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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第五章 海原の遥か、時の彼方

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一つの提案

「今、ヨーロッパは戦国の世にあるようです」

 高田屋はそう切り出す。

「フランスのさほど偉くもない武将が下剋上はびこるフランスで成り上がり、国王になりおおせたとか。名は奈破崙ナポレオンと申しましたでしょうか。当然周辺諸国は黙っていません。しかしあのオランダやスペインすらかなわないほどの勢いとか。当然ロシアも彼を恐れること、尋常なものではありませんでした。もし、あなた様のみた船にフランスの積み荷が載っていたとするならば――それは彼らがこの『日本』まで進出をし始めたということでしょう。そして、それに『極喰無尽』とやらが何かしらの形で助力していると」

 ふう、と大きくため息をつく高田屋。

「私の知っていることはそれだけです。ご期待を裏切って申し訳ありませんが......」

 静かな沈黙が流れる。敬忠は頭の中が真っ白となる。ここですべての線が絶たれてしまったような気がした。

「一つ、質問をしてもよろしいでしょうか」

 高田屋がそうつぶやく。

「正直、わからないのです。みなさまが江戸で売り出している『龍麺』なるものと、『極喰無尽』が振る舞っている未来の料理の違いが。あなたがた様が嘘をついているようには思えません。『龍麺』については、店の若いものから噂は聞いていました。なればこそ......何れにせよ、この世界にはない料理を提供している点では、同じのように思われるのです。いかがでしょう。取引、というのは卑怯かもしれませんが、その違いを腑に落ちるように説明いただけないでしょうか。もし、納得がいくようであればこの高田屋、全力を持って皆様に協力を惜しみません。自分が納得できないことは、私が最も忌み嫌うものです。何しろ学もないゆえ、ただただ目の前での言動からしか判断できないのが悲しいところですが」

 高田屋の提案。もっともといえばもっともな話である。この時代の人々から見れば、敬忠の『龍麺』も『極喰無尽』の作るフランス料理もさして違いはないはずなのだから。

 ならば、論より証拠ではないか。

 敬忠は瞬の方を見つめる。こくんとうなづく瞬。

「わかりました......目に見える形で違いを証明させていただきましょう。準備に三日ほどいただきたく思いますが、いかがでしょうか」

「是非もございません。その『龍麺』とやらを作っていただけるのですね。辺鄙な港町とはいえ、店の蔵には大体の材料は揃っているはずです。宿も店の別邸をお使いください。この高田屋嘉兵衛、客人には最高のもてなしをさせていただきます」

 対馬守がにやっと表情を崩す。

(こりゃぁ......決闘だな。きったりはったりのちゃんばらよりもおもしろそうだ)

 三日後、高田屋の厨房でことが決する。

 それは、今後の成否をも含めて――

 


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