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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第2章 江戸にはびこる、美食

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”東京醤油ラーメン”

 瞬が両手で盆を持ち、まだ湯気が上がる椀を一つ蔦屋の前に配膳する。

 ほう、と蔦屋が声を漏らす。

「一見すると雑煮のように見えますな。この練り物とか。海苔が乗っているのはいささか不思議ですが。この上にのっているのは獣肉でしょうか。さすがは”令和”の食べ物。なかなかに独創的ですな」

 思ったことをそのまま口にする蔦屋。敬忠にとってはその一言一言が、ありがたいものであった。自分や瞬のような”令和”の感覚を持っていない生粋の”江戸”の人間に味を確かめてもらえるということが。

「いただきます」

 蔦屋は礼儀正しく、挨拶をして箸に手を付ける。そしてかけそばを食べるように麺をすすり始めた。

 次に具の海苔、ナルト、最後にチャーシューへと箸が伸びる。

 麺がまた口の中に吸い込まれる。じっとその姿を見つめる敬忠。瞬も同様に。

 どのくらいの時間が経過しただろうか。麺と具は完全に蔦屋の胃の中に納まる。

 汁は残しつつも完食する蔦屋。そっと手を合わせてごちそうさまの挨拶をする。

「おいしゅうございました」

 一言目の感想。その後に具体的な内容が続く。

「ただ......まことに申し訳ないことながら、汁を完全に飲むことができませんでした。そうですな。正直にお話しします」

 そういいながら姿勢を蔦屋は姿勢を改める。

「麺ですが、うどんともそばとも異なるのど越し。独特のちぢれが醤油味の濃厚なうまみのある汁を巻き込んでたまらなく良い味でした。またこの肉。なんでしょうか、猪とも違う臭みのない独特の獣の肉。ただ私は薬食いが好きな方なので抵抗はございませんが、一般の方はいかがでしょうか。ナルトに関してはちょっとした箸休めでこれはよし。また海苔も汁を吸っていい具合になっておりました。麺と絡めるとまた独特の味わいでこれもまた......薬味としての葱はみじん切り。スープの脂分をよく中和してさっぱりさせるといういい役割ですな」

 そこまで一斉に感想を蔦屋は述べる。版元ではあるが自分自身でも本を出版するくらいの人物でもあって、さすがは語彙が豊かといえる。

「しかし」

 今までの口調とは異なる感じで、蔦屋は区切りをつけて話始める。

「汁を完全に頂くことはちょっと無理でした。麺を食べているときには気にならなかったのですか、汁単体ですと味の濃さと脂っこさが気になり......これも”令和”風なのでしょうが......」

 すまなそうにそう述べる蔦屋。そして敬忠が口を開く。

「いかにも、これは”令和”の”ラーメン”にて候。それでよし。それでよし」

 なぜか上機嫌な敬忠。そして瞬もしてやったりという顔をしている。

「いや、蔦屋殿申し訳ない。これはあくまでも”令和”のラーメンゆえ。いわゆる”東京醤油ラーメン”という種類のものです。鶏ガラのだし。醤油味。我々にとっては淡い味だが、これは”江戸”の方にはいささかきついとは思っておりました。ただ、ここまで評価されるとは思っていなかったのですが」

 瞬の姿がいつの間にか消えている。不思議そうな顔をする蔦屋。

「今一度、いや膳をふるまわさせていただけないか。先ほどのものは少し量を控えておりました。とはいえ正直に食べられないのなら残していただいて結構。今一度チャンス、いや機会をいただきたい」

 ははあ、と息を漏らす蔦屋。こんなに熱心な敬忠を今まで見たことはなかった。何か含むものがあるらしいことに蔦屋はすぐに気づく。

「ご随意に。私も楽しくなってまいりましたぞ」

 少しの後、瞬が再び椀をもってやってくる。それが本日の膳の本命メインディッシュであった―――

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