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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第六章 江戸湾炎上 

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『極喰無尽』の本拠

 ゆっくりとムルソー准将が恵美押延と敬忠の一団の間に入り込む。戦闘の構えを崩す両者。それだけの威厳と圧力が彼にはあった。

『客人同士の戦いは止めてほしい』

 下を向いたまま、ムルソー准将がそう唸る。

 そして杖で甲板を何度か叩く。鈍い音が甲板に響き渡る。

『ここは皇帝陛下の支配するフランス帝国の一部である。ロプレザンタン恵美は大事な客分であるが、外国人。外国人同士がこの偉大なるフランス本土の上で血を流すことなどあってはならないこと』

 ムルソー准将表情を崩さずに恵美押延のほうを向き直る。

『失礼した。少しカッとなってしまったようだ』

 よく通るフランス語でそう恵美押延は謝辞を述べる。

「そういうわけだ。もしこの場で戦闘になれば多分、ムルソー准将は許さないだろう。かと言ってここまで私を追いかけてきて手ぶらというわけにもいかないだろうな」

 恵美押延はそう敬忠たちに呼びかける。

『一つの提案だが』

 ムルソー准将が下を向いたままそうつぶやく。

『...............』

 最初は怪訝な顔をしていた恵美押延だったが、最終的にはムルソー准将の言葉にうなづく。

 そして、敬忠の方を向き直り一言言い放つ。

「ついてきてもらおうか」

 ゆっくりと船が動き出す。南に向けてゆっくりと。

 敬忠はそのまま、じっと船の行く先を見つめるしかなかった――


 一刻ほどの時間が過ぎた頃であったろうか。小さな岩礁が目の前に広がっていた。フランス船から複数の小舟がその周辺に漕ぎ出していく。

 無言で恵美押延が拳銃でその方を指す。そして空に向け一発を放つ。

 それを合図に小舟が何やら引き始める。

 それまで何もなかった空間に――大きな影が浮かび上がる。

「わが『極喰無尽』の本部だ。今の所はな」

 それは今まで水色の帆布に包まれていた大きな船であった。外国船とは違い、まるで戦国時代の安宅船のような様相である。

「すげえもんだな......」

 さしもの対馬守も目を細めてそうもらす。幕府も今、これだけの船を作ることは不可能であろう。高田屋の船も小舟に見える。

「あちらの船に載ってもらおう。そのうえで決着をつけたい」

 恵美押延がそう命令する。断る、という選択肢はなさそうだった。

 ただうなづく敬忠。フランス船から梯子が降り、その下には数隻の小舟が待ち構えていた。

「いつでも――」

 そっと瞬が耳打ちする。状況の成り行きによっては、という合図である。

 一行を乗せた船がゆっくりと『極喰無尽』の船に近づく。まるで城のような威厳を持ったその船。その中には一体何が待ち構えているのか――ギュッと敬忠が両の拳を握りしめた。

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