第11話 「対話?わかった殴るわ」
廃鉱山の麓。
街道と鉱山への道の途中、昼なお暗い森の奥に、その村はひっそりと存在していた。
人口三十人程度の小さな村は今、予想外の訪問者によって普段と違う喧騒に包まれていた。
村の入り口付近で村の男たちが、手に武器を持って叫ぶ。
その中で一人、初老の男がホルツたちを指差して叫んだ。
「あ、悪魔使いじゃぁぁあっ!」
「だから、俺たちは冒険者ギルドから派遣された冒険者だって言ってんだろうがっ!
てかじじいっ!
助けてやった恩を、仇で返してんじゃねえっ!」
「……これだから、未開の野蛮人どもは度し難いんです。」
ノルンはそう言うと、足元の小石を拾い――
迷いなく、投げた。
ゴッ
「ぎゃっ!」
ゴッ
「ぐはっ!」
連続ヒット。
「……やっと静かになりました。」
「うぉおぃぃっ!
ノルン、てめぇっ!
何やってんだよっ!」
「うるさかったので……」
「うるさいからってやって良いことと、悪いことがあんだろうがっ!
どうすんだよこれ?
これじゃあ、俺たち普通に悪者じゃねぇかっ!」
「……ふむ?
では、全員倒せば問題解決ですね?」
「だから、常識をどっかに置いてくんなっ!」
ホルツは、そう言いながら小石を拾い始めたノルンに、すかさず注意する。
注意されたノルンは、暫し心外そうな顔でホルツを眺めていたが、何かに納得したのか、諭すように話始めた。
「ホルツ、貴方は学がないので知らないかも知れませんが――」
「おい、その前置きやめろ」
「――世の中には、真理というものがあるのですよ?」
「……どうせロクでもないことだろうが、一応聞いてやるから言ってみろよ?」
ウンザリした顔で、そう言ってくるホルツをノルンは、聞き分けのない子供を諭すように、慈愛に満ちた表情と声で諭した。
「バレなければ、犯罪じゃ無いのです。」
「ほら、やっぱりロクでも無かったっ!」
「安心してください。
今のも、目撃者は全員気絶しています。」
「そういう問題じゃねぇっ!
いいか、俺たちはギルドの依頼でここに調査に来たのっ!
間違っても、村を制圧しに来たんじゃねえっ!」
そう言われたノルンは、全力の叫びに息を荒くするホルツを、理解不能な存在だと言わんばかりに、眉を顰めながら見る。
「なら、制圧してから調査すれば早いのに……解せませんね。」
「もういい。
取り敢えず、村人を介抱すんぞ?」
「……そこのじじいは?」
「……じじいはほっとけ。」
「ホルツもわかってますね。」
少しだけ機嫌が良くなったノルンとともに、村人たちの介抱をするホルツだった。
その頃、二人がいる村から廃鉱山を挟んで反対側、半ば打ち捨てられた廃村の一画に、多数の男たちが集まっていた。
それぞれがボロをまとい、体もやせこけており、難民の集団と言われても、大抵の人は納得するだろう。
だが、その集団には、他と違った雰囲気があった。
そんな廃村に、数人が押す荷車が運ばれてきた。
「お頭、村からの貢物が届きやした。
これで近隣の村は、俺たちの支配下に入ったことになりやす。」
それを見た背の低い男が、集団の中で唯一まともな衣服に身を包んだ男へ話しかける。
「おお、やっとついたか。
おい、テメェら、荷がついたからには仕事に取り掛かれ!」
そう男が号令をかけると、男たちが荷車から荷物を下ろして近くの小屋へ運び込む。
「おお、私たちの活動への支援があんなにっ!
ガズンよ、やはり、お前たちの活動は正しいのだな?」
「あ、当たり前ですぜ、騎士の旦那。
俺たち、『終焉を告げる紅蓮の略奪者』は、地域の皆さんに愛される団体なんですぜ?」
どこかビクついた態度で、ガズンは話しかけてきた女性に引き攣った笑顔で答える。
そのガズンの答えに満足したのか、得意気に女性が口を開く。
「そうだな。
それでこそ、この騎士団長の娘である私が力添えする意義があるというものだ。」
「お頭、いつまでこの女を……」
「ばかやろう、頭はアレだが、腕は確かなんだ。
利用出来るうちは、使うにかぎるだろが?」
背の低い男とガズンが小声でヒソヒソとやり取りをするのに気が付かない女性は、腕を組み堂々とした仁王立ちで作業をみつめていた。
「それで騎士の旦那、実はちょっと困ったことが起きたんですよ。」
「ふむ、困りごとなら私に任せるがいい。
洞窟で助けてもらった身だ、正義のために私の力をふるうことに迷いはないぞ?」
そう自信満々に言い放つ女性騎士を見て、ガズンは一瞬だけ口角を上げた後、真面目な顔で話始めた。
「実は最近なんですがね。
我々の慈善事業に反対する人たちがですね。
我々の活動を調べているみたいなんですよ。」
「ふむ、ただ調べているだけなら、放っておけばいいだろ?
お前たちの活動に後ろめたいことが無いなら、別にそれで問題ないだろう?」
「それはそう何ですがね。
我々の活動が、相手側には邪魔みたいでしてね。
どうやら、冒険者ギルドを使ってるみたいなんですよ。」
ガズンのギルドという言葉に、女性騎士が反応する。
その反応を目敏く観察するガズン。
「……ギルドか、金さえ貰えばなんでもする、金に汚い集団だな?
私も、あの組織には、先日あらぬ疑いをかけられたからな。
確かにあの時も、正義を邪魔されたな。」
「おお、やはりそうでしたか。
我々も、あの組織には困っているのですよ。」
我が意を得たりと芝居がかった物言いで話すガズンに、女性騎士は頷き、理解を示す。
「正義を行う私たちのこと、中々理解されない茨の道というからな?
だが、我々の正義は折れない!
そうだろう?」
「そうです!
我々の正義のため、騎士の旦那には是非ともギルドの犬どもを追い払って頂きたい!」
「この正義の騎士、ラティに全て任せるといいっ!」
強い決意を秘めた目を向けてくるラティを見返して、大きくうなずくガズン。
その顔には、軽薄な笑みが浮かんでいた。
その日の夜。
どうにか村人たちの誤解を解いたホルツたちは、時間も時間だったため、今日はこの村で一夜を明かすことにした。
そのため、どこに泊まるかで村人たちが村長の家で寄り合いを開くことになった。
ホルツが家の前で待つなか、村の男たちは話し合いを始めた。
「で、村長。
冒険者の方たちには、どこに泊まってもらうんだ?
こんな田舎の村じゃ宿屋もねぇし、やっぱりここは、村一番の大きさな村長の家しかねぇべよ?」
最初に、年老いた男が話し合いのきっかけとして、村長に質問を行ったが、その話を聞いた村長が恐怖に目を見開いて反論する。
「わ、ワシは嫌じゃっ!
あの恐ろしい悪魔と一夜を共にするなど、ワシ干からびてしまうぞっ!」
「あ、あの美人さんと……。」
「な、なら、オイラんとこでもええっ!」
「いや、オラんとこでいいっ!」
「オメエは嫁がいるだろっ!
ここは独身の俺が、みんなのためにこの体を差し出すだっ!」
村長の言葉に、何かを期待した男たちが名乗りを上げ、互いに罵り合う。
その後は、互いに譲らず寄り合いは紛糾した。
そして、議論が殴り合いにまで発展した頃、みかねたホルツが仲裁に入ることになったが、揉めた理由は誰も話さなかった。
ただ、翌朝のノルンの部屋の周りには、何故か額に傷のある沢山の村の男たちが横たわっていた。
「本当に最低な村でした。」
「お頭が言うなっ!
まぁ、気持ちはわかるが、ここからは仕事だ。
ちゃんと気持ちを切り替えろよ?
聖女さんたちも、そろそろ廃坑の調査を始めた頃だろうしな、俺たちもしっかり調査しないとだ。」
「ホルツに言われなくとも、理解しています。」
「なら良いんだ。
それじゃあまずは、この惨状の説明からお願いしようかな?」
ホルツはにこやかに言うと、そこらじゅうに倒れている村の男たちを指差した。
「……なるほどねえ、お前に夜這いだなんて、命知らずもいたもんだな?」
「全く、何を勘違いしたのか……理解不能です。」
「まぁ、そういう風習のある村なのかもな?
さて、男どもには話を聞けそうにないしな、村の女性たちに話を聞いて回るとするかな。」
「わかりました。
いわゆる、ナンパというやつですね?」
「ちげえよ。」
そう短く答えると、ホルツは村の中心へと歩き出した。
その背中にノルンが訳知り顔で言葉をかけた。
「なるほど……業務ナンパですか。」
「違うっつってんだろ!!」




