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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第2章 江戸にはびこる、美食

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スープの法則

 少しの間。

 そのつなぎに、瞬が白湯の湯冷ましを蔦屋に運ぶ。ワインのテイスティングではないが、醤油ラーメンの味を、舌の上から消してもらおうという配慮であった。

  湯気とともに、瞬が椀を運んでくる。先ほどの椀より少し大きい気がする。同じように膳の上に、整える。

 先ほどとは、違う香りを蔦屋は感じる。

 先ほどの”ラーメン”はまず、独特の”油”のにおいが鼻をついた。普段口にしている、植物油とは別の――つまり、鶏ガラの匂いである。水炊きもまだ南蛮料理の一つとされていた時代、やはり違和感はあるだろうことは否めない。

「先ほどのスープ、いや出汁は正直この時代の人間にはきついと思います。鶏ガラの出汁は西洋風、いや南蛮風の味わいですからね。なので鶏ガラを煮込む際には、なるべく野菜の皮などを多く一緒に煮込み、臭みを消す工夫をしました」

 ほう、と蔦屋が感心する。

「それは、手間とこちらが掛かりそうですな」

 手のひらを上に向け、差し出す蔦屋。敬忠はゆっくりと首を振る。

「コスト――いえ、材料費はほぼゼロです。捨てる部分の野菜、つまり皮の部分を中心に使っています。野菜に臭いの強いのは皮なので」

 敬忠が視線を瞬に送る。瞬はそっと畳の上に、手ぬぐいをひき、その上にざるを乗せる。中には、色とりどりの野菜の皮が入っていた。

「柳橋様は、この料理を売り出したいと考えておられましたな。それならば当然気をつけなければいけないところ。ただただ感心です」

 そっと蓮華で、スープを口に運ぶ。

 慣れ親しんだ感触が、舌の上に広がる。

「鰹節、昆布......基本的な出汁が入っております。”令和”の時代においても、それを”ラーメン”の出しとして使うことはよくありました。この出汁が鶏ガラ出汁の風味をよりまろやかにしています」

うなずきながら、麺に取り掛かる蔦屋。先程の縮れた麺とはちがい、まるで蕎麦のような麺。かけそばをすする要領で、一気に頬張る。

「......」

 懐から懐紙を取り出し、口の周りをふく。そのあとに、はぁというため息があとを追いかけた。

「正直、出汁を頂いた時濃厚すぎると感じました。癖はともかく、醤油の味も先程のものより強めかなと。しかし麺を頂いてみるとそうでもない。むしろちょうどいい塩梅だな、と」

 にやりとする敬忠。”令和”の時代の麺の特徴を、彼は思い出していた。一般に縮れ麺はスープと良く絡む。一方でストレート麺は絡みにくいが、その分スープを濃厚にしやすい。替え玉などで有名な濃厚豚骨スープなどは、まさにストレート麺の独壇場であろう。

 濃厚な分、絡みにくくしてその味を調整するという瞬のアドバイスであった。

「さて、次は具ですかな」

 スープの上に浮かぶ具材。一つはごま油通しをした葱。これは臭みを消す意味合いもある。ごま油の風味は、この時代の人間にとっても慣れたものである。

 そして、青物のほうれん草が、色合いにのせられている。白河ラーメンなどでもよく見られる具材。

これもまた、馴染みのある青物である。当然、スープとの相性も十分である。

「さて......」

 蔦屋はメインの具材に箸をつける。先程は”チャーシュー”という獣の肉であった。今回は少し違っていた。天ぷらのように見えるが、衣が固めである。天ぷらそばの天ぷらとは、少し趣向が変わっていた。塊のまま、箸で取りそれをそっと口の中に運ぶ。

 敬忠と瞬はそれをじっと見つめていた――

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