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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第4章 捜索の果てに

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床の下の陰謀

 北町の当番とはいえ、南町奉行所はそこそこに出仕する役人の姿が見える。

 先番に溜まった、事務の処理である。普段は右筆などが忙しく働く姿が目だって見える――が今日は違っていた。当番でもそうでも関係なく、いつも外回りばかりしている佐之丞――市中取締諸色掛同心の本宮佐之丞が熱心に書類を吟味していたのだ。いや、熱心と言うよりは一心不乱に、書類の束をめくっては唸っていた。

 同僚たちも不審の目で佐之丞を見つめるが、面倒なことには係りあいになりたくないらしく無言で自分の仕事をすすめる。

(これで、何冊目だ!)

 すでにかなりの書類に目を通した佐之丞。しかし、彼の求める情報はいっこうに、見出すことが出来なかった。

 佐之丞には確信があった。何か『極喰無尽』がこの江戸でしでかしを企てているとするならば、必ず『諸色』、つまり物価にその影響が出るはずだと。

 敬忠に頼まれ『極喰無尽』の企てを探るように頼まれた佐之丞。今までの恩を返すのは、このときばかりと張り切ってみたのだが、どうもうまくいかない。最後にたどり着いたのがこの方法であった。

 『極喰無尽』がなにを考えているのかはわからないが、どうやら騒ぎを起こすことは間違いなさそうだ。奴らの根本とするものは食――ならばその食材に何かの変化があれば、その企てを知ることができるかもしれない――という推理の結果である。

 足を使い、問屋や市場をききこみをする佐之丞。下っ端の岡っ引きたちにも大号令をかけて、江戸の棒振りまでものの売れ具合を調べ尽くした。

 しかし――なんら満足する結果は出てこなかったのである。

 普通の秋の江戸の物価の動き――せいぜい、魚物が少し値が張るくらいで、それも最近のしけのせいだというのだから皆目、手がかりが見えてこない。

 最後の手段が、奉行所に収められていたここ数年の『諸色』に関する記録である。

 今の物価とここ数年の物価で何か気になる特徴はないか――統計的な数式もないこの江戸で佐之丞は自らの感覚のみで、何かしらの『違和感』を探そうとしていた。

 どん、と机を叩く。目をこする佐之丞。だめだ。小さく声を漏らす。いくらやっても答えは見えてこない。

 もう一度外回りに出かけようと、二本をさそうとしたその時、奉行所の裏に人の気配を感じる。

(汲み取りか......)

 江戸の郊外から、肥料として便所の汲み取りにやってくる農民。普段は気にもしないのだが、神経質になっていたのだろうか嫌に気配を感じた。

 目が合うとうやうやしく礼をする農民。

 そんなに卑屈になることでもない。ただで処理してくれるのだから、嬉しい限りだ。もっとも、肥に使えるという点ではお互いに......

 あっ、と佐之丞はあることに気づく。このようなものの流通方法もあるということに。

 お金を介さない、物流のあり方――


 数日後、佐之丞はあるものが江戸から大量に輸送されていることを突き止めた。それは『土』。長屋の建て替えが相次ぐ昨今、なぜかその土台となる土が大量に運び出されていた。

 土台を補強するためという触れ込みであったが、あまりに不自然であった。


 硝石が鉱山から取れない日本では、硝酸イオンの多い雨の当たらない場所の土を培養土として、硝酸土をつくるという技術があった。

 硝石――黒色火薬の原料である――

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