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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第4章 捜索の果てに

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関八州、捜索の網の中に

 かくして、対馬守の号令の下『極喰無尽』の捜索が開始された。

 江戸だけではなく広い地域が、捜索の対象となる。

 関東取締出役の役人に採用されていたのは、関東に存在する代官所の手代が主であった。彼らは足軽の身分であったとはいえ、下手な直参よりも頼りになる存在であった。幕末の状況を見ればわかる通り、保身によくよくとする上級武士よりは青雲の志を抱えて東奔西走した、若く身分の低い志士たちの方がどれほど功績を残したことか。

 まして、その元締めが対馬守である。本来は名ばかりの支配であるのだが、彼は違っていた。1カ月分の勘定奉行としての仕事を完璧に終わらせると、陣笠をかぶり馬に乗って単身いずこかに消え去っていった。

 むろんそれを快く思わないものも多かったが、将軍家斉のお気に入り水野対馬守である。誰も公然として批判する者はいなかった。

「おもしれぇな、まったく」

 関八州を連れもなく単騎走り回る、対馬守。到底、五千石取りの直参旗本のなすこととは思えない。

 まずもって、幕府の危機である。敬忠から聞いた話では、『極喰無尽』とはかなり『やばい』組織であるらしい。新型の飛び道具をもち、あちこちに拠点をめぐらし――

 太平の世に、そんな大それたことを考え実行する奴ばらがいるというだけでいてもたってもいられなくなる対馬守。まして、そいつらを倒すことは幕府の官吏としての正義にもかなう。

 一挙両得、普段の憂さも晴らせて好きに暴れられるとあればこれに勝る喜びはなかった。

 身分を隠し旅籠に泊まり、現地の関東取締出役の役人から捜査状況を聞き出す日々。

 最初は勘定奉行と称する対馬守に怪しげな疑いを持っていた役人たちも、酒を飲み進める中で完全な信頼を寄せるようになる。

 水野対馬守清忠――生まれる時代を誤ったのかもしれない。乱世なれば、一国くらいはゆうに動かせる能力の持ち主であったのだろうが。

「最近、八州の村々で名主や商人たちがよく会合をしております」

 ある関東取締出役の役人がそう対馬の守に告げる。

 ふうん、と目を細める対馬守。

 江戸ではよく金の余った大商人を集めて、『極喰無尽』が集まりを開いていたことを思い出す。

「それはくせえなぁ......」

 一人だけではない。複数の地域から、そのような報告がなされていた。

 下総のある天領に対馬守は目をつける。現地の代官は最初は対馬守の風体に疑心暗鬼であったが、対馬守が本性を現すと平伏して指示に従うことを約束した。

(本来なら、俺がここまで深入りするのもまずいんだろうが......ままよ。おもしれぇことは独り占めしないとな)

 関東取締出役の役人だけではなく、代官所の役人たちを動員して計画を実行する。

 浅見村というこの代官所の管轄では最も大きな村。その名主宅でなにやら、集まりがあるというのであった。

 夜、名主宅周辺に対馬守は手勢をめぐらす。理にかなった完璧な布陣。まさに、生まれついての戦場の才というべきか。

「そろそろ、だな」

 赤い旗を関東取締出役の役人上げさせる。突入の合図。

 一斉に捕り物の道具を持った役人が走り出す。先頭はもちろん、対馬守。

 厚い家扉を槍で一閃、真っ二つに対馬守は突入する。

「関東取締出役、御用改めである!動くものは容赦なく成敗するぞ!控えよ!」

 右手に槍、左手に刀を掲げる対馬守――

 その夜、数十人の商人たちが捕縛された。その中には『極喰無尽』の幹部と思しき人物も含まれたいた――


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