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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第2章 江戸にはびこる、美食

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江戸風ラーメンのプレゼンテーション

 空になった椀が二つ。皿が数枚。すべて、きれいに平らげられていた。

「年甲斐もなく、お恥ずかしいことで」

 蔦屋がそう敬忠に告白する。いやいや、と敬忠が恐縮する。

「それがこちらの目算ゆえに。どうぞ足を崩すなり、楽な姿勢で」

 蔦屋は申し訳なさそうに、少し体勢を崩す。普段あれほど慇懃な蔦屋が、敬忠の申し出を受け入れる。よっぽど満腹だったのだろう。

 くすっ、と瞬が微笑む。敬忠がそれを、優しそうな目で見とがめる。

「しかし——なんですな。私もうまいものには目がない方ですが、それほど健啖家というわけでもなく。二合五勺も食べたでしょうか。若い頃の食欲を思い出しました。年甲斐にもないことですが。さて......」

 こほんと咳をつく蔦屋。その後に続ける。

「では、これがこの時代にあった”ラーメン”という理由をお聞かせいただければ、幸いですな」

 蔦屋の質問に、敬忠は身をただし答え始める。

「最初の”令和のラーメン”。あれは良くできたものでした。水戸への旅の後、瞬とともに色々研究した結果でもあります。無論、ただ完成させるだけではなく如何に安く作れるか......かけそばのまあ、二倍三十二文程度でなんとか利益が出る程度の素材で作れるように。その結果があれでした。時間をかけて、味をどんどん研ぎ澄ましていきました。そこは、瞬の腕です」

 瞬は腕まくりをして、ウィンクをする。

「二週間くらい過ぎた頃合いでしょうか。完成品ができました。それが、先程の最初の”令和のラーメン”です。鶏ガラ、醤油ベースの縮れ細麺。かん水と化学調味料があれば、より完全だったでしょうね。しかし——どんどん味が上達するたびに、違和感を感じていました。それは自分が『敬忠』ではなく『保坂恭子』の舌でそのラーメンを味わっているのではという。実際に『敬忠』の意識で味わってみると、なんとも口に合わない。その時気がついたのです」

 瞬がうなずく。瞬も敬忠と同じ結論に達したのだった。

「令和の『思い出』を食べていたのかな、と」

 少しの沈黙。目を閉じて、蔦屋がうなずく。

「『極喰無尽』に参加して、そのことを確信しました。彼らはうまいものを食べさせたいのではない。未来の味覚をもって、この時代の食を変えたいだけなのだと。出てくる料理はすべて、正統派の未来の料理でした。『仏蘭西料理』というやつです。瞬も食べましたが——その味たるや、都内のなかなのフレンチレストランのものに匹敵する——」

 瞬が敬忠の袖を引っ張る。ああ、と敬忠は言葉を止める。つい興奮すると、令和の語句を使ってしまう悪癖。相手が蔦屋だから良いが、これが他の、特に『極喰無尽』のメンバーであったりしたら厄介である。何しろ、命まで狙わたのだから。

「そこで、われわれのコンセプトとしたのは——『江戸時代へのリスペクト』です。それを説明したいと思います」

 敬忠のプレゼンテーションは更に続く——

 

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