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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第六章 江戸湾炎上 

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一触即発

『......私は日本の漂流民、しかも『フランス語』ができる珍しい存在としてロシア帝国の当時の首都であるサンクトペテルブルクに連れて行かれた。扱いは丁寧であり、慣れてもいるようだった。いくつもの丘を越え、雪の凍てつく大地を踏み分け三ヶ月以上の旅程であった......』

 恵美押延の語りは続く。対馬守でさえもその言葉に聞き入っていた。

『......今でも覚えている、女帝陛下――エカチェリーナ二世陛下に謁見したときのことを。今までこの時代のことをただただ憎んでいた。しかしそのときは違った。ようやくこの世界に生きている意味を感じることができたのだ』

 自分を省みる敬忠。『ラーメンを作ること』に熱中した日々もまた自分なりの充実感があったことを感じつつ。

『......女帝陛下は驚いておられた。私がフランス語を話すことを。私は令和の時代、趣味ではあるがフランス料理を一通り学んでいた。当然この時代にはない、”ヌーベル”なフランス料理を。女帝陛下は私の料理にも満足されていたよ。おかげでそれなりの地位と身分、そして富をてにいれることができたのだが.....』

「ならば、なぜ」

 瞬が口を開く。

「この国に戻ってきたのですか?」

 瞬は疑問をそのまま口に出したに過ぎない。誰でも感じる疑問である。

「自分の人生を完結させるためだ」

 今までの思い出を語る口調から現実に引き戻されるような口調に変わり、そう恵美押延は吐き捨てる。

「私は『令和』の時代、この国で十分すぎる地位と富を築いていた。時代が変わったからといって、なぜ漂流民として異国の大地に果てなければならないのだ?!コックまがいのことをして!!」

 すっと右手を上げる恵美押延。突然闇に感じる気配。瞬は身構える。

「余計な『極喰無尽』のメンバーには海の藻屑と消えてもらった。いまこの船に乗っているのは、私を主として信奉する腕利きの部下のみだ。試してみるか――?」

 暗闇より放たれる殺気。瞬がナイフを構える。対馬守も。

 五人はいようか。先程までその気配を感じられなかった辺り、かなりの手練のようである。部屋の中からこの甲板に敬忠たちをひきだしたのもこのためだったのだろうか。

 いつ撃ち合が始まってもおかしくない状況。静かな沈黙が辺りを支配する。

『アリーテ!!』

 その静寂を切り裂くような、フランス語の叫び。『止め!』の意味である。

 その姿がゆっくりと現れる。背後に数多くの屈強な船員を引き連れて。

 船長――オディロン=ムルソー准将その人の登場であった――

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