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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第3章 『極喰無尽』暗躍す

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謎の倉庫

 暗く狭い通路を進む。扉はなく、四方ともに飾り気のない板が打ち付けられている。足音を気づかれないようにゆっくりと歩みを進める。板の隙間から漏れでる月の明かりを頼りに、一歩一歩。

 何かの小屋なのだろうか。もしくは倉庫か。いずれにせよ通常の家屋とは異なるつくりの建物であるようだった。

 大きな扉と、上に伸びる階段。扉には結構な錠前が付いている。

 瞬は短刀『さゔぁいばる』を取り出す。じっと錠前を見つめ、そして短刀の柄で錠前の一か所を強くたたく。真っ二つに割れる錠前。勝手知ったる手わざのようだった。

 そっと扉を右にひく。何やら倉庫らしい。あたりをうかがいながら、その部屋に入る。

 薄暗い。床に落ちている縄をつまみ上げる。縄の先をほぐし、床の出張っている釘に『さゔぁいばる』の背の部分をこすりつける。火花が飛び、縄の先に引火する。簡易の明かり。幸い縄は油を吸っていたらしく、ゆっくりと燃え上がりちょっとしたろうそくの役割をはたしていた。

 山のように積まれる箱。その箱には見たことのない――令和では義務教育で学ぶ文字。

「アルファベット......!」

 英語ではない。瞬は令和の記憶を呼び戻す。彼の国で働いていた時に否が応でも、覚えなければいけなかったその言葉――フランス語である。

 指でフランス語の単語をなぞる。その意味を頭の中で翻訳する――

『さゔぁいばる』が箱の隙間に差し込まれる。バキッと、蓋板の一部が折れ、中から白い砂が流れ出る。指でその砂を転がす瞬。

「麻薬とかでは......なさそうだね」

 ペロッと舐める。甘い味。

「”シュクレ”、なるほど。砂糖ってことか」

 うずたかく積み重なった箱の中身はすべて、砂糖らしい。

 倉庫の壁を見つめる瞬。木材の隙間が何やら黒い泥のようなもので詰められている。壁は微妙に傾斜し、曲線を描いていた。

 そっと、その壁に手を添える。冷たい感触。

 瞬は確信する。

 今自分がいるのは船の中であるということ。

 そして、この時代の外国と何かしらのつながりがあるということ。外国語――フランス語が書かれた箱の存在や、当時の日本ではおこなれていないコールタールによる舟板の補強など探せばいくらでもその証拠が出てきそうだった。

 瞬は確信する。『極喰無尽』のあの摩訶不思議な食材のでどころが、この船によることを。

 密貿易――時代劇の内容としてはあまりに陳腐ではあるが、それをかなり大掛かりにやっているらしい。船までこしらえてそれを行うというのは少し、度が行き過ぎている。

 人の足音。瞬は、倉庫のさらに奥に姿を隠す。大丈夫。入口の錠前は見た目にはわからないように偽装してある。少しの後、その足音は遠ざかる。手で隠していた明かりをそっと、目の前に出す。そこにも箱が山積みに。その文字は先ほどの文字とは違う単語が書かれていた。

 それは”arme”。

 フランス語では”武器”を意味する――


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