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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第六章 江戸湾炎上 

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皆の決心

「それは――どういうことですか」

 向かい合う二人。瞬と敬忠の二人が誰もいない甲板の上で話をしている。

 瞬はそう言ったきり口をとざす。

『瞬殿には船を降りてもらう』

 そう敬忠が切り出した話。この間ずっと心に秘めていたことを打ち明けた瞬間であった。

 本格的に『極喰無尽』との戦いが始まろうとしていた。敵の戦力は不明であるが、先日の闇討ちを見るに命をかけての戦いになることは明らかであった。

 瞬の存在――この間、瞬にはさんざん助けられていた敬忠である。彼女の持つ『能力』は何者にも代えがたい。しかし――あくまでも彼女は『子供』である。令和の意識があるとはいえ、まるで道具のように瞬を使っているような気がして、自分のことが嫌になっていた敬忠であった。

 今ならまだ――

 財産はすべて処分した。その一部は高田屋に船賃として、そして大部分は信用のおける人物に委ねてあった。瞬一人なら十分に不自由なく過ごせるくらいの額である。

『私の死後、すべての財産は幼女である瞬に委ねるものとする』

 そのような遺書もしたためていた。

 しょうがない。これ以上巻き込むわけにはいかないのだから――

「私は、敬忠様にひろわれました」

 少しの間の後に口を開く瞬。

「多分あそこに奉公していたら、おとなになる前に死んでいたことでしょう」

 瞬との出会いを思い出す敬忠。蕎麦屋での邂逅。瞬が敬忠を『令和』の人間であると見込んだことが始まりであった。

「私自身、これから先どのような人生があるかはわかりません。ただ、今のこの状況を見捨てて自分の未来があるとも思えません。なにより、敬忠様がおられない日々をどのように過ごしたらいいのでしょうか」

 はっとする、敬忠。瞬の頬に涙が伝うのに気づく。

 敬忠はそっと、瞬の頬に手をやる。

 そして静かにうなずく。

 覚悟は決まった。瞬とともに戦う覚悟を。そして、絶対に無事に帰ってくるとい誓いも。

「まあ、数は大いに越したことはないだろうしな」

 はっと振り向く敬忠。そこにはひげが伸び放題になっている対馬守の姿があった。大きな槍を振り回し、体をほぐしているようだった。

「俺も参加させてもらう。まあ当然だな。この時代に異国と一戦交えられるたぁ、果報にすぎる。戦国の時代だってこんな派手なことはなかっただろうしな」

「対馬守殿......」

 すっと、手を出す対馬守。

「その呼び方はもうやめてくれ。そうだな。昔のように源次郎とでも呼んでくれ」

 そう言いながら対馬守は船室へと消えて言った。

「対馬守様は、毎日うちの人夫を鍛えてくれています。戦いに望んで、少しでも被害が少なくなるようにと」

 いつの間にか、高田屋もそばにひかえていた。

「何にしても、高田屋、引き受けた仕事は全ういたします。どうかご心配無きよう」

 はい、と瞬が大きな声で答える。

 陸の見えぬ海の上――あとは『極喰無尽』の乗り込む船を見つけるだけであった――


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