この国の姿
「『龍麺』は令和の時代に私が好んで食した『ラーメン』が原型となっています。最初はそのまま再現しようと思っていたのですが、こちらの瞬殿と出会い、そして色々調べていくうちにあることに思い至ったのです。『令和』のラーメンではなく『江戸』のラーメンを作ろうと。『極喰無尽』の料理を食べてさらにその思いは強まりました。いわゆるフランス料理――味も材料も見事なものでした。しかしそれはまるで天狗の神隠しのように突然現れては消えるような、一種『まやかし』な味でした。決してこの世界にあってはならない、ありうるわけもない料理。今までの江戸の文化を破壊し、そして珍しさをただ消費するだけの料理です」
ふむ、と敬忠の主張に高田屋は合いの手をうつ。
「それは理解しました。私に故郷の鰆をふるまったのは、『龍麺』は今の食文化の延長上にあるということですな。しかし、それならばなぜ味噌を西のものをお使いになりませんでしたか?その方が意図を伝えやすかったのでは。私が味わった感じですとどうやら仙台味噌のようです。その意図を教えていただければ幸いです」
瞬がすっと前に出る。敬忠に目配せをすると口を開く。
「私も『令和』の記憶を持つものです。『令和』の世、この国は日本と呼ばれ藩の枠組みを超えて一つの”網”を作っています。蝦夷地の芋を加工した菓子を琉球の民が食べ、まるで血管のように物量が日々循環しています。ある地域の特産品が他の地域で独自の発展を遂げ、名物になったりもしています。この『龍麺』のもととなったラーメンですと、蝦夷地で発明された味噌味が全国に広まったりもしています。高田屋様の目指すところも同じなのでは。国内で自由に商業や貿易を行い、少しでも安くそしていい商品を各地の人に届けようとする――単なる儲けではなく、社会、いえ万民のために。そういった意味でも最近近海に現れる外国船には危機感を持っておられるのでは。『極喰無尽』はまさにそういうことを企図して暗躍しているのです――」
目を閉じて瞬の訴えに聞き入る高田屋。両手で冷めた茶を抱いて、はるか上を見つめる。
「確かに、そうなれば民は豊かな生活を送れるようになるでしょうなぁ.....」
そして、敬忠の方を見つめ平伏して一礼する。
「柳橋様、お試しするようなことをして申し訳ございませんでした。心底、しっかりと受け止めさせていただきました。この高田屋、柳橋様に対してできうる限りのことをさせていただきます。フランスの船を見つけそれに近づく算段、お任せください」
高田の申し出に敬忠は体の力が抜けるのを感じた。それを瞬が支える。
「ただ」
高田屋がそうつぶやく。
「せっかくの機会ですから、『龍麺』とやらも食べたいところですな。いやぁ、わたしもそういうものには目がない方でして」
大きく瞬がうなずく。
その夜、高田屋宅では瞬の渾身の『龍麺』がふるわれた。
蝦夷地から江戸に――再び舞台が大きく変わろうとしていた――




