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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第3章 『極喰無尽』暗躍す

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瞬の帰還

 夕暮れの一室。敬忠の自邸である。畳の上には布団が一組。それに抱きかかえられるように、すっぽりと少女の小さな体が包まれていた。

 体には包帯がまかれ、顔にも細かい傷がいくつも見られた。

 正座してその少女を、じっと見つめる男性。敬忠であり、その少女は瞬であった。

 瞬が姿を消した二日日の夜、彼女が佃島に打ち上げられているのを漁師が発見する。すぐに番所に届けられ、数刻後に佐之丞の知るところとなる。

「この娘さんは、とある身分のある武家様の娘さんだ。いろいろ仔細含みなので、こちらで身を預からせてもらうぜ」

 内々に話をつけ、籠で医者に運ぶ。意識はぼんやりとしていたが、命に別条のあるけがはおっていなかった。ただ、右手にやけどの傷があったのが不思議ではあったが。

 数日の療養の後、身柄が敬忠のもとに移される。

 無言で瞬を迎える敬忠。粥などを支度して、瞬を介抱する。

「ようやく落ち着いてまいりました」

 敬忠の手が止まる。匙をそっと盆の上に置き、そっと瞬の頭に手をやる。

「意識が――混濁としていて、話がほとんどできませんでした。申し訳ありません」

「いや、そんなことはよい。疲れているのだから、無理は――」

 体を起こし、首を振る瞬。それを押しとどめようとするが、ぎゅっと瞬は布団をつかみ敬忠の方を見つめる。

 語りだす瞬。

 伊勢屋でなにやら一瞬のうちに意識を失い、誘拐されたこと。

 誘拐された先は江戸湾に浮かぶ船の上で、そこには積み荷が満載されていたこと。

 その積み荷は明らかに『武器』、しかもフランス製のものであったこと。

 懐からくしゃくしゃになった紙を取り出す。そこには日本語とフランス語で『極喰無尽』の名前が記されていた。箱の中に入っていた書類の一部である。

「逃げる際、火薬に仕掛けをしてきました。少し時間がたったら火が火薬に引火するような――大した仕組みではありません。縄に火種を仕込み、引火させる程度の――」

 結果、船は爆発しその際にやけどを負ったらしい。必死で泳ぎ、気が付けば左之丞の姿が目の前にあった。

 おお、と敬忠は声をもらす。

「すまぬ......私のせいでこのような......」

 瞬は首を振る。

「連中は多分『龍麺』をよしとせず、このような暴挙に出たのでありましょう。私を誘拐したのは敬忠様の娘ということでしょうが、実際は的を射ていたと思います。私がいなくなれば『龍麺』は作れなくなるでしょうから。併せて、私が自力でしかも船を爆破させて脱出することも想定外だったでしょうが」

「瞬殿――」

 敬忠はそっと包帯に包まれた瞬の手を握る。

「聞かせていただけぬか、今こそ。瞬殿が『何者』なのか。もし思い出したのならば」

 じっと敬忠を見つめる瞬。そしてゆっくりとうなずく。

 瞬の『令和』の記憶。それが紡ぎだされることとなる――

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