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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第4章 捜索の果てに

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瞬の挑戦-4

「さて、冷やし中華か」

 瞬は腕まくりをする。これは保坂恭子、つまり敬忠のデータベースにも記されていない。むろん令和のシュンは子供時代に食べた経験はある。その経験のみが、知識の全てであった。

「どうしても麺は冷やすと、素性が出やすいからこの麺は特殊に作る必要があるだろうな」

 麺打ちから始める瞬。卵を小麦粉に混ぜ、よく練る。あえて熟成はさせずによくもみ、縮れをつける。麺の細さはやや細い。

「スープがよく絡まるように――何より、この時代の人ののどごしに違和感なく――」

 スープは通常の龍麺のものを流用する。やや濃い目にした上で、かつ酢とごま油を加える。

「具は――この時代に好んで食べられる香味野菜がいいかな。きゅうり、大葉、水菜。あとは炒った海苔を千切りにして――」

 手早く盛り付ける瞬。あっという間に冷やし中華が出来上がる。両手を合わせ試食する。

 悪くない。夏の暑い盛りに、野菜を食べる料理としては最良にも思われた。また蕎麦とは違い、酢の味が食欲を増してくれそうな気がした。

「『北冷龍麺』とか言う名前も良いかもな......」

 帳面に新たに冷やし中華のレシピを筆で書き込む。

 次はつけ麺である。

「これもほとんど食べたことないんだよね――いや、すごく令和では流行っているって聞いてたけど」

 うろ覚えのまま、麺を小さな手でこねる。麺は太めに。針金のように。

「イメージとしては硬めのうどんかな。『喉で食べる』みたいな。のどごしを楽しみつつ、胃に炭水化物が吸い込まれるのを楽しむかんじかな?飯とは違った感じで」

 次に取り掛かったのはスープ。ストレートの太麺ということもあり、正直麺にスープは絡みにくい。なればこそ、濃厚極まりないスープが必要とされるはずであった。

「豚骨は除外だな......そうなると魚介系。鰹節、昆布、煮干し......これでもかと濃く煮出して、更にそれをもう一度同じ出しで煮出す。鶏の油が大部分も一緒に煮て油分を増やす。魚介系の強い風味で鶏の独特の風味は消えるはず......最後に柚子の絞り汁を加えて、味にアクセントをつければーー」

 白濁したスープが出来上がる。これには大きく切り取った海苔を何枚も添えて、龍麺と同じくご飯とセットで食べられるようにする。

 麺の何本かを箸でたぐり、濃厚な出汁につけ、一気にほうばる。

「これは濃厚だ......でも、お腹が空いてとにかく炭水化物を早く胃におさめたい人にはぴったりかも」

 調理時間も極めて短い。麺を茹でる時間自体が短く、具の盛りも殆どない。

「『龍麺』に対して『虎麺』とでもしておこうかな。対象的な感じで」

 さらさらと帳面にまとめる瞬。

 いつの間にかすっかり陽が高くなっていた。今日は休業日。なのにかなり熱中してしまった。

 江戸の人の口に合う、新しくも懐かしい料理をこの世界にあるもので――それは『極喰無尽』とは全く逆のベクトルから生み出された料理であった。いずれ、雌雄を決しなければいけない。その時のためにも、料理のレパートリーを増やしておく必要があった。彼らのしていることが如何に、無益なことかを証明するためにも。

 そっと、冷やし中華とつけ麺の麺、そして出汁をしまい込む。風呂敷に丁寧にしまい、それを両手で瞬は抱える。

「敬忠様に、今日の昼餉にたべてもらおうかな。夕餉でもいいけど。どんな反応するかな。楽しみだな」

 韻を踏んで、無邪気に支度をする瞬。

 決戦が迫る中、久しぶりに充実した朝を過ごすことが出来た瞬間であった――

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