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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第1章 江戸時代にラーメン屋をつくるためには

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求む、協力者

 日本橋の一角。表店に面する乾物屋『矢作屋』ののれんをそっとくぐる。手には大きな包。まだ日は高い。はあ、とため息をつく忠敬。眩しそうに初夏の太陽を手で覆う。

(......なかなかに難しいものだな......)

 ”ラーメン”に必要な具材。特にスープに関してはさしあたって必要そうでこの江戸時代ですぐに手に入れられそうなものとしては―――出汁としての鰹節、煮干し、昆布などが考えられた。しかしそれらを令和の世のようにスーパーなどで調達するというわけにもいかない。当然専門店に行くことになるのであるが―――どうも要を得ない。いくつか試しに乾物を購入したのであるが、なにかピンとこなかった。”彼女”は令和の世でこのような食材から出汁をとったことはないのだ。自炊をしなかったわけではない。自分で味噌汁などを作ることも多かった―――しかしだいたいはだし入りの味噌か、うま味調味料で味を整えていた。しかしこの世界ではそうは行かない。おぼろげな”ラーメン”の旨味の記憶と、ノートに記された漠然とした味の記録を元にして”スープ”を作らねばならない。

 蕎麦をたぐってわかったことであるが、この世界で比較的作りやすいのはまず”スープ”であると判断した。醤油はある。そして塩も。次は和風の出汁である乾物―――と思って購入はしたもののどうこれを使ったらよいか途方に暮れていた。乾物屋に相談とも思ったが、この武家のなりでそういう質問をするのもはばかられた。まずもって腰に二本差した侍が昼のこの時間に乾物を購入するだけでも店番の番頭は不思議そうな顔をしていたのだ。

 忠敬は”目覚め”る前からある程度の自炊はこなしていた。しかし”ラーメン”を作るレベルの料理となると―――一人ではなんともできないというのが事実である。

 トボトボと路地を歩く。何気もなく道端に目をやると、先程入ったのとは違う蕎麦屋が見えた。足がふらりと暖簾に向かう。疲れていたのだろうか、元気のいい声にむかえられ、席に座る。

「いらっしゃいまし!」

 若い女性―――というか少女のそれ。

「蕎麦はよい。酒と、焼海苔を」

 はい!、と元気よく答え奥の方に姿を消していく。程なくして熱燗と数枚の焼き海苔が届く。ちびちびとやりながら、今後の身の振り方を考える。

(......どこぞの板前でも雇うか.....しかしそれもな......)

 あまりうまくはない酒。如何に本醸造とはいえ、保存の状態が未来とは違う。この蕎麦屋で出る程度のものであればたかがしれよう。

 こういう夏を感じさせる頃合いには生ビールなどがいいな―――とぼんやり思っていると、耳をつんざくような大きな音が忠敬を襲う。

 新たな出会い―――その瞬間であった―――

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