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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第4章 捜索の果てに

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源次郎の告白

 関東取締出役。文化の世に関八州の治安を維持するために作られた、勘定奉行配下の組織である。

 江戸時代の幕藩体制はアメリカの連邦制に似たところがある。州をまたいでの犯罪にはFBIつまり、連邦捜査局がアメリカ全土を対象にして捜査を行うのだ。

 関八州は天領や寺社領が複雑に絡まり、それぞれの治安を守るべき管区の割り振りが難しいところがある。FBIに先立つこと、百年。江戸では領域の枠を超えた関八州に全域的な公安・警察組織を立ち上げたのだった。いかなる所領に対しても幕府の権限で、捜査や逮捕の警察権を発動することができる組織。それが関東取締出役であった――後にその働きから『八州廻り』などと俗に言われるようになる。

「なるほど。連中に任せれば、その『極喰無尽』とやらの動きも明らかになるであろうな」

 扇子を叩き、腑に落ちる対馬守。仰せの通り、と敬忠はただ平伏する。

「しかしな......一つ合点がいかないこともある」

 頭を上げる敬忠。それに対して、それまでの表情を崩して対馬守がにやりと笑う。

「なんで、おめぇがこんなことに首を突っ込んでいるのかだ。お家はもう隠居したらしいな。水臭い。知らせぐらいよこせよ。いったいなんでこんなことになったのか、そのことを知りてぇんだが、教えてくれるだろうな?」

 敬忠は、こくりとうなずいた。

 「自分は『令和』の記憶を持っております」

 その一言を皮切りに、とうとうと語りだす敬忠。

 自分は『令和』の時代、保坂恭子という女性だったこと。ラーメンという食べ物をこよなく愛していたこと。江戸の時代に転生し、その記憶を取り戻したのが二十歳を過ぎてからだということ。そして、戯作の開始。蔦屋重三郎に見込まれ、『笈川月町』としての人生の開始。ちょっとした財を築くに至ること。さらには、瞬との出会い。そして――『極喰無尽』との出会い――

 ほうほう、ともっぱら感心している体で対馬守は顎に手をやりながら、話を聞いていた。

「そんなこともあるもんだ。面白い。それが嘘だったとしても、信じて後悔はしねぇくらいの面白さだな」

 初めて出会ったとき、対馬守は神社の社殿の中に土足でいた。いくら何でもそれは神様に失礼では、と敬忠が問うと対馬守つまり当時の源次郎はこう言った。

『これしきの事でいちいちばちを与えるような神様でもあるまい。こんなお社が汚くなっているのに我慢されているくらいだから。不道徳に天罰が下るってぇんなら、お城の大奥はすでに落雷かなんかで消しとんでらぁ』

 皮肉ではあるがきわめてもっともな論理でもある。

「これで何となく合点がいった。いやさ。こちらの話だが。いい機会だ、言ってしまおう」

 とても楽しそうな表情で、対馬守は告白する。

「いやな、実は......おめえ、そう、恭之信と呼ばせてくれ。お前のことが......好きだったんだよ」

 照れくさそうに対馬守がそうつぶやく。なんとも言えない顔になる敬忠。

「衆道、っていうやつかなと最初は思ってた。でもな、全くほかの奴にはそんな気持ちは感じなくてな。自分でもその理由をいろいろ考えたのだが、うまく消化できなかった。いったよな。『令和』では女だったと。もしかしたら、その部分に惹かれたのかもしれん。まあこの世では男のわけだから失礼極まりない話だが」

 敬忠は首を横に振る。それもまた、ものの見方なのだろう。気持ち悪さはない。見えないはずの未来で転生前の自分の存在を認めてくれたような気がして。

「まあ、話はここまでにして、飲むか」

 新しく燗した酒を敬忠にすすめる。それをすっと飲み干す敬忠。

 不思議な酒の味を、ゆっくりと味わいつつ――

 


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