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聖女扱いされていますが、景観を守っているだけの紳士です 〜美しくないものを整えていたら、少しずつ世界がおかしくなりました〜  作者: 葱市場


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第28話 「お客さん、正義どうっすか?」

拝啓 ご主人

 サッシェっす。

 ご主人が有紗たちに追放されたあの日、庇えなくてごめんなさい。

 私ね、ご主人が大好きなんすよ?

 あ、知ってる?

 でもね、どのくらい好きかはわからないっすよね。

 私ことサッシェは、ご主人のことが大大大大好きっす。

 だから、ご主人が居ないと、大好きな料理も出来なくなるっす。

 好きな人が居ない毎日は、無味無臭で時々全部壊したくなるっす。

 だから決めたっす。

 今、何処で、何をしているかわかんないっすけど、ご主人に会いに行くっす。

 待っていてくださいっす。

 美味しい料理、いっぱい作ってあげるっすよ。

 敬具


 ――紙が、わずかに震えていた。


「……サッシェは可愛いなぁ。

 こんなに僕のこと愛してるなんてさっ!」


「……こ、ころしぇぇえっす!

 こんな、こんな辱め……一思いに逝くっす!」


「いいよ、いいよぉっ!

 その表情、まさに乙女だねぇ?」


「……や、やめるっす!

 それ音読するやつじゃないっす!

 今すぐ燃やすっす!」

 

 顔を真っ赤にしてうずくまるサッシェ。

 その周りを、面白がってぐるぐる回る聖女。

 

「いやー、いい手紙だよ?

 純愛って感じでさぁ」

 

「純愛で済ませないでほしいっす!!」

 

「……俺はまた、何を見せられてるんだ?」


 恥ずかしがり顔を両手で隠してうずくまるサッシェの周りを、囃し立てながら回る聖女を見ながら、ホルツは呆れ顔で問いかける。


「――で?

 お前さんが来たってことは――」

 

 サッシェがゆっくりと顔を上げ、ホルツを見る。

 

「……ご主人とホルツを探しに来たんす」

 

 小さく、しかしはっきりと答える。


「……何があった?」


 サッシェの、その今にも泣きそうな顔を見たホルツの表情が引き締まる。


「……カーミラさんたちが、死んじゃったっす」


 その言葉に、悲痛な顔を浮かべたまま、ホルツが低い声で尋ねる。


「……どこのどいつだ?」


「王国の騎士団としか、わかんなかったっす。

 私は、ノルンさんから言われて来たっすから……」


「ノルンはなんて言ってた?」


「今はまだ待てって、その時が来たらわかるって言ってたっす」


 暫し、目を瞑り黙祷を捧げたホルツは、目を開くと腰にいつもの長剣に差し、外套を羽織る。

 

「……ちょっと出掛けてくる。」


「どこ行くのさ?」


「……ギルドに野暮用でな。」


「あ、待って、僕も一緒に行くよ!」


「わ、私も行くっす!」


 ホルツの唯ならぬ気配を感じた聖女とサッシェが、慌ててホルツの後を追った。



 ――その頃、王都近郊の村。

 騎士団詰め所では争いが起こっていた。

 

「見よ、これが正義だっ!」

 

 叫びと同時に、ラティの一閃が分厚い木製の扉を斬り裂いた。

 ――響く轟音。

 真っ二つになった扉が、内側へと吹き飛ぶ。

 

「「さすが姉さんだぜ!!」」

 

「――突貫!」

 

 号令一下。

 男たちが、我先にと雪崩れ込む。

 そこにあるのは、ただの――戦場だった。



「急報、急報!

 賊徒が騎士団詰め所を急襲、第三騎士団の第七警ら隊全滅です!」


「賊徒如きに何をやっとるかっ!

 ……それで、賊徒どもはその後どうした?」


「賊徒どもは周辺の村人を吸収、その数はすでに千はくだらないかと!

 更に、賊徒どもはクーヘン男爵の身柄を要求しております。」


「この私の身柄を要求だと?

 ――痴れ者どもが!」


「……いかが致しますか?」


「愚民どもに、こちらが付き合う謂れはない!

 総員出撃準備、全軍をもって叩き潰す。

 我らが王国の正義の力、愚民どもに見せつけてやる!」


 砦が騒がしくなる。

 第三騎士団総勢二千、従僕や輜重隊を含めると総勢二千五百にもなる軍勢が、ラティたち総勢千に襲い掛かるべく、その爪を研ぎ始めた。



 その頃、ホルツたちがギルド支部に行くと、ギルドはいつもと同じく、冒険者たちの喧騒に包まれていた。


「……おやっさん!」


「おお、ホルツか……どうしたんだ?」


「……どうしたって……」


 あまりにもいつも通り過ぎるギルドマスターの態度に、言葉を失うホルツ。

 そんなホルツを、怪訝そうに見るギルドマスターに、ホルツが言葉を探しながら語りかける。


「いや、実は……カーミラのことを聞いたんだ。

 その、なんて言ったらいいか……」


「――誇ってやってくれ。」


「――誇るって……おやっさん、アイツは……」


「ああ、聖女様の、教団のために立派に戦ったんだ。

 神官様も、正義を成したと称えてくれた。

 自慢の娘だっ!」


「……な、何言ってんだ?

 教団だの神官だの、そもそも正義なんてそんなもんの――」


「きさまぁぁっ!

 教団を侮辱するのは許さんぞっ!」


「ちょっ、ちょっとまってくれ。

 おやっさん、何言って――」


「教団の教えこそ全てだっ!

 人々の幸せのため、偽りの教えを廃し、正しい世界を実現出来るのは、エヴォナの園の教えだけなんだぞ!」


「「「そうだ、教団の教えこそ真理だ!

 エヴォナの園に祝福を!

 我らが同志、カミーラに祝福を!」」」


 その普段と違い、血走った目。

 周りの顔馴染みだった者たちの目も、表情も同じだった。

 狂気を感じるその目を見て、ホルツは全てを悟った。


「……おやっさん、俺は――」


 それ以上語る言葉を持たなかったホルツは、俯いたままギルドを後にした。

 その背後では、カーミラと教団を称える冒険者たちの大合唱が響いていた。


「……はは」

 

 一部始終を見た聖女が、小さく笑う。

 

「なるほどね……」

 

 軽い声。

 だが、その目は冷えていた。

 

「――これ、結構まずいかも」

 

 聖女の視線の先には、“普通に壊れた世界”があった。


 あれから宿に戻ったホルツが、無言で旅支度を始める。

 それを見ていた聖女とサッシェが、不安げに声をかけた。


「……ホルツ?

 急に旅支度なんてして、どっか行くの?

 僕としては、依頼とかなら一緒に受けたい所なんだけど……主に金銭的な意味で。」


「わ、私も……一緒に受けたいっす!」


「……依頼じゃねえ。

 ケジメをつけに行くだけだ。」


「……ホルツも借金あるの?」


「ねえよっ!」


「だってさ、昨日借金返せって言ってきた人が言ってたんだよ、『借りたら返す、ちゃんとケジメをつけろ』ってさ。」


「……確かに言ってたっす!」


「……いや、それはちが……わないのか?」


「じゃあ、やっぱり借金があるんだね?

 ダメだなぁ、ホルツは!

 借りたら返す、人として常識だぞ?」


「お前にだけは言われたくねえっ!」


「で、いくらあるの?

 僕と一緒で内臓売るレベル?」


「なんでそんな嬉しそうなのか知らねえが、俺に借金なんぞねえよ!

 お前こそ、いつも借金塗れじゃねえかっ!」


「大丈夫、僕は借金があるんじゃない。

 教団が払ってないだけだよ!」


「……おい、サッシェ。

 お前のご主人様、なんか前より酷くねえか?」


「……贅沢、覚えたからっすかねぇ?」


「……はぁ」

 

「……はぁっす」

 

 同時にため息が重なった。


 

 

 

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