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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第3章 『極喰無尽』暗躍す

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新たなる決意

 寝床から半身を起こしたまま、自分の『令和』の記憶を語り綴った瞬。

 それを畳の上で正座の態勢でじっ、と敬忠は聞き入る。

 日本ではない世界の話。多分いずれかの紛争地域であろう。なにかの仔細があって、日本人ながら外国の正規軍の下請けとして、民間軍事会社に勤めていた『シュン』。死と直面する日々の中で、ただ『食』を追い求め、最後は――

「それに比べれば、私の情熱なんか」

 ぽつんと、敬忠がもらす。いつもの口調とは違い、寂しそうなそして少し悲しそうな。

「そんなことは、ありません」

 瞬がそっと、敬忠の頬に手をやる。

「確かに、私のおかれていた状況はひどいものでした。しかし『令和』の日本もなかなかひどいと思いますよ」

 衣食住が事足りている、はずの『令和』の日本。

 しかしすべての人が、豊かな生活をしているわけでもない。

 温かいご飯、自分の寝床。考えてみると、敬忠、すなわち『令和』の『保坂恭子』はそれを十分に享受していただろうか。

 朝早く、夜遅い毎日。コンビニ弁当や外食に頼る事が多かった。自炊なども決まりきったものばかりであった。江戸時代のように旬の食べ物を意識したことが何度あっただろうか。

 『保坂恭子』の突然の死。考えてみれば、休日出勤の次の日であった。残業の多い日々。その割には大したことのない給料。何も、希望はなかったように思える。

「そうだな。瞬殿とは比べるべくもないが、ひどい世だった」

 ため息を漏らす敬忠。

「でもそこに――希望の光はありませんでしたか?」

 瞬の問いかけに、敬忠ははっとする。そう。それこそが、今の生きる目的。

「『ラーメン』か......」

 はい、と瞬がうなずく。

 『保坂恭子』確かに娯楽のない日々ではあったが、その中で唯一の娯楽が『ラーメン』を食べることであった。『令和』の『シュン』が多くの人に、美味しい料理を振る舞おうとしたのと同じく。

「この時代、この世界に限られた料理で人々を喜ばすことができれば。そう、そしてそれが『ラーメン』であるならば、敬忠さま、いや『保坂恭子』の『令和』の思いを叶えることができるのではないのでしょうか。もちろん私、『シュン』の思いも」

 うん、と敬忠はうなずく。

「この時代のニーズに合った、そして、食文化を破壊しない料理をこの世界にもたらす。それで皆が幸せになれる。それこそこの世界に生まれた意味――そして『シュン』さんと会えた意味かもしれませんね」

「その点から言えば」

「うん......」

 咳払いをして、敬忠は続ける。

「『極喰無尽』が一党。明らかにこの世界の食文化に乱れをおこさんとする、意図は明らか。更には瞬殿をかどわかし、船に監禁したる一件。さらにはその船に満載されていた――武器」

「まともな行為とは思えません」

 すっと敬忠は立ち上がる。そして障子を開け、小さな庭を眺める。夏の暑さは去り、もう秋の風が感じられた。

「『極喰無尽』の思い通りにはさせない。絶対」

 敬忠は瞬の方を振り返る。小さくうなずく瞬。

 二人に新たな、この『江戸』での目的が生まれようとしていた――


 時に一八〇五年、文化二年。令和の時代まで、あと二〇〇年以上が必要とされる時代である――

 

 


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