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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第五章 海原の遥か、時の彼方

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予期せぬ”魚”

 床に並べられた食材。高田屋の蔵や、函館の市場より集めたものである。

「小麦粉......鶏肉......ほぼ問題なく揃いました。調味料は少し風味が違いますがそれはそれでいいあくせんとになるかなと」

 娘の姿に着替えた瞬が、たすき掛けをしてそう分析する。

 高田屋との約束。最高の『龍麺』を食べてもらい、『極喰無尽』との違いを味を持って実証するという困難な試練である。しかし、それができなければ『極喰無尽』が本拠である船――多分、恵美押延らが乗り込んでいるのはフランス船――に行き着くことはできないのだ。

 間違いない、多分瞬は最高の『龍麺』を作り出してくれるだろう。しかし――何かが心に引っかかる敬忠であった。

「どうかなさいましたか?」

 瞬が下から敬忠を見上げる。

「いや......何か違和感がな。うん、瞬どの二人で少し歩かないか?」

 瞬はニコリと笑うと、そっと手を差し伸べる。


 函館の港は湾になっており、外洋よりは遥かに波は落ち着いている。それでも江戸の海の穏やかさから比べると、荒れているようにさえ見えた。

 漁船が数多く見える。湾内で漁をしているらしい。湾内でも魚群の群れが絶えることはないようだ。

「すごいですね!」

 瞬がその様子をじっと見つめる。

「うむ」

 両手を組み、空を見つめる敬忠。それに気づいた瞬は敬忠の袖を引っ張り、走り始める。

 港に到着する漁から帰ってきた漁船。どの船にも魚が満載されていた。

「すごいです!大漁ですよ!」

 瞬が興奮する。船から溢れんばかりに、網の中の魚が跳ね回る。

「イワシやスケトウダラですね。とうぜんイカもかかっているようですが......」

 じっと魚を見つめる敬忠。そして、あることに気づく。

「漁師の方、忙しいところ申し訳ない。少し教えてもらえんだろうか」

「へい」

 武士の身なりの敬忠に、へりくだって若い漁師が答える。

「そちらの桶の中にある魚は、なんであろうか」

「こちらですかい?いわゆる雑魚でして。売り物にならないようなやつでさぁ。まあ、肥の足しぐらいにはなるかもしれませんが。それでもイワシに比べたら月とスッポンでさぁ」

「見せていただけぬか」

 桶の中をじっと見つめる敬忠。いろいろな魚が桶の中ではねていた。

「瞬殿」

 名を呼ばれた瞬も、桶の中を見つめる。

「.......!へえ!」

 驚きの声を上げる瞬。

「こんな北でこの魚がかかるとは。迷子ならぬ迷魚というべきなんでしょうかね。珍しい」

「!」

 敬忠は船の中で呼んだ書付を思い出す。対馬守が用意してくれた高田屋嘉兵衛に関する身上書であった。

『淡路国津名郡都志本村の百姓の子として生をうける。年取りて郷土を離れ、叔父の堺屋喜兵衛を頼って兵庫津にすめり』

 突然、桶を手に取る敬忠。

「後で支払いはさせていただく。申し訳ないがこの魚はいただくぞ。高田屋殿の家に客人としている柳橋弾正と申す。また――」

 瞬の手をとって走り出す敬忠。別な手の腋には桶をガッチリと抱きしめて――

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