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聖女扱いされていますが、景観を守っているだけの紳士です 〜美しくないものを整えていたら、少しずつ世界がおかしくなりました〜  作者: 葱市場


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第17話 「修羅場?風呂入ればよくね」

「……ひっぐ、うぅ……ノルンに穢されたよぉ……」


「酷いっすよぉ……嫁入り前の大事な体なのにっす……」


「人をバカにするからです!」


「……なんだよ、この状況。

 ぐだぐだな泥試合じゃねえか。」


「……酷い有り様ね?」


 ノルンがブチ切れて二人に襲いかかってから数分後、俺の目の前には、もはや言い訳のしようもない惨状が広がっていた。

 地面には、粉々になったアイアンクローチの残骸。

 その上に、ぐしゃぐしゃに倒れ込む聖女とサッシェ。

 そして――その二人を見下ろすように、仁王立ちするノルン。

 全員、例外なく“何かの死骸まみれ”だ。

 

 なぁ、神さまよ?

 ……俺はいったい何の罪で、こんなもんを見せられているんだ?

 本来なら聖女なんてもんは、アンタの管轄だろうに……。


「ねぇ、ホルツ……。

 これ、どうしよっか?」


 リツィアが困った顔で聞いてくるが、俺だってどう収集をつけるかわかんねぇよ。


「まぁ、なんだ……こういう時は、取り敢えず帰るぞ?」


「……僕、お風呂入りたい。」


「おお、そうだな?

 お風呂、そうだお風呂に入ろうな?」


「「私も入りたいです(っす)!」」


 良かった三人の意識がそれた、これでなんとか厄介なこの状況から脱することができそうだ。

 少々強引だったが、ここはこれ以上厄介なことを言い出す前に、さっさと移動するのがいいだろう。


「さ、さぁ、急いで帰るぞ〜!」


 俺はやや強引に聖女たちを立たせると、歩き始める。

 ……うへぇ、アイアンクローチの残骸に触っちゃったよ。

 汚ねぇなぁ……。



 その頃、ガズンたち山賊には絶望感が漂っていた。

 坑道の捜索に行くノルンにより仕掛けられた仕打ちに一人、また一人と消えた。


「ぐぎぎぎっ……」


 歯を食いしばり、岩しがみつくガズンの体を、腰に繋がれたロープが容赦なく崖へと引っ張る。

 すでに仲間たちはみな崖下へと消え、ガズンと繋がったロープだけが彼らの命綱であった。

 そのロープが軋み、腕が限界を迎える。

 仲間は、もういない。

 

「……俺は、負けねぇっ!」

 

 叫んだ瞬間――手が滑った。


 (ここで、こんなところで終わっちまうのか?)

 

 そう確信した――その時。

 

「……お頭!」

 

「……は?」

 

 目を開けると、そこは地面だった。

 しかも、仲間全員が普通に立っている。

 

「……これは、いったい?」

 

「騎士の旦那でさぁ」


「そうだ、私だ!

 この崖は大した高さではなかったからな、一人一人私がロープを切って抱えて飛び降りた。

 実に簡単な話だ!」


「……はぁっ?

 大した高さじゃねえって……確実に落ちたら死ぬ高さだろ!」


「なに、いつも体を鍛えているからな、このくらいの崖なんぞ、どうと言うこともない!」


「そ、それに、ロープを切ったって、ナイフも無しでどうやって?」


「そこにちょうど良い枝があったからな。

 騎士の私が扱うんだ、当然ロープくらい簡単に切れるぞ?」


「んな訳あるかぁぁあっ!

 ってかなんだ、あの虐殺メイドもだが、ここには頭のおかしなヤツしかいねぇのかっ!

 俺は人族だ!

 人族やめた連中とは関わらねぇ!

 ……二度と会うかぁぁああっ!」


 そう叫んだガズンは、村とは反対の方角へと走り去ってしまった。


「「お頭ぁぁあっ!」」


 それを見た山賊たちも、ラティを残して追いかけて行ってしまう。

 一人残されたラティは、ただ呆気にとられて立ち尽くしていた。

 



 廃坑を出て一晩歩き、近くの村にたどり着いた聖女たち一行は、村人の好意で四人仲良く風呂に入っていた。

 湯気が立ちこめる浴場に、ほっと息が漏れる。

 冷えきった体に、じんわりと湯が染み込んでいく。


「無事生還!

 やっぱりお風呂っていいよねぇ?」


「お風呂最高っす!」


「風呂は命の洗濯とも言いますからね。

 ご主人様も、サッシェも、疲れを癒しましょう。」


「……やっと普段通りの三人に戻ったわね?」


「何言っているのさリツィア?

 僕らはいつも変わらないよ?」


「……いや……そ、そうね?」


「リツィアさんこそ、普段と違い変なことを仰りますわね?」


「そうっすよ。

 私とノルンさんは、いつもご主人を敬っているっす!」


「それがメイドの心得ですから……サッシェも成長しましたね?」


「えっへんっす!」


 (……言えない、仲良しとか敬っているとか言ってるこの三人が、さっきまで醜い言い争いをしてただなんて……

 それに、このお風呂も半ば強引に……)


 リツィアは、仲良く話す三人を見ながら、先程までの騒動を思い出していた。



「……やっぱり落ちたか。」


「ん?

 やっぱりって何さ?」


 無事、廃坑の入り口までたどり着いた私たちが、拠点であるテントまで来ると、ホルツの独り言に聖女ちゃんが反応した。


「いや、ここに山賊どもを縛っておいたんだが、ノルンがちょっとやらかしてな……」


 何処となく、歯切れの悪い言い方をするホルツを見た私は、あまりいい話ではないことを察した。


「ノルンがやらかすのなんて、いつものことじゃない?」


「それは心外ですね。

 私は、いつも物事を効率よく処理していますよ。」


「そんなことよりお風呂っす!

 すでに凄まじい匂いっすよ?」


「サッシェの言う通りです。

 撤収作業はホルツに任せて、私たちは急いでお風呂に行きましょう!」


「はぁっ?

 ……まぁ、今回は仕方ないからやってやるよ。

 三人とも酷い有り様だからな。」


「じゃあ、私も手伝おうかしら?」

 

 普段と違い、あっさりと了承するホルツを見て違和感を感じた私が、一緒に残る提案をする。

 一瞬だけ、何かを言いかけたホルツが首を横に振る。


「いや、申し出はありがたいが、リツィアはコイツらが暴走しないように見てやってくれ。

 特に、この三人が揃うと碌でもないことやるからな。」


「……私で何とかできるかしら。」


 情感たっぷりのため息をつくホルツを見て、先行きが不安になる私だった。



「さあ、私たちの為に宿を用意する栄誉を与えましょう!

 喜びに咽び泣くといいわ!」


「あ、悪魔じゃ〜っ!

 悪魔が戻って来たぞ〜!」

 

 門番が叫び、槍を取り落として逃げ出した。

 それだけではない。

 門の内側にいた村人たちも、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 ――まるで、本物の“災厄”でも現れたかのように。

 ……ちょっと待ちなさいよ。

 想定外の状況に、私はジト目で尋ねる。

 

「……門衛さん、走って行っちゃったけど、ノルンさん貴女いったい何やったの?」


「相変わらず、最低な村ですね。

 たんに、村中の男が夜這いをかけて来たので、全員返り討ちにしただけです。」


「……はは、それは……最低な村ね!」


 あまり好ましくは無いけど……他に行く当てもない。

 つまり、この村で何とかするしかない。

 そして、目の前の三人は容赦がなかった。


「じじい、相変わらず恩知らずなあなたに、私が直接恩を取り立てにきましたよ?

 さぁ、私たちのために、大至急お風呂と食事の用意をなさい!」


「「ノルン格好いいっ(っす)!」」


「ぐぬぬ……やはりキサマは悪魔じゃっ!」


「……これ、完全に悪役がやることよね?」

 

 私の目の前では、村長を名乗る男が家の前で今まさにノルンさんの手で締め上げられていた。

 ……これって、どう見ても私たちが悪人よね?

 聖女ちゃんやサッシェちゃんの二人は、止めるどころか囃し立てる始末だし、ここは私がやるしかないかぁ。

 ……いやだなぁ。


「ノルンさん、まずは村長さんから手を離して?」


「リツィアさん、このじじいに説得とか無駄ですよ。」


「いいから離しなさい!」


「仕方ありませんね。」


 渋々という感じで手を離して少し離れたノルンさんに、私はニコリと微笑むと、今度は申し訳なさげな表情を作って村長に話しかけた。


「あの、急に来て、更にこんなことやっておいてアレなんですが……ご覧の通りの有り様です。

 お風呂だけでも、なんとかなりませんでしょうか?」


 お風呂という言葉に、一瞬まなじりと鼻の下を下げた村長が取り繕った真面目顔で聞いてきた。


「……それは、お主も入るのか?」


「……ええ、出来ればですが……」


 不躾に胸元を見てくるその視線に、悪寒を覚えながらも私が答えると、村長はだらしない顔で話してくる。


「し、仕方ないのう。

 こんな辺境では、お互いに助け合わないといけんからのう。

 泊まるところも、離れを用意しておくから風呂に入ってくるとええ。」


「ありがとうございます!」


 敢えて村長の手を握り、目線を合わせて礼を言う。

 この手合いには、女の武器がよく効くわね。

 ただ、このおじいさんいつまで私の手を握っているのかしら?

 握手したまま、指でこちらの手を撫でてくるのが、地味に気持ち悪いんだけど……。



 あれから、村長の案内で共同浴場に案内してもらい、貸切状態でお風呂に入れることになった私たちは、喜び勇んで脱衣所へと入っていったわ。


「聖女ちゃん、結界の方は問題ないかしら?」


 先程のこともあって、念のため聖女ちゃんにのぞき防止の結界を張って貰うことにしたのよね。


「大丈夫、半径五十メートル以内には物理的に近づけないはずだよ。

 ……それにしても、リツィアさんのバランス、とても良いと思う。

 アンダーとトップの差もいい比率だよ。

 うん、これは黄金比に近いかな?

 いや、実際に測ってみないと……」


「聖女ちゃん?」


 なんか、熱い眼差しで私を見る聖女ちゃんが、ブツブツと何かを呟き始めた。


「ご主人、またやってるっす。

 気にしないでさっさと湯船に浸かるっすよ。」


「サッシェ、貴女は先に全身洗わないとでしょ?」


「それはお互い様っす!」


「……聖女ちゃんは?」


「その内くるっす!」


「飽きたら来るでしょう。」


「……貴女たちの主人?なのよね?」


「「そうっす(です)」」


 この後、気付いた聖女ちゃん含めて、湯船に浸かりながら話をしたんだけど、私が先に上がったあと、また聖女ちゃんがトリップしたので、二人が運んで湯船に沈めたらしいわ。

 ……大丈夫よね?

 一応、聖女だし、お姉さんは信じているわ。

 


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