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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第4章 捜索の果てに

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瞬の挑戦-1

 朝の厨房。新吉の店である。今や『龍麺』は江戸っ子の代名詞となっており、一つの店舗だけでは手狭となり、『のれん分け』を画策していた。令和でいうところのフランチャイズ化である。

 瞬は一人でその厨房にいた。前回のようなことがないように外には、佐之丞の手下のものが数人見張っている。皆が『極喰無尽』の捜査にかかりきりななか、瞬はフランチャイズ化に向けて新たな『龍麺』のバリエーションにその労力をかけていた。

 腕に自信があるとはいえ、結局は少女の身。『極喰無尽』の目的の一つが、江戸の食の破壊というのであれば、正統でかつ新しい料理を生み出すのも大事な対抗策である、という敬忠の判断であった。

「......とはいえ、むずかしいよね」

 いくつもの食材を前に、腕を組む瞬。

「麺はストレート......ではなくまっすぐな細麺。スープ......ではなく出汁は鶏ガラと野菜、鰹節、昆布そして醤油。確かにおいしくはあるけど、目新しさで『極喰無尽』の料理に比べると弱いんだよね......」

 首をかしげる瞬。『極喰無尽』に人々が惹かれるのは今まで見たことない味、そして食材。それらに心を奪われる瞬間に、人生をささげているようにも見えた。江戸の食材でかつ、慣れ親しんだ味で新たな『龍麺』を作らなければならない課題に、瞬は頭を抱える。

 ふと、頭を上げる瞬。思いついたことをまず実行に移してみることにした。

 『令和』のラーメンをまず作ってみようと思い立つ。

 ここには道具はそろっているし、手に入る食材もほとんどある。挑戦してみるにしくはない。

「まずは豚骨から」

 昨日から思い立ち、豚骨はすでに煮詰めていた。乳化した白濁を木綿でこす。それに豚のチャーシューと刻み葱、そして関西風の紅生姜をトッピングとして用意する。麺は『龍麺』と同じ、ストレートの細麵。ただそれを乾麺にしてあえてそれを固くゆで上げる。

 目の前に、『令和』の世でよく見かけた豚骨ラーメンが出来上がる。

 食前の挨拶をして、割り箸を割り、試食する瞬。

 数口食べて、首を振る。

「これは江戸の人の口には......」

 匂いと独特の風味。そして臭み。そして、豚食が一般的ではないことが何より記される原因となろう。ただ、山間部などで猪を常食している地域の人々には受ける味かもしれない。

 何より、江戸の街中でこの豚骨スープを煮込んでいたら、その匂いから周りの住民が黙っていないことだろう。

 もったいないので、作った分は完食する瞬であったが。

(敬忠様をお呼びすればよかったな......)

 そういいながら、寸胴に残った豚骨スープをそっと徳利に入れる。もし運ぶ途中、人気の多いところで割ったりしたら、大変なことになりそうだなと思いつつ。

 瞬は次なるバリエーションに挑戦しようとしていた。

 


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