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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

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前菜の価値

 鍋にはなみなみと油が注がれる。強い火力により、その油はすぐに煮立つ。本来、船上で熱した油の使用は火災の危険上禁止であるが、この船はちゃんとした防火対策をしているのだろう。それを見つめる恵美押延が何も注意しないのがその証左であった。

 じっと油の煮える音に耳を澄ます瞬。うなずいた後に、ひとつづつ先ほどのリゾットの塊を取り出す。そっと、油にその塊を泳がす。弾ける油と、香ばしい匂い。

「コロッケ......?」

 敬忠の口を懐かしい言葉がついて出る。すなわち、米をメインの具としたいわゆるライスコロッケである。

「イタリアではスップリという料理で、中にチーズを入れます。米を生産するイタリアならではの料理ですね」

 丁寧に一つ一つ揚げていく瞬。並行してトマト――驚くべきことに船内の一角で栽培されていたのだが――をみじん切りにしてすりつぶし濃厚なトマトソースを作り上げる。

「器用なことだ」

 腕を組みながら恵美押延がそうもらす。自分の料理――鍋から白い湯気が上がる――はすでに調理済みらしい。

「ファン(そこまで)!」

 ムルソー准将の懐中時計を見つめていた一人の船員が、大きく手を上げそう宣言する。二時間の持ち時間の終了の宣言である。

 すでに料理は皿に盛ってあった。冷めるのを防ぐためにどちらの皿にも蓋が載せてあったが。

『公平を期すために、食べる順番をこちらのジャポネに決めてもらおう』

 そういうと、対馬守にさいころを渡すムルソー准将。

偶数ノンブル・ペールならばロプレザンタン恵美から、奇数ノンブル・アンペールであればタダタカから食べさせてもらおう』

 言葉はわからないものの、状況を把握する対馬守。空中に向けてそのサイコロを放り投げる。

 ころころと床に転がり――出た目は――『一』。敬忠からの試食である。

 瞬が小さなカニテーブルの上に皿を置く。そして、一本の瓶も。

『前菜――ではありますが、こちらのワインも一緒に』

 ほう、と声をもらすムルソー准将。食前酒アペリティフということか、と理解して。

 そっと蓋を開ける瞬。中から湯気と、香ばしい匂いが放たれる。見た目は――小さなコロッケ。

(確かにワインにあいそうな料理だが......前菜としては......)

 敬忠の心配をよそに、ムルソー准将はフォークでコロッケを突き刺し口に運ぶ。

 ゆっくりと咀嚼して、味を確かめる。

 そして注がれたワインーー赤い色の液体をぐっとのどに流し込む。

 少しの沈黙――

 そしてもれるムルソー准将の一言。


『これは――美味い!(ス プラ エ ボン)』と――


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