第12話 「結界ゴリ押し、それが答えだ」
ギルドからの依頼で、調査を開始して三日目。
今日は、俺と相棒であるリツィアの間で取り決めていたミーティングの日となるため、俺は同行者のノルンを連れて廃鉱山へと向かっていた。
昨夜過ごした村では、色々と騒動はあったが、特に依頼に関係しそうなことも無かったため、俺たち二人は早めに村を出て、廃鉱山へと続く山道を黙々と歩いている。
「……やはり、鉱山跡だけあって動物がいませんね?」
「ああ、鉱毒なんかの影響もあるんだろうさ。」
周りの光景を見ながら質問してきたノルンにそう答えると、自分でも一度周りを確認する。
確かに、俺たちが今歩いている場所は、他の山道と比べると緑も少なく、鳥の鳴き声なども聞こえない寂しい場所と言えた。
「まぁ、鉱山跡なんてどこも似たようなもんだろ?」
「確かに、言われてみればそうかも知れませんが、私は初めてくる場所ですので……。」
「それにしてもよ、アンタらって妙に浮世離れした所があるよな?
アレかい、マジでどこぞのお貴族さまとかなのか?」
「ご主人様はわかりませんが、私たちはたんなる使用人ですよ。」
「まぁ、なんだっていいけどよ。
こちらとしては、常識的に考えた行動さえしてくれればそれでいいしな。」
「ご主人様よりは、私は常識的だと思いますよ?」
「……それは、比較対象が悪いだろ。」
他愛もない話をしながら歩くこと半日、いまだ陽の高いうちに俺たちは、無事に廃坑の入り口に着くことができた。
廃坑入り口近くの開けた場所に設置されているテントを見る限り、未だ三人は調査中なのかその姿は近くには無かった。
「まだ廃坑の中にいるみたいだな?
どうする?」
俺は、同じようにテント周りを確認していたノルンに問いかける。
「そうですね……。
まだ時間も時間なので、少しテントで休みながら待ちましょうか。」
そう言いながら、テントの中へと入っていくノルンだったが、何かを思い出したのか、テントから顔だけ出して話しかけてきた。
「あ、テントは私が使いますので、暇なホルツさんはお昼の用意でもしてて下さい。」
「……はぁ?」
「……なんです?」
「いや、俺も休みたいんだが?」
「では、ご自分でテントを建てて休んでください。
あ、お昼は魚料理を希望します。
では、出来たら呼んでください。」
そう言って、しっかりと入り口が閉じられたテントをみつめた俺は、声にならない叫びをあげるのだった。
その頃、廃坑内では……。
アイアンクローチの群れに追われた僕たちは、逃げに逃げて、なんとか逃げ切ったあと、適度な広さのある空間をみつけ、そこに結界を張って一息ついていた。
そんな僕に、サッシェが元気よく声をかけてくる。
「ご主人ご主人!
ご飯出来たっす!」
そう言って、サッシェが差し出してきたものを受け取った僕は、それをみながら悲しみとともに言葉をこぼす。
「うぅ……。
まさか本当に土粥を食べるハメになるとは……。」
「見た目はアレだけど……意外とイケるわね。」
先に口にしていたリツィアが、意外そうに感想を口にすると、それを聞いたサッシェが得意気に話す。
「ここの土はミネラルが豊富っすから、意外と味があるんすよ?」
「……僕的にはさ、土に味があって、それなりなのがなんかムカつく。」
「聖女ちゃんは、わがまま言わないの!
それにしても、聖女ちゃんって器用よね?
まさか、結界を鍋やお椀にするとは思わなかったわ。」
「私もっす。
ご主人凄いっす!」
「まぁ、僕だからね。
透明で見えないけど、ちゃんと意匠にも凝った一品だよ?」
「確かに、この土粥で色がついたところ、細かい紋様があるっす!」
「そうでしょ、そうでしょう!
なんと言っても、この僕が作った物だからね?
もっともっと、僕を讃えたまえ!」
褒められた僕は、満更でもなさそうに答える。
僕は褒められて伸びるタイプだからね。
「ほんと、無駄に器用よねぇ……。」
リツィアが、器をながめながら感心したように呟く。
「……これだけ器用なんだから、アイアンクローチ用の打撃武器とかも作れたんじゃない?」
「「……あっ!」」
リツィアの疑問に、僕とサッシェが口を開けて同意した。
リツィアたちが重大なことに気付いた頃。
廃坑入り口付近にいるホルツたちを観察する集団がいた。
「……お頭、あれが奴らの拠点みたいですぜ?」
廃坑入り口より上、ちょうど崖を覗くような形でホルツたちを観察していた男が、ガズンへと報告をする。
「やはり、この廃坑に来やがったな?」
「へい、今回も、お頭の予想通りでさぁ。」
「あんまりギルドの人間にうろちょろされると、今後のシノギにも影響が出るからな、邪魔な奴らにはここで消えといて貰わねぇとな。
それに、あの銀髪の女だ。
アレを捕まえれば、高く売れそうじゃねぇか!」
「ギルドの邪魔が出来て小遣い稼ぎにもなる。
さすがはお頭でさぁっ!」
ノルンを見て下卑た笑いをあげるガズンに、追従するように、他の男たちもニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。
「まずは、手筈通りヤツらが廃坑に入るのをまつ。
そしてアレをけしかけて、アイツらの装備が無くなってから一気に制圧だ。」
「冒険者といえど、装備が無ければ一般人っすからね。
さすがお頭、頭良いっすね?」
先程、ガズンに報告をしていた男が、揉み手でガズンを褒め称える。
「そうだろう、そうだろう?
更にアレのフンをまとめて近くの村に鉄鉱石として売れば、更に金が入るって寸法よ!
ギルドの邪魔者を消して、女とフンを売って荒稼ぎ、まさに完璧な作戦だぜ!」
「まさに、アイアンクローチ様々ですぜ!」
「まったくだ。
これだからこの仕事はやめられねぇ!」
静かな廃鉱山に、ガズンと男たちの笑い声が響いた。
「さすが山賊、随分とゲスな笑い声ですこと……」
それを聞いたノルンが、テントの中で一人、呆れ顔で呟いていた頃、ホルツはガズンたちがいるであろう山の上方を見たあと、面倒そうに装備の点検をはじめた。
「山賊、いねえと思ったんだけどなぁ……。」
ところ変わって廃坑内。
「賢い僕は考えました。
結界を張って、ひたすらアイツらを押し込めば、ここから脱出できるのではないでしょうか!」
「おお〜っ、さすがご主人っす!」
土粥も食べ終え、作戦会議を行なっていたサッシェ、リツィア、僕の三人だったけど……僕の天才的な発想に、二人は目から鱗的な表情で僕を讃美している。
えっ?
リツィアは違うって?
大丈夫、リツィアはきっと恥ずかしがり屋さんなだけさ!
「でしょでしょ?
僕ってやっぱり冴えてるよね?」
「冴えてるっす!
まさに天才っす!」
「私は、そう上手くいくとは思えないんだけど……。」
ほらね、リツィアはきっと僕を褒め称えたいのを、我慢しているのさ。
大丈夫、僕は全てわかっているよって表情でリツィアを見ながら、優しく声をかけてあげる。
「リツィアは心配性だなぁ。
大丈夫だって、いざとなったら結界で作った武器でプチってしちゃえば解決さっ!」
「そうっす、そうっす!
ご主人に任せれば、全てうまくいくっす!」
「そうねぇ、そうだといいわね?
あと、聖女ちゃん、その顔ムカつくからやめなさい。」
「なんだいリツィア、ノリがわるいぞぉ?
さぁ、キミも乗るんだ、このビッグウェーブにっ!」
僕たち二人を見ていたリツィアが、何故かわからないけど悟ったような顔になる。
「……あぁ、なんとなくわかってきたわ。
これってさ――」
小一時間後――
「イィぃ嫌ァァアアッ!
キモいっ!
マジ無理、マジキモすぎ!
なんなのコイツら、マジで僕の美意識的に有り得ないんですけどぉぉおっ!」
「やばいっす!
無理っす!
イィやァァアアッ!」
「……ほらね、やっぱりこうなった。」
騒々しく悲鳴をあげながら、ひたすら涙目でアイアンクローチの群れに結界を叩きつける聖女ちゃんとサッシェちゃん。
私は、この惨状を見ながら一人、得心しながらことの経緯を思い出していた。
聖女ちゃんの作戦。
『結界ゴリ押しで汚物は一網打尽だぜっ!』
命名聖女ちゃん。
これは、聖女ちゃんのなんでもありな結界能力で、あのアイアンクローチどもを、結界と岩壁でまとめてすり潰しながらここから脱出するという、とても作戦と呼べない脳筋発想だった。
当然だけど、私はこの作戦は早晩破綻すると確信していたわ。
だって、あの量をすり潰せるほどの力は、私たちには無いんだもの。
最初だけは良かったのよね……最初だけは。
小一時間前。
聖女ちゃんがはしゃぎながら、結界を使ってアイアンクローチをすり潰す。
「やばい、僕天才だよやっぱり!」
「ご主人凄いっす!
あのアイアンクローチが、まとめて轢き潰されていくっす!」
「ここはまだ数も少ないし、余裕だね?」
「そうね、このくらいの数なら大丈夫だけど……やっぱり見ためが最悪よね?」
「そうっす。
楕円形の体が潰れて、中身出てたりそこらに脚とか散らばっているっすけど……まだピクピク動いているっす。」
「……キモっ!
なんでコイツら、バラバラなのに動いているのさ……マジキモい。」
「まぁ、そういう生き物だからねぇ。
それよりも聖女ちゃん、あまり数が増えると押し返されるかもだから、ヤツらが少なそうな道を選びましょう?」
「大丈夫、大丈夫。
リツィアは心配性だなぁ。
この僕の結界の凄さは証明されているし、このままヤツらを駆逐してやるよ!」
そう言って調子に乗り始めた聖女ちゃん。
サッシェちゃんも、調子に乗ってどんどん進むものだから、だんだんとアイアンクローチの量が増えてきているわ。
「この僕をびっくりさせた罪は重いぞーっ!
キサマら残らず駆逐だぁあっ!
悔しかったら仲間を呼ぶんだね?
まぁ、ザコがいくら集まっても、ザコはザコだけどさっ!」
そう言いながら、結界でまとめてすり潰していく聖女ちゃん。
厚みのある洗濯板みたいな表面の結界を作り、それをアイアンクローチごと壁や床に叩きつけてゴリゴリと擦る、そんな雑なやり方でやるものだから、岩の隙間などで取りこぼしが結構あるみたいで、その処理を得意気に行うサッシェちゃん。
ヤイヤイ騒いでる割には、二人とも余裕があるみたいね。
「そうっす!
ザコは黙ってやられるのが運命っすよ!
悔しかったら仲間呼ぶっす!」
サッシェちゃんが手に持った大型ハンマー(型の結界)で、群れからはぐれたアイアンクローチを潰そうとしたその時、最後の断末魔なのか、アイアンクローチの鳴き声が廃鉱道に響き渡った。
「あ、おバカっ!
そんなわかりやすいフラグを建てたら……」
私が注意したときにはすでに遅かったわ。
空気が震える感覚とともに、前方から黒い群れが一斉に襲いかかってきた。
これ、どうするのよ……。




