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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第3章 『極喰無尽』暗躍す

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佐之丞の情報

 手ぬぐいでそっと、汗を敬忠はふき取る。五月ということもあり、夏が本格的に感じられる。もっともそれは――旧暦の五月であるが。

「ごちそうになって、申し訳ないでございますな」

 目の前には、若い武家。そのなりから町方の役人であるようだった。

 両国のとある、料理屋の二階に二人はいた。日陰とはいえ、簾から漏れる日差しはじりじりと強く感じられた。まして――目の前の男性があつあつの『龍麺』を食べているとあれば――

「このような暑い日に、かようなものを馳走するのは......申し訳ない」

 箸で麺を口に運ぶ若い男性は、敬忠の言葉に首を振る。

「そんなこたぁ......今、江戸で話題の『龍麺』。それを手ずからふるまっていただけるなんざ、これ以上の果報はありませんよ」

 麺をすする男性。敬忠は少し安堵する。

 『ラーメンライス』もとい、『龍麺飯』を二膳平らげたところで、敬忠は話を切り出す。

「佐之丞殿、『極喰無尽』についてなのだが」

 目の前にいるのは、本宮佐之丞。南町奉行所同心であり、敬忠と昵懇の間柄の人物でもある。敬忠は以前、その身を襲われたときその調査を彼に頼んだ経緯があった。市中取締諸色掛ということもあり、江戸の世情にもよく通じた人物である。

 敬忠の問いかけに、佐之丞は身をただす。

「いろいろ調べてみたんですがね」

 筋道立てて、佐之丞は説明する。ここ数週間の間に手に入れた少なくない情報を。

 まず『極喰無尽』の組織について。

「なんとも、不思議な講中でして。こういった輩は、大体『金』目当てでくっついているようなことが多いのですが、それがそうでもないようで」

 入会にあたって、何か賂が必要というわけでもないようだった。実際に敬忠は宴を受けたが、ほとんどお金は負担していたなかった。

「その、参加者も何というか――こうとらえどころがなく」

 敬忠の目の前に書付を佐之丞は取り出し、示す。箇条書きにされた氏名。それは『極喰無尽』のメンバーの名前であるようだった。それをじっと見て、敬忠はうなずく。

「なんとも、鵺のようにとらえどころが付きませんわ。まあ、全体的に金に困っている連中というわけでもなく。その一方ぼそこそこの武家もいれば、商人、医者、学者。年齢ばらばら。多分こいつらの接点は『極喰無尽』の一員である、っていう以外になさそうですな」

 すまなさそうに佐之丞は報告を終える。

「時間をいただきながら、この程度の情報しかお伝え出来ないのは申し訳ないことでして......」

 いやいや、と敬忠は否定する。これだけの情報を以外の誰が集めえただろうかと、敬忠は労をねぎらった。

(さて......そうすると)

 次なる突破口は『恵美押延』であろうと、敬忠は考える。『極喰無尽』の『副統領』とかと言っていた、あの総髪の男性。彼が何かしらの秘密を持っていることは明らかであった。

「なるほど、確かにそりゃあ怪しいですな」

 敬忠は自分が描いた『恵美押延』の似顔をそっと、佐之丞に手渡した。さすがに令和では絵の心のあった敬忠だけあって、達者なものである。

(しかし......)

 敬忠は簾の方を見つめる。

 多分、『龍麺』はすでに『極喰無尽』、『恵美押延』の知ることろとなっているだろう。多分、『龍麺』が彼らに向けてはなった、そのメッセージも。そうすると、何かしらのアクションがあることは必定であろう。

 ふっ、と敬忠は笑みを漏らす。

 もう後戻りはできない。そう決心する敬忠であった。

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