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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第2章 江戸にはびこる、美食

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帰路

 暗闇の中を歩く二人。小さな方の瞬が手に提灯をもち川沿いの道を照らす。

 何かとても疲れたような顔をして二人はとぼとぼと道を行く。二人は言葉も交わさない。

 あまりに不思議な―――というかあざとさすら感じられた『極喰無尽』の全席フルコース。そもそもこの世界に存在しない料理法をどのようにして確立したのか。食材は何とか手に入るとして、それをどのように手に入れたのか。そもそもなぜこのようなことを『極喰無尽』はやっているのか。そして誰がこの会を運営しているのか―――

 宴の最後に一人の男性がそっと障子をあけて入ってくる。きちんとした身なりの―――総髪の男性である。年のころは敬忠と同じくらいであろうか。

「本日の無尽を取り締まりましたのは、こちらなる本会『副統領』の恵美押延殿でございます。主催者よりご挨拶をさせていただきます」

 主人がそう説明する。総髪の恵美と呼ばれた男性は正座をしたまま深々と頭を下げる。

「ご挨拶が遅れて申し訳ございませぬ。厨房にて指揮をとらせていただきましたので、最後まで来ることができませんでした。本日は新たなご参加の方がおられるとのこと、うれしい限りでございます」

 礼を直ると、微笑みながら敬忠のほうをじっと見つめる恵美。視線の圧力に敬忠は口を開く。

「この場では参加者は名乗らぬが決まりのようなので、失礼いたすが......とても結構でございました。まったく見たことも当然食べたこともないものでただただ感激のあまり.....」

 なるべく、平静を装う敬忠。先ほどから感じる不安感がそうさせたのかもしれない。ほう、とにこやかに敬忠の感想を聞いた後、恵美という名の男は障子の外へと退出していった。

「敬忠様」

 瞬の声。ん、と敬忠は答える。

「お気づきですか」

 静かに頷く敬忠。

「今日の料理―――そして、あの『副統領』とかいう......奴めの態度。多分、我々が”令和”のより来たものであると察していたような―――」

 次の瞬間、瞬は提灯を目の前に放り投げる。道路に提灯が落ち燃え上がる。照らされた先には人影が3つ。手にはギラリと光る短いものを持って。

 無言で鯉口をきる敬忠。太平の世において、剣術は武士ですら学ぶものが少なくなっていたこの時代、敬忠は”趣味”としてある程度の技術を身に着けていた。とはいえ実戦は経験したことがない。形稽古が通用するのかも怪しいものであった。

 一人が両手で匕首を構え突進してくる。瞬をかばうようにそれをかわす敬忠。抜刀した刃を手首に振り下ろす。

 悲鳴とともに匕首を落とす敵。傷は深くはないようだ。それにほっとする敬忠。踏み込みを躊躇したのもあるのだろう。それを見計らったようにほかの二人が突進してくる。

 敬忠はただ、瞬の前に立ちはだかりそれを受け止めようとしていた―――


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