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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第3章 『極喰無尽』暗躍す

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脱出の炎

 『令和』の記憶を必死に手繰り寄せようとする瞬。今、時は寛政暦の文化二年。西暦に換算すると......多分一八〇〇年代初頭であろう。その時代のフランスといえば――ナポレオンだ。トラファルガーの海戦やアウステルリッツの三帝会戦などヨーロッパが戦乱にまみれた時代。

 市場には武器があふれ、行き先を失った旧式の武器などは植民地へ流れるはずであった。

 そして、この日本にも。

 そういったことに、なぜかいやに詳しいことを瞬は自覚する。

 多分それは『令和』の記憶なのだろう。だんだんと、その輪郭が明らかになっていくような気がした。しかしまずは今のこの状態を脱することである。できるならば、情報なども手に入れられれば何よりだ。

 さしあたって箱の中を開く瞬。

 中には黒い鉄の筒らしきものが梱包されている。ほかの箱には黒色火薬らしきものが油紙に包まれて。これを輸入したからと言って、金子に変えられるものではない。多分、『極喰無尽』は何かしらの方法、例えば美食の見返りとして金子を募りこの物騒なものをはるかフランスより入手している――

 首を横に振る瞬。外国との接点が極めて制限された江戸の世に、このようなことを企図するというのはあまりに無謀な試みである。しかし、目の前にはそれを裏付ける証拠が――

 さしあたって箱の中に梱包されていた数枚の書類をたたみ、懐に入れる。何かの役に立つかもしれないことを期待して。

 後はこの船から脱出するだけである。床底に耳をつける瞬。何かを測るように――そして彼女は決心する。


 船の甲板の上。見張りの水夫らしき人間が数人甲板の上に座っている。ここはまだ江戸湾の中。黒船が来航するまであと半世紀、まだお台場も築かれてはおらず、このくらい沿岸にいれば陸地から気づかれる心配はなかった。必然、見張りの緊張も緩くなる。

 一人が、ぐにゃりと甲板に這う。そしてもう一人。あっと間に甲板は瞬のものとなる。闇に乗じ、急所を『さゔぁいばる』の柄で突き、気絶させる。

 やとわれの水夫らしい。小船でもないか探そうとした次の瞬間――甲板をはねる火花。木の床が弾ける。

 がやがやと声がする。どうやら見つかってしまったらしいことに瞬は気づく。

(やばい......!)

 何発も足元に放たれる弾丸。火縄銃ではない。明らかに外国のものであった。

 暗くて狭い甲板、逃げる場所があるというわけでもない。あっという間に数人の銃を持った、日本人でもまたヨーロッパ人でもないようなガタイのいい男たちに瞬は取り囲まれる。背には帆の柱。逃げ場所はない。

 瞬は甲板に膝まづく。

 男たちがそんな瞬に近寄ろうとした次の瞬間――

 轟音とともに、船体が大きく揺れる。

 それを合図に、瞬が低い姿勢のまま『さゔぁいばる』を振りかざし、男たちに突っ込む。足元を『さゔぁいばる』に切り裂かれ、一人が倒れる。それを脱出口として瞬は全力で走りさり――船の舷から勢いをつけて――海に飛び込んだ。

 ほぼそれと同時に、二回目の大きな爆発音が船を揺らす。今度は大きく。そして火柱を上げて――


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