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聖女扱いされていますが、景観を守っているだけの紳士です 〜美しくないものを整えていたら、少しずつ世界がおかしくなりました〜  作者: 葱市場


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第15話 「バレなければ問題ありません」

 拠点としてテントを張っていた広場には今、二十人の男たちとガズンとラティが後ろ手に縛られ、ガズンが先頭でラティは崖近くの位置、山賊たちの列の一番最後で全員腰紐で数珠繋ぎになって座らされていた。

 念入りに縛られ、猿ぐつわまで噛ませられたガズン一味は、最早うめく以外に出来ることは無いのか、それぞれ大きな声で呻き声をあげて不満をアピールしたり、縛られたことに荒い息遣いを溢したり、不貞腐れて寝転んだり、荒い息遣いどころか顔を上気させたりして――

 

「ん?

 なんで同じの二回言った?」

 

 ――そんな一味の前で、ノルンとホルツが話し合いを行っていた。


「無視すんなっ!」



「ホルツは何を叫んでいるんですか?

 発情期なら、そこから飛び降りてくださいね。」


「なんでもねえよっ!

ってか、何げにひでぇ!」

 

「……さて、これで噂の山賊は片付きました。

 次は、廃坑にいるはずのご主人様たちをどうするか……」


「どうするも何も、これだけ時間が経っても戻ってこない以上、なんらかのトラブルにあっていると考えるべきだろうな……」


「ふむ……助けに行くのは確定として、問題はこの方たちをどうするか?ですが……」


 チラリとノルンが視線を向けた先には、後ろ手に縛られたガズンとラティが、何かを言いたげに二人を見ていた。


「まぁ、調査の間はこのままここに放置するか、先にギルドまで人を呼びにいくかだな?」


 ホルツの提案に、面倒くさそうな顔をしたノルンが顎に手を当て考える。

 その視線は何故か崖下に固定されていた。


「面倒なので、サクッといくのはどうでしょう?

 幸いにして、崖もありますし――」


「待て待て待て待て!

 今サラッと“殺処分”みたいなこと言わなかったか!?」


 ガズンが目を向いて呻き声を出すなか、ホルツが慌てて突っ込んでみるが、ノルンは慈愛に満ちた笑みを浮かべて答える。


「……全員繋がっているので、いろいろと楽ですよ?」


「……楽って何がだ?」


 ガズンとラティが、必死になって声にならない声をあげる。

 ノルンのその表情と言動に、背中に冷たいものを感じたホルツも嫌そうに問いかけた。


「一人落とせば、全員連鎖的に処理できます。

 ほらね?……とても楽じゃないですか。」


「まて、処理って言ったな今!?」


「崖もありますし――」


 ノルンは、とても良いことを言っているかのように、ガズンたち一人一人をゆっくりと見渡す。


「やめろ、その“自然に存在してるから使おう”みたいな発想!」


「自然は活用してこそですから!」


「何良いこと言ったみたいな顔してんだよ!」


「では、妥協点としてこういうのは如何でしょう?

 みなさん繋がっているのですから、何人か落としましょう。

 大丈夫です、みんな繋がっているので死にません。

 そして、崖の上に残ったみなさんが、全員でそれ以上落ちないように、ここで耐えるんです。

 大丈夫です、賢い私は考えました!

 最後の三人が落ちなければ、ロープもちょうど良い長さで止まります!

 安心、安全設定です。

 これなら、私たちがいなくても逃げれませんし、待っている間山賊のみなさんがやることなくて暇になることもありません。

 まさに完璧です!」


 そう言ってノルンが提示した作戦を聞いたホルツが、ノルンの顔をマジマジと見つめる。

 そんなホルツに、眉をひそめてノルンが苦言を呈する。


「……見惚れるほど私が美しいのはわかりますが、些か不躾ですよ?」


「……お前……その考え、さすがに引くわ……。

 だが、実際に時間的余裕はないからな……しょうがないからその案に乗ってやる。

 だが、追加で一つ提案だ。

 そこの、頭のアレな騎士を連れて行く。」


 ホルツの同意に、ガズンたちが必死になって首を振り、ロープの長さをアピールする。

 そんな中、一人ラティのみが目を輝かせた。

 だが、ホルツの提案を聞いたノルンが、ジト目でホルツを見ながら口を開く。


「……女性を捕虜にした途端、本性をあらわすとか……ゲスにもほどがありますよ?

 これでは、そこの山賊と変わりがないではないですか?

 一応、同じ女性の立場から言わせて貰いますが――」


「ち、ちげぇって!

 お、俺はソイツの腕前なら役に立つと思っただけで、やましいことなんざ考えちゃいねえよっ!

 そ、それに、人質としてアイツらがいれば、裏切ったり出来ねえだろうしよ!」


 必死になって誤解を解こうと慌てるホルツを、冷ややかな目で見るノルンが、ため息交じりに話す。


「……まぁ、そういうことにしておきましょう。

 さて、ラティ?

 話は聞いていましたね?

 従いますか?

 処しますか?」


 聞かれたラティが最初に軽く頷いたあと、驚愕の表情で必死に首を横に振る。


「うぉいっ!

 さりげなくヤろうとすんなっ!」


 ホルツの言葉に、ラティも全力で頷いた。


「返事がないものでつい……。」


 悪びれた様子もなくノルンが答える。


「いや喋れるかそれ!

 口塞がれてんだぞ?」


 ホルツの正論に、ノルンがイラつきながら言い捨てる。


「では、早く外しなさい。

 ……全く、これだからその年まで独身の男は、気が利きませんね。」


「うぉおぃっ!

 さりげなく貶してきたが、お前今、全世界のいたいけな独身男性を敵に回したからな?」


「はて?

 敵に回すほど、その年で独身な男性は多いとはおもえませんが?」


「……テメェ……」


 ニヤつきながら話すノルンを、少しだけ涙目で睨みながらホルツは、ラティの猿ぐつわと拘束を外した。


「ぷはぁっ――貴様っ!

 先程から聞いていれば、悪魔のようなことを――」


「さて、改めて聞きますが……処すということでいいですね?」


「「なんで一択!」」


「冗談ですよ?」


 二人の反応に、ジト目で返すノルン。

 そんなノルンに二人が叫んだ。


「「わかるかぁあっ!」」


「……うるさいですねぇ。

 準備はいいですか?

 はい、いいですね?

 これ以上は時間の無駄です。

 さっさと行きます……よっ!」


 そう言って、ノルンが近くに座らされていた山賊たち数名を崖下へと蹴り飛ばした。


「「「んぐぅっ!」」」


 数名が落ちた勢いで、数珠繋ぎになった山賊が一人、また一人と叫びながら崖下へ消えていく。

 そして、そんな様子を他人ごとのような顔で見ていたラティの足に絡まったロープが、勢い良く引っ張られた。


「……へっ?」

 

 ラティの足元でロープがわずかに軋む。

 一瞬だけ、全員の視線がそこに集まる。

 

「へぶぅっ!」


 一瞬の間の後、顔面から地面にダイブすることになったラティが、真っ赤な顔を驚きと怒りに歪めながら硬い地面に爪を立てる。

 

「……うぉおまぁええっ!」


 そしてラティは、一瞬の抵抗のあと、引き摺られる形で叫びとともに崖下へと消えていった。

 ラティの消えた地面には、八本の細い溝だけが残っていた。


「……あら?

 不思議なこともありますわねぇ?」


「あら?ってお前……アレ、落ちたぞ?

 ……えっ?……マジで?」


「「「騎士の旦那ぁぁあっ!

 テメェら、気合い入れてしがみつけ!

 旦那を助けるんだ!」」」

 

 あとには、ガズンたちがそれぞれ体を張って岩にしがみつき、崖下にぶら下がる仲間を励まし合いながら落ちないように耐える姿と、呆然と崖の方を見つめるホルツと、溝を足を使ってまるで何もなかったかのように、雑に消し込むノルンの姿があった。


「何さりげなく証拠隠滅図ってんだよ!

 どうすんの?

 どうすんだよこれぇぇえっ!」


「……バレなければ犯罪じゃありませんわ。

 ……たぶん――」


「それはぁあ、犯罪者の理論じゃねぇぇかぁぁあっ!」


 ホルツの叫びが響き渡った。


 それから小一時間後。

 廃坑内に入ったノルンとホルツは、おそらくリツィアたちが付けたであろう壁の目印を辿って、廃坑の奥へと進んでいた。


「……岩肌が剥き出しで歩きにくいし、湿気でムシムシします。

 天井も低くて、大変不快です。」


「廃坑なんてこんなもんだろ?

 乾燥してたらしてたで埃っぽくて大変だしな。」


「……大変不快だと言いました。」


「だから、そんなもんだって――」


「気の利かない下男ですね。」


「へいへい、どうせ俺は気の利かない下男ですよ。

 そんなことより、アイツらだいぶ奥まで行ったみたいだなぁ?」


「……ここから印が無くなっていますね?

 それにこれは……戦闘跡でしょうか?」


「どれどれ……。

 この跡は……戦闘っていうか、やたら焦っていたことは足跡から窺えるな……」


「あのご主人様が……ですか?」


「……だよなぁ?

 アレとリツィアが焦るとか、まず考えにくいよなぁ。

 と、なれば……サッシェあたりがまたやらかしたか?」


「可能性はありますね。

 兎に角、何かがあったのは間違い無さそうです。

 合流を急ぎましょう。」


「……だな?」


 そうして、ホルツたちは足跡を辿って更に奥へと進んでいく。

 何度か曲がり道を戻ったりしながらも、更に二時間ほど進んだころ、前方から微かに人の悲鳴や叫び声が聞こえてきた。


「……ご主人様!」


「バカ、ちょっと待て!」


 声を聞いたノルンが、ホルツの制止を無視して走りだす。


「んったく!

 まずは状況確認が鉄則だろうがっ!」


 走り出したノルンに悪態をつきながらも、ホルツも剣を抜いて走り出す。

 それからすぐに、前方から強烈な光が溢れてきた。

 その光にホルツが目を細めたあと、すぐに黒い波が前にいたノルンを包み込んだ。


「「……へっ?」」

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