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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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粥の秘密

 ムルソー准将の一言『美味い』に驚いた顔をする恵美押延。無理もない。前菜で揚げ物とはあまりに奇をてらいすぎている。しかも、食前酒とのセット。乱暴な嫌いもなくはない。

『提督にお聞きしたい。この料理を評価する理由を』

 流暢なフランス語で恵美押延がそう質問する。

 口の周りを拭きながらムルソー准将はゆっくりと口を開いた。

『タダタカの料理、前菜としては確かに重いきらいはある。最初このクロケットを口に含んだ時もそう感じた。しかし、具が濃厚なのにくどさがない。前菜としての条件は十分に満たしていると感じられた。さらにはこのワインーークロケットの重い感じを洗い流しまた、食欲を大いに喚起させてくれた。これからのメインの料理がいかにも楽しみになる雰囲気を作ってくれた』

 空になったグラスを手に、そう力説するムルソー准将。

 瞬は敬忠の方をみやる。

(なるほど......さすがは瞬殿.....)

 本来であればコロッケの中にもっとひき肉を入れるところなのであろうが、それではありが重くなりすぎる。テーマである『米』を入れることにより甘さも出して、重さを軽減することができたのだ。

「なかなかに考えてはきたようだな」

 にやりと笑みを漏らしながら、そう恵美押延が挑戦的に言い放つ。

「次は私の番だ。それを食べてもらった上で勝敗をつけようではないか」

 恵美押延の部下が椀をムルソー准将の前に運ぶ。こちらもふたを開けると独特に匂いがあたりにわき立つ。敬忠もその匂いを感じるが、不思議なことに言葉が出ない。そう、その匂いがなんであるか――全く見当がつかないのである。

 見た目は白い粥――いわゆるライスプティングであろうか――何ら手が込んでないように見える。

 ムルソー准将はそっとスプーンで粥をすくう。そして、慣れた手つきで口に運ぶ。

 のどが鳴る。

 しばしの沈黙。ムルソー准将は目を閉じ、味を確かめているようだった。

 皆の視線がムルソー准将に集まっていた。

 突然ムルソー准将の目が見開かれる。何か遠くを見つめているようなその目。そしてその目からすっと涙の筋が――伝う。

『これは――これは――』

 嗚咽にも似たムルソー准将の声。

 それを恵美押延はあたりまえのようにじっと見つめていた。

「......」

 敬忠も瞬も声が出ない。起きた出来事を理解できないのだ

『いかがですか?ムルソー提督』

 そんな二人をしり目に、恵美押延がムルソー准将に声をかける。

『美味い、ただ美味しい......それだけだ』

「だそうだ、お二方」

 自慢げに誇る恵美押延。勝負のほどは明らかであった。

 一礼して対馬守が恵美押延の料理の椀を押し抱く。そっと粥を口に含む対馬守。

「......?」

 言葉が出ない。不思議なことに。

「いかがな味ですか?対馬守どの」

 敬忠の言葉に普段とは違う優柔不断な表情を浮かべる対馬守。

「うむ、いや。なんというか」

 恵美押延がその会話に割って入る。

「ならば説明しよう。私の前菜、『 riz au lait (リ・オ・レ)』の秘密を!」

 勝負はまだ一回目を数えたばかりであった――


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