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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第4章 捜索の果てに

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瞬の挑戦-2

 小さな腕を組んで、考え込む瞬。

 醤油以外のラーメンのバリエーションを増やせないか検討しているところであった。

 机の上の、台帳。その『豚骨味龍麺』のページに筆でバツをつける。今までにこの江戸で作り上げた料理の『レシピ』である。次のページをめくる。そこには『塩味龍麺』と筆で書かれていた。

「あまり食べたことないんだよな......」

 瞬、すなわち令和のシュンは海外で民間軍事会社を経営していた。子供の時にあまりラーメン自体を積極的に食べたことがないので、知識としてのラーメンのレパートリーは狭い。敬忠、令和の保坂恭子が残したラーメン食べ歩きのノートが数少ない手がかりである。瞬は厨房でラーメンを作る際には、必ずそのノートをじっくりと読み込んでから調理するのだった。

「基本、鶏ガラだけど醤油入れずに塩が中心。魚介系のだしはにぼしや昆布。スルメとかホタテの乾物やしじみなんて貝も面白いかな」

 すでに水から煮込んだ魚介系の出汁を鶏ガラの基本スープに合わせる。塩は岩塩を砕いたものと、海塩を混合して鍋に投じる。

 出来上がるスープ。椀に注ぐ。琥珀色の液体。匂いもまるで中華料理のスープのような上品な香りがした。それに茹で上がったやや縮れた細麺を投じる。具はない。純粋にスープだけの味を味わうための手法であった。

「へぇ......!」

 瞬の丸い目がさらに丸くなる。とても高級な味。ちょっとした料亭でも通用しそうな出汁である。

 スープ単体で何回か喉を通す。

 悪くない、瞬はそうつぶやいた。

 悪くない、ということはーー

 首を振る瞬。

「これは、『龍麺』としては使いづらいかもな」

 『龍麺』は庶民に人気のある食べ物となりつつある。この時代、いかに米の飯を食べられるかが食、おかずの大事な基準である。単に麺を食べるだけならば蕎麦やうどんのほうが馴染みがあるだろう。『龍麺』がご飯を一緒に食べることが前提の料理である以上、この塩味はあまりにーー高級すぎた。

「醤油っていうのは偉大だなぁ。おなじ塩分を含んでいるのになぁ」

 さらに問題点がある。まずスープのコスト。昆布や煮干、そして貝など結構な種類の具材がベースとなっている。当然、具材が増えればコストは上がる。かといって、その複雑なハーモニーが特徴である以上、どの具材も減らすのは不可能に思えた。

「背脂を少し入れてみるかな」

 スープに工夫をこらそうとする瞬。しかし、味を確かめると横に首を振る。

「濃厚にはなったけど。それだけだな。せっかくの微妙な味が全部潰れてしまう感じだな」

 背脂を入れれば、微妙な味が消える。かといってそのままでは味にパンチがない。いわゆる二律背反、スープのアンチノミーに陥ってしまう瞬であった。

「将来的に解決するべき問題かな。今はとりあえずここまでにしようかな」

 塩味に見切りをつけ、帳面の次のページをめくる。

 そこには『味噌味龍麺』とタイトルが記されていたーー


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