暗い部屋
暗い世界。気が付くと瞬はそこにいた。記憶――が微妙に存在しない。この時代であるから、麻酔とかではないはずである。急に目隠しをされて――狭い空間に閉じ込められて――そのショックから記憶が曖昧になっているようだった。
目隠しを顔の筋肉を使って瞬は微妙にずらす。さほどきつくは結ばれていない。下は土間のなにか狭い押入れのような空間。あまり空気はよくないようだ。時間は夜のようである。小さな窓らしき穴が、はるか上の方に見える。月が見える。その満ち欠けから想像するに、『誘拐』されてからほとんど時間がたっていないことが想像された。
(しかし......)
瞬は考える。なぜ、自分を『誘拐』したのかと。
多分、『極喰無尽』の仕業であることは容易に想像できた。そうではなく、自分を『誘拐』する、その目的である。標的は敬忠であるはずだ。ならばその娘を『人質』にとって、何かを交渉するつもりか。それにしても――
瞬は考えるのをやめる。いずれにせよ、この状態は好ましくない。現状をより深く分析するために、体の状況を確認する。
当然のごとく拘束されていた。ただし、腰に縄が付いているのと、両手が同じく縄で拘束されている程度である。
うん、と瞬はうなずく。これならば問題ない。両手で右足の腿のあたりを探る。確かな感触。それがあれば――いつでもここからは出ることができる。それならば、情報を集めるのも悪くはない。しばらく捕囚の身に甘んじ、敬忠のためにもすこしでも何かを持ち帰ることが大事だと考えた。
そっと目を閉じる瞬。まずは体力の維持を優先するために、静かに――
人が入ってきたの次の日の朝であった。老人、というには若く中年というには老けていた男性が手に何かを持ち、部屋に入ってくる。そっとその手のものを瞬の前に差し出す。握りらしい。
瞬は一瞬、身を引く。
「飯だ。それとも厠に行きたいか」
不愛想な男性の声。震えながら、瞬は声を出す。男性は聞こえず耳を瞬の方に――
一撃。瞬の膝が男性の鼻に吸い込まれる。急所へしたたかに一撃を食らった男性は土間の上に、音もなく倒れこんだ。
「さてと」
縛られたままの状態で、瞬は男性の体を物色する。質素な身なり。武器は身に着けていない。
「.....しょうがないか。あんまり、切ったはったに使いたくなかったんだけどな。敬忠様がプレゼントしてくれたものだし」
ため息をついて、右の腿に両手を忍ばせる。細い皮の包み。器用に縛られた手でそれをまさぐる。
次の瞬間、縄がはらりとはずれ、両腕が解放される。そして腰の縄も。
瞬の手に握られた、鈍く光る刃物。『さゔぁいばる』が短刀である。
「仕込んでおいてよかった。まあ、身体検査まではしなかったって言うことか」
短刀を握ったまま、体を細かく動かす。固くなった筋肉をほぐしているようだった。
ぎゅっと短刀を構えなおす瞬。頭の中にはこれからのシミュレーションが展開していた――




