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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第4章 捜索の果てに

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冬の出会い

 はあ、と手に白い息を吹きかける。寒い、というより痛さが先に感じる。

 段々と井戸の水にも硬いものが混ざるようになってきた。江戸は駿河よりも寒いのだな、という当たり前の感想を胸にいだきながら歩みをすすåめる。

 まだ顔には幼さが残る少年。月代こそ剃っていたが、元服したのは一年ほど前のことである。親藩駿河小島藩の弾正年寄本役の嫡男として生まれた彼は、将来柳橋家を継ぐ身であった。名は柳橋恭之信、のちの弾正敬忠の数え一五歳の頃である。駿河小島藩藩主松平丹後守信義に幼少より目をかけられ、異例なことに江戸の学問所昌平黌への進学を藩命として命じられていたのだ。

 駿河小島藩は親藩とはいえ、小藩である。中屋敷より毎日、弁当を持参して学問そして、武道に勤しむ毎日であった。寛政の改革が頓挫して間もないこの頃、いまだ文武は奨励されていた。

 敬忠自身、嫌なわけではない。刺激のない藩にいるよりは、よっぽど厳しい日々とはいえ江戸ぐらしは快適なものであった。

 荷物を抱え、ふと通りすがり神社に立ち寄る。

 それほど信心深い方ではないが、見たことのない建物を見ると好奇心からつい立ち寄ってしまうのだ。

 境内には薄っすらと霜が降りている。人はだれもいない。質素な本殿に向かい、一礼し、拝礼する。具体的な願いがあるわけでもないが、まあ形式も大事である。

 その場を離れようとした敬忠であったが――なにか違和感を感じる。

 本殿に何やら人の気がするのだ。

 木の階段を登り、そっと本殿の正面の扉を開く敬忠。

 鍵はかかっていない。重い音ともに、観音開きに扉が開く。

 暗い部屋。それほど広くはない。

 ぎょっと、敬忠は目を疑う。畳の上に、黒い大きな人影が横たわっていたのだ。

「もし――」

 誰何する敬忠。反応はない。もしや行き倒れなのではと、心配する敬忠。

 体を軽く揺する。息はあるようだった。

 突然、その体が立ち上がる。敬忠は弾かれたように、後ろにひかえる。腰のものに手を伸ばしながら。

 敬忠より一回りは大きな体格。右手には二本、大小が握られていた。

 その顔は――無精髭が伸び、まるで仁王のようにも見える。月代もあまり手入れされていないようだった。

「おう、起こしてくれたのか」

 のびをしながら、男はそうつぶやく。

「ここで、一体――」

 少し震えながら、質問する敬忠。それに男はにやけながら、こう返した。

「腹が空かねぇか。酒も冷めたしな。驚かせたお返しだ、おごってやるから付き合えよ。ええと――名前はなんだ?」

 少しの沈黙。相手も武家らしいことを確認して敬忠は返答する。

「駿河小島藩藩主松平丹後守様の家中で柳橋恭之信と申す。そなたは?」

「そなたは、ってほどではないがまあ武家だよ。幕府直参旗本水野源次郎だ。まあ、かなり不良だがな。怪しいもんじゃねぇ。安心して付き合え」

 それが敬忠と対馬守の最初の出会いであった。

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