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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第六章 江戸湾炎上 

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『令和』のロシア語

 広い船室に通される一行。

 このような調度の部屋にはいるのは『令和』以来であったろう。落ち着いたアンティークのような家具が並ぶ。喫茶店の一室と言うには少し狭いが、正面には大きな執務机があしらえてあった。

 直立不動の一行に、立派ななりの男性が椅子への着席を手で促す。

 椅子もどっしりとしたもので、日本のものよりも大きく感じられる。

「クプリヤーノヴィチ=フェドセーエフ提督様、ご機嫌麗しく――」

 高田屋の挨拶。そばにいるアイヌ人が対面にいる同じくアイヌ人と見える男性に何やら話しかける。

「フェドセーエフ提督はロシアの軍人にござる。言葉は日本語を解するアイヌ人とロシア語を介するアイヌ人の間を通じて、通訳をしております」

 少しの間の後にうなづくフェドセーエフ提督。

「なるほどなぁ。蝦夷地の頭目ともなれば、おろしあの人物とも懇意というわけか」

 対馬守が総感想を述べる。心配そうに見つめる敬忠。

「心配するな。乗りかかった船だ。今更、鎖国の御法などめんどくせぇ事は言わねぇ。しかし『極喰無尽』の船を探すのに、おろしあがどのように関わってくるのか、ちと興味深いな」

 顎に手をやりながら、じっとロシアの軍人を見つめる対馬守。

 アイヌ人二人の通訳を介して高田屋とフェドセーエフ提督の間に話が展開される。このようなやり方であればお互いの意思を疎通することも難しいことではない。

「しかし、いささか手間がかかるな。難しい交渉なれば、なおのこと」

 対馬守の分析。果たしてロシア語に『極喰無尽』のことをうまく翻訳する方法があるのか、という疑問も大きい。

 そんな時、瞬がそっと敬忠のそでをつかむ。

「敬忠様......」

 じっと敬忠を見つめる瞬。

「でしゃばりかもしれません。もしくは、不審に思われる可能性もあります。しかし、今はこちらの本意を伝えるのが何より大事かと――私におまかせいただけませんか?」

 うなずく敬忠。高田屋に敬忠は小さく耳打ちすると、高田屋も同様にうなずく。

 瞬は一息吸って、呼吸を整える。

提督アドミラール――」

 流暢に流れ出る異国の言葉。最初は呆然としていたフェドセーエフ提督であったが、うなずき始め直接言葉を返す。それに応答する瞬。にやりと笑みを浮かべ、側にいたアイヌ人を船室の外にさがるよう手でジェシチャーする。

『敬忠様。『令和』の時代の仕事でロシアに二年ほど駐在していたことがあります。この時代のロシア語とどのくらいの違いがあるのかわかりませんが、多分伝言ゲームのような翻訳よりはものの役に立つかと主ます。試させていただけないでしょうか』

 是非もない申し出である。瞬にこの場は任せてみることにした敬忠であった。

『この国の人間が我が帝国の語を解するとは......汝、元漂流民......というには年が若すぎるな。いずれで学んだのか』

『私の語学についてはまずおいて.....フェドセーエフ提督閣下には是非にお聞きしたいことがあります』

『私に――ふむ。面白い、述べてみよ。ことと場合によるがな』

 ロシア語で始まる二人の会話。一同の目が二人の間の空間に釘付けとなる――

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