『新た』なる戦い
『極喰無尽』の船はなんとも異形のものであった。方舟、とでも言うのだろうか。あまり外洋の航海は想定していないようにも見える。海に浮かぶ、倉庫とも見ることができた。
船の横に鉄の扉が見える。恵美押延がその扉に触れると、重い音とともにその扉が開く。
「私の後について来い」
暗い通路。狭く天井も広い。階段を登ると――光が満ち溢れる。
そこは船の中とは思えない大広間がそこに広がっていた。
木製のよく磨かれた床の上には、いくつもの台が並べられていた。そして竈。鍋や釜、食器なども棚に陳列されていた。日本のものもあれば、中国さらにはヨーロッパ製のものもあるらしい。
「この船は『極喰無尽』の心臓でありかつ、脳とも言える部分だ。珍しい食材を保管する船倉とそれを調理するこの大調理室からなっている」
恵美押延は敬忠らのほうをむきなおり、じっと見つめる。
「どうやらお互いの因縁は料理に始まったようだな」
『極喰無尽』の料理。その宴席にでかけたことが敬忠たちが彼らと結びつく結果となった。
「ならば、料理で決着をつけようではないか。ムルソー准将もそれを提案されている。負けた方は――わかるな?」
殺し合い、よりはまともな方法なのかもしれない。『極喰無尽』を許せないと思ったそもそもの原因は彼らが『食文化の破壊者』であったためだ。
「まあ、なんとも珍妙ではあるが悪くない落とし所だとは思うな。暴れるのはいつでもできるしな」
対馬守が太刀を手で擦りながらそうつぶやく。
「敬忠様......」
瞬がじっと敬忠の目を見つめる。
「......私にできることは手伝う、やってくれるかな?」
はい、と大きな声でうなずく瞬。
それを見ていた恵美押延はニヤリと笑みを漏らす。
「では、提案させてもらう」
床に数枚の板を並べる恵美押延。
「これは『極喰無尽』の料理人たちが訓練で用いていたものだ。それぞれの裏には料理の『お題』が記されている。味見役は普段は私がつとめるが、公平を期すためにムルソー准将につとめてもらう。あの方はなかなかの食通でな。我々の国の料理の味にも慣れている」
「それはいいが、おれもその判定に参加させてくれ。結局そちら側の人間にすべての決定権を委ねるのは、なんともな」
対馬守の申し出に、目を閉じて了承の意を示す恵美押延。
一体『極喰無尽』の恵美押延が料理人としてどれほどの実力を有しているかはわからないが、このような勝負を挑んくる辺り、自信はあるのだろう。
しかし、敬忠には瞬がいる。ともに『龍麺』を作り上げた同志の――
敬忠はじっと前を見つめる。次なる戦いに臨むために――




