なんて眉唾ものじゃないさ!

 でもってラティ、キミは僕の趣味じゃない。

 もうちょっと、造形美を磨いてから出直すといい。」


「はっ?

 えっ、紳士?

 聖女じゃない?」


「うん、キミは不合格って事さ」


「では、貴女は何だ?」


「僕かい?

 僕は紳士にして美の奴隷さ!」


 ……決まった!

 まさに僕的格好いい台詞だ。

 きっとこれでみんな、僕の美に釘付けだね?


「ならば……父の迷いの元を断つ!」


 ラティはそう言いながら、懐からナイフを取り出して切り掛かろうとした。

 その瞬間、顔面から地面にダイブする。


「へぶっ!」


「雑魚ですね」


 ノルンは無表情のまま告げ、サッシェも笑いながら付け加える。


「これは見事に雑魚っす」


 リタが、心配そうに小さな声で囁く。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


 僕は、冷静にラティを観察する。


「ん〜……やはりそそらないなぁ。」


 ラティは、半泣きのままヨタヨタとナイフを振り回す。


「お、お前、おまえらぁぁあっ!」


 しかし僕たちは、揶揄いながらも余裕で回避。

 ノルンも、無表情にナイフをギリギリでかわしながら、静かに煽る。


「雑魚が怒った(っす)!」


 サッシェと共に揶揄いながら、僕たちは軽やかに退く。

 ラティは息を荒くし、半泣きでナイフを振り回す。

 その光景を見ながら、僕は小さく呟く。


「……うん、パッションを感じるね?」


「おま、お前だけはっ!」


「おっと、おイタはその位にしときな?」


 ラティのナイフを振り回す手を、横から素手で掴んだおじさんが、そう言いながら慣れた手付きでラティを拘束する。


「なっ!

 は、離せ!」


「村の中で暴れられると、俺としては見過ごせないんでね?」


「貴方には関係ない!

 良いから離せ!

 アイツを殺せないじゃないの!」


「いやいや、それ聞いてそうですかと言うヤツいねぇって!」


 暴れるラティを、手際良く制圧したおじさん。

 僕は、そのおじさんを観察していた。

 いつの間にか、おじさんと僕との間に居るノルンも、おじさんを観察していた。


「良かった、間に合った。」


 そんな中、どこかに行っていたリタが戻って来て、安堵した声を出す。

 隣には、ローブ姿の見知らぬ女性も一緒だ。


「あのおじさん、リタの知り合い?」


「はい、村付きの冒険者さんで、ホルツおじさんです。

 こちらは同じく冒険者のリツィアお姉ちゃんです。」


 リタに紹介されたローブ姿の女性、リツィアが親しげに手を振って来る。


「で、コイツはふんじばってしまっていいか?」


 既に、両手を後ろ手に縛られたラティを地面に押し付けながら、ホルツが聞いてくる。


「ん〜、僕は関係者じゃないからねぇ……どうしよっか?」


「いや、滅茶苦茶アンタのこと睨んでいるけど?」


「僕は美しいからね、目が離せないのも仕方のない事さ!」


「おい、リタ?

 コイツ会話が成立しないぞ?」


「聖女さまですから!」


「いや、聖女は……まぁ、いいか……」


 僕の語った真理を理解出来なかったのか、頭の悪そうなおじさんことホルツは、頭を掻きながら何か納得したみたいだ。


「よっ!っと。

 それじゃ、俺はコレを村のギルドに運んで行くけど、リタもあまり村外れの方には行くなよ?」


「おいっ!

 私は荷物じゃないぞ!

 物みたいに肩に担ぐな!」


「おっと、あまり暴れると顔面から落とすぜ?」


「うん、聖女さまと一緒だから大丈夫だよ。」


「それじゃ……リツィア、行くぞ?」


「ええ、了解よ。

 リタちゃん、またね?

 あと、其方の方々もリタちゃんを宜しくね?」


「……お任せ下さい。」


「了解っす!」


「バイバイ、お姉さん。」


「リツィアお姉ちゃんもまたね〜」


 リツィアとホルツ、あと荷物一個をお見送りした僕は、ふと大事な事を確認して居ない事を思い出す。


「そう言えばさ、リタのママとの交渉はどうだったの?」


「はい、交渉は無事に終わりました。」


「で、結果は?」


「人形製作の権利については、1億ペソで手を打つそうです。

 凄いですね。

 王都でも屋敷が建つ額ですよ。」


 ノルンの報告にあった通貨単位に、首を傾げる僕だったけど、取り敢えず気にしない事にする。


「ふ〜ん……まぁ、いいや。

 それじゃあ、これで僕はリタをモデルにし放題って事だね?」


「……そうですね、お金を払えばですが。」


「うん、じゃあ払っといて?」


「……ありませんが?」


「……は?」


 ノルンの言葉に唖然とする僕。

 ……ちょっと何言ってるか分からない。


「我が家には、現金の類は有りません。」


「……マジで?」


「はい、1ペソも有りません。」


「じゃ、じゃあ、僕はこれからどうやって人形製作をするのさ!」


 衝撃の事実に、僕が苛立ち混じりに問い詰めると、ノルンの言葉にはトゲしか無かった。


「それです。

 どこぞの穀潰しが、換金用の素材を片っ端から人形の素材にしたからです。」


「だって、今までに使った事がない素材だよ?

 そんなの使うに決まってるじゃん!」


「……明日からは、庭に生えてる草を食べて下さい。」


「土粥なら作れるっすよ?」


「ノ、ノルン達は?」


「ウチらは、お給金あるから大丈夫っす!」


「蓄えは、人として大事な事ですから。」


「……ウソでしょ?」


「嘘かどうかは、明日にはわかりますよ?」


「僕はキミ達のご、ご主人様だよ?」


「ええ、穀潰しのご主人様ですよ?」


「ちゃんと、造形に拘って土粥作るっすよ!」


「いぃぃやぁぁあ!」


 僕の人生最大のピンチだった。


 それから少し過ぎた頃。


「待て、私は王国騎士団長の娘だ。

 決して怪しい者ではない!

 ましてや犯罪者扱いなぞ有り得ない話だ!」


 平屋建ての古い建物の一室。

 格子の嵌った窓と古い木机。

 それに椅子しか無い狭い部屋で、ラティはホルツ相手に荒ぶっていた。


「じゃあ、何でナイフなんて振り回していた?」


「それはあの偽聖女を成敗するためだ!」


「つまり、殺人未遂じゃねぇか?」


「違う!」


「いや、ナイフで人を殺そうとしたんだよな?

 それは、世間様では殺人未遂っていうんだよ!」


「正義の為だ!」


「何の正義だよ!」


 ホルツがウンザリした顔で諭すが、ラティには何も伝わっていなかった。


「父の汚名を濯ぐ為、必要なんだ!

 だが、賢い私は知っているぞ?」


「……碌でも無い事だろうが、一応聞いてやる。

 言ってみろ?」


 何となく面倒そうな顔のホルツに対し、ラティは自信満々で得意気に言った。


「今、私を解放するならば、今回の件は不問にしてやっても良いぞ?」


「やっぱり碌でもなかった!

 てか、それを今のお前が言っちゃダメだろ?」


「なんだ?

 ……そうか、わかったぞ。いくらだ?」


「はぁ?」


「こう言う時の対処法も賢い私はちゃんと習っている。

 アレだ、要するに金だろ?

 実は、名前を言うなと言われているが、私にはハンツ公爵がついている。

 だから私の身代金は、ちゃんと払ってくれるらしいぞ?

 どうだ、これで大丈夫だろう?」


「……いや、それって俺に話しちゃ駄目なんじゃないか?

 てか、そもそも言うなって言われてんじゃねぇか!」


 ラティの独白に、引き攣った顔でツッコミを入れるホルツの様子を気にせず、ラティは何故か得意気に先を話す。


「ああ、ハンツ公爵にもそう言われている。」


「……そうかぁ、色々と苦労してそうだなぁ?」


 可哀想な子を見る目になったホルツの言葉に、嬉しそうにラティが話す。


「おおっ!

 わかってくれるか?」


「ああ、わかるよ……

 お前の周りの人達の苦労がな。」


「ん?

 何で周りなんだ?」


「まぁ、何だ……

 取り敢えず、1週間の奉仕活動って所で良いか……

 馬鹿っぽいしな、悪意は無いだろ。」


 面倒になってきたホルツは、穏当に終わらせる事にしたのだが……。


「ふむ、何かわからないが……

 これで私は晴れて自由の身だな?」


「いや、だから奉仕活動だって、自由の身じゃねぇ!」


「ふふふ……

 では、こうしてはいられないな?

 早速あの偽物を成敗してくれる!

 首を洗って待っていろォォォっ!」


「あ、だから話聞けって!」


「うぉぉおおおっ!」


 そう叫び、ラティは勢いよく部屋を出て行った。


「マジか……本当に行っちまった。」


後に残されたのは、呆然とするホルツだけであった。



「どこだ?何処にいる?」


 あれからラティは、勢いそのままに偽物の聖女を探していた。

 騎士団長を冤罪でクビになった父、その原因と教えられた聖女。

 お城で出会ったハンツ公爵が、良くわからないが、路銀まで出してくれた。

 故に、自分は正義を行使しなければならない。

 そうラティは自分に言い聞かせていた。


「正義の人、ハンツ公爵の為にも、頑張れ私!

 やるぞー!」


 意気揚々とラティは走る。

 目的地はわからない。

 でもきっと大丈夫。

 だって正義の為だから……。


 勢い余って村を飛び出したラティは、そのまま道なき道を突き進む。

 そして、村近くにある山の洞窟へとたどり着いた。


「しかし、この辺りは魔物や危険な野生動物も出ないな。

 きっと、父の手腕で守られていたのだろう。」


 細かいことは気にしないラティは、そう結論づけると、今夜の寝床にこの洞窟を利用することにした。


「なんか、カサカサと音が聞こえるが、まぁ、いいか。」



 一方その頃、僕は物思いにふけっていた。

 

「お金、お金かぁ……そうだ!」


 あれからリタと泣く泣く別れた僕は、取り敢えず屋敷に帰っていた。

 自室の作業台に座って、ぼんやりと考える。

 そして、賢い僕は閃きました。


「ノルン、お金頂戴?」


「はぁ……

 あげると思いますか?」


「ノルンは僕が好き、だから僕の願いは極力叶えてくれると思うんだ」


「……典型的なクズの考えですね。

 取り敢えず、ハローワークに行ってから言ってみて下さい。」


 何故かそっぽを向くノルン。

 まぁ、いい……僕には忠実なメイドがもう1人いるんだ。


「ん〜、じゃあ有紗?」


「一昨日きやがれです。」


「みんなケチ臭いなぁ。

 僕の創作の為なんだからさ、少しくらい良いじゃんか。」


 不甲斐ない2人の反応に、僕は僕の正当な権利を主張したんだ。

 そしたらさ、ノルンが酷いことを言い出した。


「では、ご主人様の人形を質種になら良いですよ?」


「な、なんて人手無しな事を言うんだ!

 僕の人形は僕だけの物なのに!」


「何処の剛田武さんですか……」


 呆れ顔のノルンを見て、僕は諦めることにした。

 僕は理解あるご主人様だからね?


「仕方ない、何か楽して稼ぐ方法考えるかぁ」


「……発想がニートですね?」


「そんなに褒めるなよ、照れるじゃないか。

 まぁ、取り敢えず創作活動の為、頑張れ僕!

 やるぞー!」


 お金かぁ……どこかに落ちてないかなぁ?



 あれから数日。

 僕は屋敷の自室で考えていた。


「何を考えているのですか?」


 いつも通り、側に控えるノルンが聞いてくる。


「何って、どこかにお金が落ちていないかなぁって」


 僕は真面目にそう答えたら、ノルンの目が冷たくなった気がした。


「……働くという選択肢は?」


「僕が?

 ……それならさ、ノルンが冒険者になって僕を養ってよ?」


 冗談5%本気95%で言ってみたら、ノルンが目を合わせてくれなくなった。

 なんかゾクゾクしちゃう。


「……今夜は、サッシェ特製の土粥にしますね」


「へっ?

 ……嘘でしょ?」


「嘘も何も、そもそもご主人様の体は人族では無いのですから、問題は無いでしょう。」


 ノルンのその冷酷な言葉に、僕は猛然と抗議する事にする。

 僕は僕が認めたもの以外、お断りなんだ。


「待って、この僕が土粥なんて食べたらさ、僕の世界が許すわけが無いじゃないか!」


「なら働けニート」


 あ、その目……ゾクゾクしちゃう。


「酷いっ!

 有紗〜っ、ノルンが酷い事言った!」


 僕は一縷の望みをかけて、部屋の入り口に居た有紗に助けを求めてみた。

 でも、いつも的確に甘やかしてくれる有紗が、その整った眉を曲げ困った表情を作る。

 ……あれっ?

 これって、思った以上に不味い状況だったりする?


「私も、流石にそろそろマズイと思います。

 それに、冒険者ならばご主人様が必要とする人形の素材等も手に入るかと」


「……ふむ、それは一理あるね?」


「市場に流れない素材も、冒険者ならば手に入るかと……。」


「流石は有紗!

 どこかの冷酷メイドとは大違いだね?」


「……では、サッシェに夕食のオーダーをして来ます。」


「待って、土粥じゃないよね?」


「裏庭で素材の採取が有りますので、私はこれで失礼します。」


「待って、謝るから!

 ちゃんと謝るから!」


「では、ご主人様は今後は、冒険者として働くと言う事でいいですか?」


「あ、うん。

 いや、それよりも今はノルンを……」


「では、早速近くの村にあるギルドへ、繋ぎをとっておきます。」


「あの、有紗?」


「村へは、明日向かう予定で日程を組んでおきます。

 では、夕飯になったらお呼びしますので、私は一旦退出させて頂きます。」


 そう言って有紗は一礼して部屋を出て行った。

 取り残された僕は叫ぶ。


「いや、だから僕の夕飯!」


 その時――ふと、気付いた。

 僕は今、無一文。

 明日から、土粥生活。

 そして――

 

「……働く?」

 

 世界が、歪んだ。

 色彩が抜け落ちる。

 美が、消える。

 

「そんな……馬鹿な……」

 

 僕は膝から崩れ落ちた。

 

「この世界は……」

 

 震える声で、呟く。

 

「美を理解していない……」

 

 そして、僕は絶望した。

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