表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第7章 令和への挑戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/117

『フランス料理(キュイジーヌ・フランシーゼ)』

「リ・オ・レ――日本語で言えば『米粥』、英語で言えば『ライスプディング』だな。ミルクに砂糖と米を入れて煮るだけのそれだけの料理だ」

 恵美押延が朗々と説明する。会得がいかない敬忠。そのくらいのことはわかっている。

「ではなぜ、そのようなものにムルソー提督は感動されたのか?答えは簡単だ。この料理が『フランス』だからだ」

 厨房の棚から黒い色の瓶を取り出す恵美押延。コルクを開けると瓶を逆さにする。サラサラと白い粒が舞い落ちる。

「『米』だ。そちらは慣れから普段の『米』を使ったようだが、私は違う。『米』は『米』でもインディカ米を使った」

 瞬が無言でその言葉を聞く。

「日本の米はジャポニカ米。当然この時代のヨーロッパ人はジャポニカ米を口にしたことはない。食べたことない食材――それがどれほどの違和感を生むか説明するまでもない」

 得意そうな恵美押延。瞬はただ言葉を噛みしめる。

「牛乳もそうだ。実はこの船では数頭の牛を飼っている。私の使った牛乳は北フランス産、ブルターニュのものだ。流石に完全種ではなく、交配種だがな。ブルターニュが生まれのムルソー提督はその微妙な風味を感じ取ることができたわけだ」

 敬忠は思わず唸る。これも勝負のうちなのか。あまりに不利な戦いでは。

「なるほど。合点がいきました」

 瞬の一言。

「そうすると、他の食材もいわずもがな、ですね」

 瞬の言葉に恵美押延は大きくうなづく。

「いかにも。バターはその牛乳から作っているし、加えた香辛料――それらはフランスの植民地のものだ。多分、ムルソー提督はその風味に記憶があるはず――」

 全てにおいて完璧な恵美押延の調理。

 すべてが『フランス』である。ここは故郷を離れた異国の地。かつてフェドセーエフがロシアのパルセラに感動したように、祖国の味はいかばかりにムルソー准将の心を揺るがしたであろうか。

 ムルソー准将は大きくうなずく。対馬守は――腕を組んで微動だにしない。

 その空気を読んだ、船員が大きく白い旗を揚げる。恵美押延の方に差し出されたその旗。

『ヴィクトワール(勝利)!』

 の大きな掛け声とともに。

 敬忠は瞬を見る。瞬はそんな敬忠を見上げる。

「大丈夫です。後二回は――必ず勝ちますから」

 瞬を全面的に信頼する敬忠。ぐっと拳を握る。

『次の試合のテーマを抽選しようではないか』

 ムルソー准将がそうつぶやく。この勝負、すでにあったという雰囲気である。船員の一人が板を選びそれを高々と掲げる。

『次の料理のテーマは『フランス料理キュイジーヌ・フランシーゼ』』

 おい!と対馬守が立ち上がる。当然である。あまりに分が悪いテーマだからだ。

「なにやら、仕込んだのではねぇだろうな?」

 対馬守が睨みを効かせるも恵美押延はどこ吹く風、といった調子である。

「よろしいですよ。ただし、この船の中にある食材を使わせていただけるのなら」

 恵美押延は了解する。とはいえどのような食材があるのか、完全に把握していない以上、瞬の不利は覆りようもない。

『なお......私も少し疲れてきた。フルコースではなく一皿、一皿だ。一皿料理で我が祖国の料理を完結させてみよ』

 ムルソー准将が人指指で一を示しそう宣告する。瞬はそれをゆっくりと翻訳する。

 戦いは二回戦、『フランス料理キュイジーヌ・フランシーゼ』に移ろうとしていた――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ