シュンの思い出-2
夜。車の中でシュンは煙草に左手で火をつける。なかなかうまくいかない。
右手は腹を抑える。血が止まらない。止血をしてもこの状態では――もって後、数時間というところだろう。隣にはモシェ”だった”ものが、ライフルを抱きしめながら絶命していた。
うかつ、というには偶然が過ぎた。武装集団との、遭遇。まったく偶然のでき事であった。
射撃を受ける車。何とか離脱には成功したものの、気づけば助手席のモシェは複数の銃弾を浴びて、絶命していた。シュンも同じく――ただ、意識があったのことだけが違っていたが。
連絡はとってはみたが、救援が来るまではかなりかかりそうだった。鎮痛薬を注射する。もっとも、手が震えて、感覚がマヒしているので何とも言えない状況だったが。
穴だらけになったフロントガラス越しに、空を見つめるシュン。星はまだ出ていない。
ふと、日本の夏の夜を思い出す。最後に花火を見たのは、いつのことだったかと。
あの国は、いい国だ。そうつぶやく。とにかく飯がうまい。財産ができれば、祖国に帰り趣味でもいいので料理店でも持ちたかったな、と思いをはせる。
「それも、無理か――」
ふと、目に入る人影。銃、は持っていない。タイヤのような荷物を引っ張る子供。遠くの集落から水を運びに来たらしい。
お互いの目が合う。当然、警戒する子供。シュンは微笑みをかえす。多分今生で最後に顔を合わせる人物になるであろう。しびれる右手で””おいで、おいで”とジェスチャーする。
恐る恐る近づく、子供。女の子、らしい。
ふり絞るように、現地の言葉で会話する。
”おじさん、大丈夫?”
”ああ、大丈夫だ。味方が来てくれる。それより――お腹はへっていないか?”
無言で少女は頷く。
車のロックを外すシュン。右指で後部座席を指す。
デイバックを取り出す、少女。
”その中には、食料が入っている。ここに置いておいても腐らせるだけだ。密封されているから毒の心配もない。持っていけ”
少女は少し戸惑いつつも、大事にバックを抱えて歩き出す。何度かシュンの方を振り返りながら。
「人生、最後に食べ物を人に提供することができたな。ほんとは腕によりをかけて、ごちそうをふるまいたかったが。それも――もう――無理そうだな――」
だんだんと視界が狭まってくる。
いくつもの人の死は見てきた。いざ自分の番となると、やはり特殊らしい。死は一度きり。自分が自分である何よりの証拠の現象である。
「もし、生まれ変わりがあるのなら――」
最後の意識でシュンはそんなことを考える。
「江戸時代に生まれてみたいな。いろんな料理を作る料理人になりたい。その時代では思いもつかないような斬新な料理を。それを食べさせてみたい、という人にも出会いたいな。結局独り身でこの人生終わっちまったし。さて――そろそろか」
静かに目を閉じるシュン。
ゆっくりと、夜のとばりがおり始める。
夜が明ける前に、彼の人生は終わることとなる。
そして――次に彼が目を覚ました時、彼は彼女としての生を受けることとなった。
江戸時代に転生した、少女として。
今、彼女はその記憶を取り戻す――




