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聖女扱いされていますが、景観を守っているだけの紳士です 〜美しくないものを整えていたら、少しずつ世界がおかしくなりました〜  作者: 葱市場


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第24話 「みんな笑ってるから大丈夫」

「偽りの神を倒せぇぇえっ!」


「我らが聖女に祝福をっ!」


 大勢の人々が、口々に叫びながら街道を練り歩く。

 参加している人は、年齢や性別に偏りはなく希望に満ちた笑顔を浮かべ、街道を王都へ向けて進んでいた。

 そして、その先頭には真新しい神官服に身を包んだカーミラの姿があった。

 カーミラは集団を先導しながら、更に言葉で集団を煽る。


「聖女さまは、我らに奇跡を授けてくださった。

 だが、偽りの女神は何をした!

 ――そう、神官が私腹を肥やす以外に、何もしていないわ!」


 彼方此方から、カーミラの言葉に対する同意の声があがる。


 (……大丈夫、私だって大司教さまのお役に立てる。

 ここで上手くやって、司祭になるのよ。)


「――大司教リタさまが仰いました。

 古く間違った信仰に堕とされた人々を救い、正しき道へと導きなさいと!

 故に、我らは行きます……王都へ!

 全ては世界の救済のために!

 全ての人々に正しき教えを!」


 カーミラが檄を飛ばした瞬間、溢れんばかりの歓声が上がった。

 そして集団は増大する。

 道行く人や街道沿いの村人、果ては冒険者や国から派遣された駐在騎士団。

 さまざまな人々が、身分の垣根を越えて集団に参加した。

 そして、集団が王都近郊の町に差し掛かった時、行手を遮る形で、騎士団が待ち構えていた。

 動揺し、立ち尽くす集団の前に、身なりの良い騎士が軍馬に乗ったまま通達する。


「私は、王国第三騎士団所属、クーヘン男爵である。

 これより、国王陛下の裁可を伝える!

 跪き、頭を低くして傾聴せよ!

 エヴォナの園を名乗る暴徒どもよ。

 今すぐ解散し、大人しく縛につくならばよし。

 さもなくば、陛下と女神様のご意向のもと、三族滅することと致す!

 ファヴリーザ王国国王、フェリエ二世

 国王陛下のご裁可である、謹んでお受けせよっ!」


 自らの言葉に動揺する集団を見下した目で見た騎士の視線が、ふとカーミラに止まる。

 軽く舌舐めずりした後、騎士は腰の剣を抜くと、更に高圧的な態度でカーミラに剣先を突き付けた。


「そこな女、貴様らが罪を改める時間をやろう。

 寛大な陛下と女神様に感謝し、その使者である私を持て成す栄誉をお前にやろう」


 その騎士の視線に悪寒を感じたカーミラが一歩下がる。


「何、そこの茂みでよい。

 さあ、準備をせよ。」


「――お断りします。

 私たちは暴徒ではありません。

 大司教リタ様の教えと、聖女様の導きによる平和と安寧の日々を広めるために、報われない人々のために、ただ平和理に活動しているだけです!

 誰にも恥じいることはありません!」


 最初こそ、騎士の態度や言葉に怯えはしたが、カーミラは毅然とした態度で騎士の前に立った。


「貴様……陛下の意思に逆らうのかっ!」


 カーミラの言葉と態度に、目を地走らせて激昂する騎士。

 その剣は高々と掲げられ――振り下ろされた。


「……えっ? わたし……司祭に……パパ――」




「やっばぁ!

 マジでこれ全部使っていいの?」


「……はい、聖女様におかれましては、常日頃から我が商会をご愛顧頂いております故、これらはほんのお礼というヤツで御座います。」


 聖域の中、聖女の屋敷の応接室に、所狭しと並べられた様々な素材たちを前に、目を輝かせる聖女と、それを目を細め笑顔で見る優男がいた。

 男は身なりが良く、取り扱う品物も一級品であった。

 聖女はすでに目の前の品に夢中になっている。


 (……聖女といっても、単なる俗物か。)


 目の前の光景を、何時ものことと思っている男の首筋に、冷たく硬い感触が走った。

 刃物を当てられたと察し、驚き首元に手を当てるが、そこには何もなかった。


「……うちのご主人様に、無礼を働くこと……許しませんよ?」


 いつの間にか背後に立つ有紗の囁きに、全身から冷や汗が出る。


「あら、ご主人様、こちらの竜のヒゲなんて、内部部品に最適では?」


 聖女の隣に立つ有紗は、先程の冷たさなど微塵も感じさせず、聖女と一緒になってはしゃいでいる。


「さすがは有紗、よくわかっているね?

 でも、それちょっとだけ高いんだよね。」


「良いじゃありませんか。

 ご主人様はこの世界の主、そのご主人様が望むのです。

 これくらい、この有紗が全て叶えますわ!」


 仲睦まじくはしゃぐ二人の女性。

 その顔には笑顔を浮かべ、理想的な主従を演じる。

 その光景を見ながら男は思う。

 

 (……なんて……気持ち悪い)


「ほんとっ?

 じゃじゃじゃじゃじゃあっ!」


「――『じゃ』が多いですわ」


 聖女はその日、心ゆくまで楽しんだ。

 

 その日の夜。

 屋敷の住人が寝静まった深夜、月明かりに照らされた屋敷の裏庭に、有紗の姿があった。


「……わかっています。

 ええ、ちゃんとあの女の痕跡は潰してます。

 遠からず、――は、失墜するでしょう。」


 一人裏庭に立つ有紗は、虚空を見つめぶつぶつと独り言を呟く。

 月明かりの中で、その瞳だけが暗く沈んでいた。



 それから数日後、教団内が慌ただしいなか、聖女はサッシェからの王都土産に舌鼓を打っていた。


「いや、見た目はアレだけど、これ凄く美味しいね?」


「美味しいっすよね。

 私も市場で初めて食べた時、マジ感動したっす!

 この外見からは想像出来ないクリーミーさと甘さ、ほんの少し感じる酸味が最高っす!」


 サッシェの感想に、逐一相槌を打ちながらもスプーンを持つ手を止めない聖女。

 その舌も上機嫌に回り、感慨深く口を開く。


「良いなぁ、やっぱり王都って都会だよねぇ。

 こんな美味しい物、この田舎じゃ食べれないよ。」


「そうっす、そうっす!

 あ、でも……ご主人なら商会に言って届けさせればいいっす!」


「でも、取り寄せって割高になるんじゃない?」


 サッシェの提案に、少しだけ真面目な表情で問いかける聖女だったが、その目は笑っていた。


「何言ってるんすか、ご主人はこの教団の聖女さまっすよ?

 そのくらいのはした金、気にしなくていいっす!」


「……そっかぁ、そうだよね?

 うるさいノルンも居ないし、お取り寄せしまくっちゃう?」


「良いっすね?

 あ、私新しい調理器具欲しいっす!」


「いいね、いいねぇ!

 この際、欲しい物全部いっちゃおうっ!」


 側付きの神官に、商会長を呼ぶように申し付けると、聖女とサッシェはノリノリで欲しい物リストの作成に取り掛かった。


「「買い物最高っす!」」


 この日から、商会の荷馬車が途切れる日は無くなった。

 


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