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聖女扱いされていますが、景観を守っているだけの紳士です 〜美しくないものを整えていたら、少しずつ世界がおかしくなりました〜  作者: 葱市場


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第18話 「美しき世界のつくりかた」

 風呂上がりの体は軽い。

 ノルンが村長に用意させた着替えに湯の余韻が残る体を包んで、四人は用意された離れの一室に集まっていた。

 

「はぁ……生き返るっすねぇ……」

 

 畳に大の字になってサッシェが伸びる。

 その隣で聖女も同じように転がった。

 

「やっぱりお風呂っていいよねぇ……

 世界が浄化された気がするよ」

 

「お前らは、まず自分を浄化しろ!

 追いついて早々に、あのじじいから苦情を聞かされた俺の身になってみろ!」

 

 ホルツが即座にツッコむ。

 ノルンはいつものように涼しい顔で座っていた。

 

「問題はすでに解決済みです。

 現状に不備はありません」

 

「どの口が言ってんだ……」

 

 ホルツが頭を抱えた、その時だった。

 ――ふと。

 聖女が、窓の外を見てぽつりと呟いた。

 

「……この村ってさ」

 

「ん?」

 

「ちょっと“バランス悪い”よね」

 

 空気が一瞬、止まる。

 

「は?」

 

「欲望が強すぎるんだよ。

 全体の“調和”が崩れてる」

 

「……最低な村ということですね」

 

 ノルンが淡々と頷く。


「……確かに、否定しづらいわね。」


 リツィアが苦笑気味に同意する。

 

「そうそう。だからさ――」

 

 聖女が、にこりと笑った。

 

「整えようよ」

 

「やめてっ!」

 

 リツィアは即答した。

 

「やめろォォォ!!」

 

 ホルツが立ち上がるが、遅い。

 聖女はすでに立ち上がり、すたすたと外へ向かっていた。

 夜の村は静かだった。

 月明かりの下、聖女は広場の中央に立つ。

 ゆっくりと両手を広げ、目を閉じる。

 

「歪みを正し――」

 

 空気が変わる。

 

「あるべき形へ」

 

 淡い光が、足元から広がった。

 

「やめろって言ってんだろ(でしょう)ぉぉおお!!」

 

 ホルツとリツィア、二人の叫びは、光に飲み込まれた。

 ――静寂。

 風の音すら消えていた。

 

「……何も起きてねぇじゃねぇか」

 

 辺りを見回したホルツが、息を整えながら言う。

 

「いえ……何か変よ」

 

 リツィアが眉をひそめる。

 そして――

 家の扉が、ひとつ、またひとつと開いた。

 ぞろり、と。

 村人たちが外へ出てくる。

 

「……おい」

 

 ホルツの声が低くなる。

 村人たちは無言だった。

 だが、その姿は明らかに異様だった。

 背筋は完璧に伸び、動きに一切の無駄がない。

 まるで、同じ型に嵌められたかのように揃っている。

 そして――

 全員が、同時に口を開いた。

 

「この出会いに感謝を……」


 暗く、月明かりが薄らと村人を照らす。

 淡い光に照らされ、村人の顔を見て――

 

「……は?」

 

 ホルツの間の抜けた声が漏れる。

 

「うん、いいねぇ」

 

 聖女は満足げに頷いた。

 

「すごく綺麗」


 ホルツの顔色と村人の顔色が、月明かりによって同化する。

 辺り一面、虫の音すら聞こえない。

 背筋に一筋、汗が流れる。

 

「綺麗じゃねぇよ!!」

 

 ホルツが叫ぶ。

 

「なんだこれ!? 完全におかしくなってんだろ!」

 

「違うよ?」

 

 聖女は首を横に振り、腰に手を当て胸を張って言い切った。

 

「僕の浄化で、無駄と不純物を取り除いただけさ!

 人も世界も、“綺麗じゃないもの”は、正しくないからね?」

 

「それをおかしいって言うんだよ!!」

 

「さすがはご主人様、とても合理的ですね。

 無駄を削ぎ落とす……実に美しい判断です」

 

「非常識枠は黙ってろ!!」

 

 ノルンの一言に即ツッコミが入る。

 

「なんか強そうっすね、この人たち」

 

「サッシェちゃん、貴女は少し黙ってましょうねぇ?」

 

 サッシェまで乗っかり、ホルツは頭を抱えた。

 

「初めてやってみたけど、まだ甘いなぁ……

 次は、もっときっちり整えないとね。」

 

 聖女が呟く。

 

「だって、僕は出来る子だからねっ!」

 

 その言葉に反応するように、村人たちが一斉に動き出した。

 

「聖女さま万歳。

 住居配置の最適化を開始します」

 

「聖女さま万歳。

 不要な物資を排除します」

 

「聖女さま万歳。

 人員の再配置を提案します」

 

「……おい」

 

 ホルツが一歩後ずさる。

 

「なぁ、ちょっと待て!」

 

「不均衡な要素を検出」


 村人たちが動きを停止する。

 そして、油の切れた機械のように、一斉にぎこちない動きで首が動く……。

 そしてぴたり、と動きが止まる。

 その村人たちの視線が集まる先は――。

 

「対象――ホルツ」

 

「なんで俺?

 ってか、その選定基準どうなってんだ。」

 

「排除を提案します」

 

「待て待て待て待て待て!」

 

 焦りからか、無意識に剣に手をかけるホルツ。

 

「聖女ぉおっ!

 コイツらどうにかしろ!」

 

「えー?」

 

 聖女は首を傾げる。

 

「でもその方が――」

 

 一瞬の静寂ののち、にこり、と笑って言った。

 

「世界は綺麗になるでしょ?」


 一瞬だけ。

 その瞳に、明確な“狂気”が宿る。

 

「やっぱお前が一番やべぇよ!」

 

 その夜。

 村は静かだった。

 あまりにも静かで、あまりにも整いすぎていた。

 誰も争わず、誰も騒がず、ただ規則正しく動き続ける。

 ――まるで。

 誰も生きていないみたいに……。

 そして、その中心で満足げに頷く“聖女”だけが、誰よりも生き生きとして見えた。



 翌朝、あれから無事にギルドに戻ってきた僕たちは、早速ホルツにギルドへの報告を丸投げした。


「……またかよ。」


 いつも通りに、不機嫌な顔をしながら報告に行くホルツを笑顔で見送った僕たちは、新たに発生した問題を話し合うために、ギルドに併設してある食堂に集まっていた。


「……で、実際にどうするつもりなの?」


 食堂の端にあるテーブルに座り、取り敢えず飲み物を頼むとすぐにリツィアがそう問い掛けてきた。


「……あの有り様です、ご主人様の近くを離れるとは思えませんね。

 何らかの処置は必要になるかと思われます。」


 リツィアの問いにノルンが答える姿を眺めながら、僕はダラリとテーブルに突っ伏した。

 そんな僕の姿を見たノルンが、眉をひそめて注意してくる。


「ご主人様、だらしないですよ?」


「だってさぁ、僕はもう疲れたんだよ。

 なんなの、あの人たちはさぁ。」


「……聖女ちゃん、貴女が原因でしょう?」


 少しだけ眉をヒクヒクさせたリツィアさんが、笑顔?で僕に言ってくる。

 ……やばっ、ちょっとだけ怒っている気がする。


「僕だってさ、こんなんなるなんて思う訳ないじゃん?

 これはまさに不可抗力だよ、なんなら被害者は僕だよ!」


「「それだけは有りません!」」


 リツィアとノルンが、声を揃えて否定してくる。

 ……二人で言ってくるなんてさ、ちょっとだけ僕は傷ついたよ。

 繊細な僕を、二人はもっと甘やかしても良いと思う。


「なんだいなんだい、二人してさぁ!

 だったら二人は僕にどうしろと言うのさ?」


「……すぐに逆ギレしてますよ、このニートご主人様。」


「聖女ちゃん、その答えを探すためにこうして話し合うことにしたんでしょ?」


 リツィアが諭すように話してくるけどさ、話して解決する問題とは思えないんだけど――。


「とにかく、あの村人の群れをどうするか?

 みんなでなんとか良い意見を出しましょう。」


「ご主人様の魅力に気付くだけ、他の凡百な人族よりはマシですしね。」


「ふっ……美し過ぎる僕。

 こうして悩む姿もまた美しい。」


 僕は悩ましげな表情で事実を述べると、軽く髪をかきあげ、テーブルに肘をついて憂いの表情を浮かべる。

 そう、問題とは、あの村の人たちが、なんでかわからないけど家財道具一式持って、村を捨てて着いてきちゃったんだよね。


「……なんか納得行かないけど、美しいのは事実なのよね、この子。」


 僕の方を見ながら、不満そうにそう述べるリツィア。

 ……良いんだよ、もっと僕を崇め奉り、褒め称えたまへ。

 そんなことを考えていたら、ふと閃いた。


「……あっ!」


「……今度は何?」


「またロクでも無いこと考えましたか?」


 リツィアとノルンが警戒しながら聞いてくる。

 でも僕は二人の態度が気にならないくらい、この閃きに心躍らせていた。


「賢い僕は考えました!

 ……宗教を作ればいいじゃない!

 この美しい僕を崇める、しもべたちのための宗教だよ!

 人気間違いなしに決まっているさっ!」


 僕のこの素晴らしい考えを聞いたリツィアは、何故か眉根を寄せて天井を仰ぎ見る態度をとってから、呆れたかのような態度で僕に話してきた。


「……またこの子はやばそうなことを……

 いい、聖女ちゃん?

 宗教というものは、作りたいからって作れるものじゃないの!

 そもそも信仰なんてものは――」


「――素晴らしいことです!

 ご主人様の素晴らしさを説き、愚民どもを正しき道へと誘う教えを授けてやり、代わりに寄付を頂く……素晴らしい考えです、今すぐやりましょう!」


「ノルンさん、貴女まで……」


「俺は良い案だと思うぜ?」


「ホルツっ!

 貴方、冗談言っている場合じゃないのよ?」


 いつの間にか報告から戻ってきたホルツが、真剣な顔で会話に割り込み、リツィアをジッと見つめていた。

 ビックリしたリツィアが声を上げる中、ホルツが真剣な声色で話始める。


「俺はいたって真面目だね……だから言っている。

 表の連中を見てみろ……アレはヤバい。」


 そうホルツに言われた僕たちは全員、食堂の窓から外を見てみると――。

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