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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第五章 海原の遥か、時の彼方

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凡庸な料理

 ――三日後。高田屋の奥の間である。高田屋の前には膳がおかれその前で調理をする瞬。たすきをかけ、目の前の七輪に火を入れる。畳の上の板に置かれた七輪がゆっくりと吹きあがり、上の網を熱する。

 高田屋はただそれを見つめる。『龍麺』とやらの調理がいかなるものか見届けてやろうという、算段であった。

 瞬はそっとさらしにまかれた塊を取り出す。丁寧にさらしのつつみを開くと中から、味噌の塊が出てきた。菜箸でそっとその味噌をぬぐう。中からは味噌につけられた、何やら魚の切り身のようなものが現れる。

(......?)

 小首をかしげる高田屋。食べさせてくれるのは麺と聞いていたが、なぜ魚を焼き始めるのか。

 部屋に魚の焼けるいいにおいが充満する。そして味噌の少し焦げたにおいが、鼻孔をくすぐった。

 櫃を寄せ、椀にご飯を盛る。それをそっと、高田屋の膳の上に置く。

 そして、魚の切り身が焼きあがったのを確認すると。平長の皿にそれを盛りつけた。

「これですべてです。敬忠様の高田屋様に対する説明の意を含んだ料理は」

 瞬が深々と礼をしながらこう言上する。

 麺ではないことに動ぜず、箸を持ち魚をつまみ口に運ぶ高田屋。

「......?!」

 高田屋の表情が変わる。船乗りだけあって、魚の種類には詳しい。当然その時も瞬時に区別がついた。

さわら......?いやしかし......」

 いぶかしがる高田屋。無理もない。蝦夷地ではあまり産することのない魚である。

「高田屋殿は、淡路の生まれとお聞きしております。故郷ではさぞかし食されたでありましょう」

 敬忠がそう答える。瀬戸内海に面する淡路では鰆がよく食される。場合によっては刺身などでも。この鰆は先日港で珍しくとらえたものを、味噌で一昼夜漬けて焼いたものであった。

「懐かしい味でございますな。函館でさわらの味噌漬けを食することになるとは、思いもしませんでした」

 高田屋は何度も箸を伸ばし、口に運ぶ。

「味噌は上方のものではなく、あえて仙台味噌を使っております。米も――あっさりとして柔らかな越後の産を吟味しました」

 飯を口に運ぶ高田屋。普段から体を動かしていることもあり、食はよい。あっという間に椀と皿が平らげられてしまった。

 箸をおきなおし、高田屋は両手を合わせる。

「実に――結構でございました」

 そして敬忠の方を向き、じっと見つめる。

「さて、教えてもらいましょうか。この飯と魚がなぜ『龍麺』の――『極喰無尽』と柳橋様のなされていることの違いになりえるのか。その上でこの高田屋、納得したく存じます」

 敬忠は居住まいをただし、話を始める。『龍麺』ではなく、この凡庸な料理に込めた思いを――。



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