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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第4章 捜索の果てに

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瞬の手業

 布団のうえに蔦屋の大きな体が横たわっている。意識はない。不定期な細い息遣いがまだ事切れていないことを示していた。

 瞬は右足の包帯を丁寧に取りのぞく。結構大きな銃創が腿に現れる。

 令和の時代――このような経験は何度もあった。医者がいない状態での負傷。最もあの時代は、銃の威力の強さから軽症かはたまた死に至る重症かであまり手当も期待できない状態であったが。さらには携行の鎮痛剤も存在した。そう考えると、これからすることに対して蔦屋が意識がないのはむしろ好都合であったろう。

 鉄の鍋から、細い金属を取り出す瞬。それは敬忠の刀の小柄であった。

「まさか、圧力鍋を作ろうとしていたのがこんなことに役に立つなんて......」

 不完全ではあるが、かなりの圧力をかけることができる手製の圧力鍋である。これで小柄を煮て通常の熱湯よりも高い温度で、滅菌することができた。いわゆる高圧蒸気滅菌という手法である。

 傷の周りのみを、濃い焼酎で滅菌する。傷口の白血球まで殺しては意味がない。

「抗生物質......あればいいんですけどね。あと百年待つわけにも行きませんし」

 瞬が額に汗を浮かべながらそうつぶやく。口にはさらしを巻いて。

 そっと傷口に小柄を立てる。

 すべてが終わったのはそれより小一時間後のことであった。


「これが......」

 小さな枡の中に入れられた血まみれの弾丸を敬忠はしげしげと見つめる。

 通常の火縄銃の弾丸と趣が違う。やや細長く、周りには螺旋状の筋が見えた。

「ライフルの旋条痕ですね。かなり深いからあまり性能は良くはない感じですが。なにより素材はやはり鉛ですね。正直、うまくいくかどうか心配だったのですが摘出してよかった。体の中にとどまった状態だと、ここから傷が更に悪化する可能性が大きかったので」

「瞬どの。本当に苦労をかける」

 頭を下げる敬忠。瞬は逆に恐縮する。

「私も医者というわけではなく。『令和』の時に経験のあった応急処置を真似ただけです。このあと感染症や敗血症などにならなければよいのですが......」

 不安そうに蔦屋を見つめる瞬。

「そうだ、点滴を作りましょうか。無論、血管から取り入れるのは無理としても。意識が戻った時に経口でとれるように、甘酒を作ります。なるべく上澄みにして、飲みやすく」

 敬忠は自分の身を情けなく感じる。瞬の『傭兵』の経験に対して、さして役に立たない自分の『令和』の記憶を。単に平和な日本のオフィサーとして、この江戸では対して役に立つわけでもない知識しか持っていないことに。

 ――蔦屋が意識を回復したのはそれより、一日後のことであったーー

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