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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第3章 『極喰無尽』暗躍す

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『極喰無尽』の密会

夜の江戸。当時世界最大の百万都市とはいえ、その夜は早い。各町々の木戸が閉じられ、灯の明かりもすっかりと消える。吉原のような、夜を商いとしているような場所はさておいて、基本日の入り日の出とともに生活している人間が大部分であった――『極喰無尽』の講中を除いては――

 大広間。どこに作られたものなのだろうか、がっしりとした柱が並ぶ。全く窓がないのに嫌に明るい。長い机。その上にはこの時代の人間が想像もつかないような果物が皿に盛られている。西洋風の椅子が並び、数人の人間がそこに腰掛ける。各々の前には空になった皿が数枚。そして、ワイングラス。

『本日の酒肴はここまでとさせていただきます』

 総髪の男性がそう会の終わりを告げる。すでに宴もたけなわ。それぞれ満足の表情を浮かべていた。

『一般の『極喰無尽』の宴とは、ものが違いますな』

 参加者の一人がそうつぶやく。身なりは商人風ではあるが、髷は武家のものであった。

『『美第奇メディチ』様は本日が初めての参加でございましたな。『極喰無尽』の『元老会』ではこのような、本格的なフレンチやイタリアン、中華などを振る舞っております』

 それに総髪の男性がそう返す。そのふるまいから見るに、この『極喰無尽』の『元老会』とやらの取締らしく思われた。

『普段は、まだこの高貴な味に慣れていない方もおりますので......なるべく、この時代の方々の舌に合うようにアレンジしております。まあ、いわば亜流。この『元老会』に参加された方のみが『本当』の『極喰無尽』の味を確かめられるというわけで』

 うむ、とうなる一同。本日はフレンチのフルコース。先日、敬忠のとき出されたものとは違い完全に本場のそれと同じ食材、手法を用いて調理されていた。

『人間にとって必要なものは、結局『食』であります。洋の東西、時代を超えて結局の所そこに行き着くのでないのでしょうか。逆を言えばそれを『おさえる』ものが、その時代を『制する』わけで』

 総髪の男の述懐。それに立派な武家のなりのものが続く。

『いかにもいかにも。この料理を味わえることに比べれば、公方様への奉公などとるにたらん。我々の大義、とくと広めようぞ。『恵美押延』、いや『達芬奇ダヴィンチ』どの』

 名前を呼ばれた総髪の男性は深々と礼をする。

『『仏蘭西和フランソワ』様がそう言っていただけるのなら、これはなにより。本来はこの国の者たちはこのような美食を楽しんでおりました。いまいましい渡来の教えや宗教、そして野蛮な武士共によって本来あるべき文化が失われただけなのです。いまこそ、この国の本来の道に立ち返るべきでありましょう。これらの料理は一見南蛮のものに見えますが、実は全て我が国固有の料理でございます。それを万民に知らしめるためにも――』

 そう言って、『恵美押延』、いや『達芬奇ダヴィンチ』はたかだかとグラスを掲げる。

 それに合わせて参加者たちも。

『極喰無尽』の宴は次の段階を迎えたようであった――

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