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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第3章 『極喰無尽』暗躍す

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暗い部屋

 暗い世界。気が付くと瞬はそこにいた。記憶――が微妙に存在しない。この時代であるから、麻酔とかではないはずである。急に目隠しをされて――狭い空間に閉じ込められて――そのショックから記憶が曖昧になっているようだった。

 目隠しを顔の筋肉を使って瞬は微妙にずらす。さほどきつくは結ばれていない。下は土間のなにか狭い押入れのような空間。あまり空気はよくないようだ。時間は夜のようである。小さな窓らしき穴が、はるか上の方に見える。月が見える。その満ち欠けから想像するに、『誘拐』されてからほとんど時間がたっていないことが想像された。

(しかし......)

 瞬は考える。なぜ、自分を『誘拐』したのかと。

 多分、『極喰無尽』の仕業であることは容易に想像できた。そうではなく、自分を『誘拐』する、その目的である。標的は敬忠であるはずだ。ならばその娘を『人質』にとって、何かを交渉するつもりか。それにしても――

 瞬は考えるのをやめる。いずれにせよ、この状態は好ましくない。現状をより深く分析するために、体の状況を確認する。

 当然のごとく拘束されていた。ただし、腰に縄が付いているのと、両手が同じく縄で拘束されている程度である。

 うん、と瞬はうなずく。これならば問題ない。両手で右足の腿のあたりを探る。確かな感触。それがあれば――いつでもここからは出ることができる。それならば、情報を集めるのも悪くはない。しばらく捕囚の身に甘んじ、敬忠のためにもすこしでも何かを持ち帰ることが大事だと考えた。

 そっと目を閉じる瞬。まずは体力の維持を優先するために、静かに――


 人が入ってきたの次の日の朝であった。老人、というには若く中年というには老けていた男性が手に何かを持ち、部屋に入ってくる。そっとその手のものを瞬の前に差し出す。握りらしい。

 瞬は一瞬、身を引く。

「飯だ。それとも厠に行きたいか」

 不愛想な男性の声。震えながら、瞬は声を出す。男性は聞こえず耳を瞬の方に――

 一撃。瞬の膝が男性の鼻に吸い込まれる。急所へしたたかに一撃を食らった男性は土間の上に、音もなく倒れこんだ。

「さてと」

 縛られたままの状態で、瞬は男性の体を物色する。質素な身なり。武器は身に着けていない。

「.....しょうがないか。あんまり、切ったはったに使いたくなかったんだけどな。敬忠様がプレゼントしてくれたものだし」

 ため息をついて、右の腿に両手を忍ばせる。細い皮の包み。器用に縛られた手でそれをまさぐる。

 次の瞬間、縄がはらりとはずれ、両腕が解放される。そして腰の縄も。

 瞬の手に握られた、鈍く光る刃物。『さゔぁいばる』が短刀である。

「仕込んでおいてよかった。まあ、身体検査まではしなかったって言うことか」

 短刀を握ったまま、体を細かく動かす。固くなった筋肉をほぐしているようだった。

 ぎゅっと短刀を構えなおす瞬。頭の中にはこれからのシミュレーションが展開していた――


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