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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第2章 江戸にはびこる、美食

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瞬、再び覚醒す

 何とか匕首の切っ先を避ける敬忠。型稽古の剣筋とは異なり、相手の動きが読めない。

(く......)

 右手に感じる鋭い感覚。思わず刀を取り落としそうになるが、なんとか耐える。どうやら刃傷を負ったらしい。

 じりじりと追いつめられる二人。敬忠は右手の握力がなくなり、左手でぶらりと刀をぶら下げていた。瞬をかばうように。

 暴漢二人が、再び構えをとる。ここまでか、と敬忠は瞬の方を見やると―――そこに彼女はいなかった。

 異様な雰囲気。いつの間にか自分の前に瞬が立っていた。

(だめだ......!逃げろ......!)

 敬忠の声にならない悲鳴。がくっと、膝をつく。

 二人が突っ込んでくる、その刹那。

 瞬が斜めに踏み込む。空を切る匕首。瞬の頭の上を匕首が空を切る。

 まるで地面に伏せるように瞬はかがむ。そして反動をつけて回転。右ひじが暴漢の一人の無防備な足首にしたたかな一撃を与える。体勢を崩し、大きな体がひねるように地面にとびこんでく。

 そしてもうひと回転。後ろ手に構えていた右手から鋭く輝く―――いつの間にか拾っていたのだろうか、匕首が地面を舞い、もう一人の暴漢の右足を切り裂く。

 地面に描かれる血しぶき。

 態勢を立て直し、構えなおす瞬。右手がゆっくりと回転して、逆手に構えていた匕首が暴漢二人の目の前に突き付けられる。先ほどまでの武器を隠す動作から転じて、自分の優位を相手に誇示するようにゆっくりと刃先を8の字に空に泳がす。

 致命傷ではないものの、攻撃力を喪失する二人。気の抜けた掛け声ともに最初に敬忠に倒された一人を背負うようにして闇の中へと消えていく。

 匕首を放り投げ、膝をつく敬忠のそばに駆け寄る瞬。懐の手ぬぐいを取り出し、傷口を体重を乗せてぎゅっと強く指圧する。

「瞬殿―――今のは―――」

「傷は深くはないようですね。でもこの世界では抗生物質も何もないので、細菌が入ったら一巻のおしまいです。どこか話のつきそうな場所で湯冷ましをいただきましょう。この時代の地下水は危険ですから」

 的確な瞬の判断。そして先ほどの動き。

「いろいろ、お気がかりなのは当然ですね。私自身もよくわからないのです。何とかしなきゃと思った次の瞬間に地面に落ちた匕首を拾っていたました。そしてその後は体が勝手に―――”令和”の時代には料理人かなにかと思っていたのですが、どうもそれだけではないようです。ただ一つだけ言えることは―――」

 傷口を抑えながら、瞬はそうつぶやく。

「よかった―――敬忠様を助けることができて」

 ほほを伝う涙。先ほどまでの雰囲気とは全く違う瞬。

 そっと、敬忠は瞬の頭の上に、左手をのせる。

(いろいろ、考える必要がありそうだな......)

 わずかな月の明かりを見上げながら、敬忠は心の中でそうつぶやいた。


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